<ガンバ大阪・定期便68>三浦弦太が示した『完封で勝つ』ことへの執着。
■待ち望んだ約3ヶ月ぶりの完封勝利。
長いシーズン、本格的な暑さとの戦いにもなる夏場は、こうした試合を強いられることもある。J1リーグ20節・京都サンガF.C.戦の後半、特に先制点を奪ったあとは、そんな印象を抱く展開になった。ガンバがボールを保持する時間はほとんどなく、前線からの圧力を強め、インテンシティの高さを全面に押し出してきた京都に押し込まれる時間が続く。80分を過ぎると足をつる選手が続出。湿度78%を記録した蒸し暑いピッチで、半田陸、三浦弦太、クォン・ギョンウォンが繰り返し、足を伸ばしたり、冷水をかけて足を冷やしたりする姿も。最後は石毛秀樹、江川湧清を投入する中、ダワンを3バックの1枚に落とした5-4-1で守備を固め、ほとんどの時間帯を全員が自陣でプレーしながら、福田湧矢の挙げた虎の子の一点を守り切った。
そうした厳しい戦いの中で目を引いたのがセンターバックの三浦がゴール前で見せ続けた『執着』だ。ゴール前の混戦でも、際どいプレーでは必ず足を伸ばしてボールを弾き返し、体を投げ出して壁になる。
「今日の暑さと、試合展開を含めてハードな試合になったし、全員がハードな体の状態ではあったんですけど、粘り強く、足をつりながらも戦い切れたことが勝利につながった。この先も夏場は、きっと今日のような苦しい試合が増えますけど、インテンシティを落とすことなく戦いつつ、京都のような(戦いを仕掛けてくる)相手にも、もう少し自分たちのやりたいサッカーができるようになれば、より一層いいゲーム運びができるはず。つまりは、強度の部分を変えずにサッカーの質の部分を上げていけたら、夏の戦いももう少し楽になるのかなと思います」
試合前に話していた通り、この日の相棒で、リーグ戦では7試合ぶりの先発出場となったクォン・ギョンウォンと『言葉』の役割を分担しながらDFラインを統率した。
「ディエゴ(クォン)も日本語は話せますけど、あくまで外国籍選手なので。そこは自分がしっかりと言葉を発してコントロールしなきゃいけないと思うし、逆にディエゴは外国籍選手とコミュニケーションが図れるという利点があるので、うまく繋ぎ役になってもらえたら、と思っています。以前にディエゴと組んでいた時より、今はチームとしても、全部が全部、後ろから繋ぎ倒すばかりではなく、状況によって割り切って長いボールも使いながら、でも相手陣地でボールを保持しながら、というサッカーをしている。そこの使い分けは今節も必要だと思っているし、特に京都はショートカウンターが得意なチームなので、そこへのチームとしての対策、狙いもしっかり頭に入れてプレーを判断していきたいと思います。今はチームの流れもいいし、それに連動して個々のコンディション、パフォーマンスが良くなっている状況がある。誰が出てもこれを継続できるように、ヒガシくん(東口順昭)を含め、後ろから、チームをコントロールしていければと思っています」
結果的に京都戦はいつもよりセンターバックから、あるいはゴールキーパーからロングボールを前線に送り込むシーンが多かったのも、三浦の言う対策の1つだったということだろう。それについては試合後、ポヤトス監督が『狙い』だったと明かした。
「相手は5対5で、前からプレッシャーをかけてはめ込んでくるということと、センターバックからサイドバックにパスをしたところを確実に狙ってくるという情報があった中で、相手が前からのプレスをかけてきた時にどこにスペースがあるのかといえば、FWやインテリオールが空いてくるというのは伝えていた。それを選手がしっかりと共通認識として持ちながら、どこにスペースがあるのかという認識のもとで判断し、試合を進められた(ポヤトス監督)」
もっとも、そのタイミングや判断についてはまだまだ改善の余地はあるはずで、そこは『出し手』だけではなく『受け手』との連携をより深める必要はある。それでも、前節の横浜FC戦は『無失点』ながら勝ち切れなかっただけに、今節はそれが勝利につなげられたことを喜んだ。
「DF陣にとっては、無失点で勝てたことが一番嬉しい。苦しい時間帯もありましたけど、なんとか結果につながってよかったです。前節もそうだし、今節も、次の柏レイソル戦もそうですけど、似たような順位、勝ち点の相手に対して勝ち点を積み上げていくことは、この先の戦いを考えても非常に重要なこと。前節は勝ち切れなかったですけど、アウェイの難しい展開の中で勝ち点1を拾い、今節はホームの試合で勝ち点3を積み上げられた。次のホームでの柏レイソル戦もまたしっかり勝ち点3を獲れるようにやっていきたいです」
■選手としての価値は、ピッチで示す。
三浦にとっての今シーズンは、例年とは違う悔しさも味わいながら進んできた。ガンバでの過去6シーズン、ケガ以外の理由でスタメンの座を明け渡したことはほとんどなかった彼が、今シーズンは5月の戦いのほとんどを控えメンバーとして過ごしたからだ。
「チームとして結果が出せていない責任は自分にもあると思っているし、こういう状況で監督がメンバーを始め、いろんな試行錯誤をするのは当たり前の判断。今はとにかく自分のことよりチームが勝つことを一番に考えています」
その渦中にあっても三浦からネガティブな言葉を聞くことはなかったが、一方で「出たらやれる、という自信はあるので、それをプレーで表現するための準備をし続けます」と話していたのは、自身の価値を示すのはピッチに他ならないと考えていたからだろう。その5月を経て、リーグ戦では5試合ぶりに先発に復帰した16節・アビスパ福岡戦で約3年ぶりのゴールを叩き込んだことも、その試合後、珍しく声を枯らしていたことも、そのプライドを示したものだと受け止めている。
加えて、そんなふうに自分の価値をピッチで証明することを意識してきた三浦だからこそ、今シーズンのリーグ戦では1度しか完封勝利を挙げられていないことに、課題や物足りなさを口にしていたのも事実だ。京都戦の前にも、センターバックらしい言葉でその胸の内を表現していた。
「ダニ(ポヤトス監督)のサッカーにおいてより攻撃への意識が強まっているとはいえ、DF陣としては、やっぱり4-3で勝つより1-0で勝つ方がいいというか。点が入るに越したことはないんですけど、そこにプラスして『無失点で勝つ』ことへのこだわりはやっぱりあります。だからこそ、僕ら後ろの選手は、攻めている時ほどリスク管理を徹底しなければいけないし、前節の横浜FC戦のように押し込まれても最後は、何が何でもやらせない、体を張るということをやり続けたい。後ろがゼロで終わることさえできれば、絶対に勝ち点は積み上げられるし、長いリーグ戦ではいずれそれが必ず活きてくる。だからこそ、この先もこだわり続けたいです」
その言葉通り、最後は苦しい展開ながらも、耐え凌ぎ、1-0で締め括った京都戦。7分と表示された後半アディショナルタイムに突入した直後、ゴール前の混戦から相手に放たれたシュートは三浦の気迫のスライディングで食い止めたものの、逆に5分には彼のクリアミスが相手選手に渡ってシュートを打たれ、ヒヤリとさせられたシーンも。喜びに水を差すようで申し訳ないと思いながらも、おそらくはこの日、三浦が守備で犯した初めてのミスについても聞いてみる。蒸し暑さと疲労が重くのしかかる試合の最終盤に起きたミスを彼はどう受け止めたのか。
「体の状態としては正直、キツい時間帯でしたけどああいうところが本当に試合(の結果)を左右するところ。切らさずにやらなきゃいけないシーンだったし、そこは次の試合でも意識しなければいけないと思っています。シーズンには『流れ』というのが絶対にあって、今はその流れがうちに来ていることも、ああいうミスが失点につながっていかない理由の1つ。裏を返せば、前節もそうですが、流れがいい時は、厳しい時間帯、相手の決定機に全員が自信を持って向き合えているし、それが守り切ることにもつながっている。だからこそ、この流れを切ることがないように、しっかりと気を引き締め直して上に、上に上がっていけたらと思っています」
ガンバが『負けなし』の戦いを続けるこの6試合、センターバックは三浦、クォン、福岡将太、佐藤瑶大が組み合わせを変えながら最終ラインを支えてきた。残念ながら佐藤は17節・FC東京戦で左肩を痛めて離脱を余儀なくされているが、それぞれに役割を全うし結果を残してきたことを思えば、今後も競争は間違いなく熾烈を極めるだろう。その中で長きにわたってガンバのセンターバックに受け継がれてきた『5』を背負い、DFリーダーとしての存在感を示してきた三浦が、どんなプライドを示すのか。それはすなわち、ファン・サポーターにとって、彼の進化を楽しむ時間になる。