富士山はなぜ日本一高いのか:巨大火山が並ぶ富士火山帯
日本最高峰でバリバリの活火山である富士山は、550立方キロメートルという体積でも他の火山を凌駕する。東北地方で大きい火山と言えば八甲田山や榛名山だが、それでも180立方キロメートル程度だ(図1)。なぜこんなに富士山は大きいのか?この謎を、昨年公開された私たちの論文に基づいて考えてみよう。
巨大火山が林立する富士火山帯
日本列島には、太平洋プレートとフィリピン海プレートが潜り込むことで111の活火山が密集する(図1)。特に北海道・東北・関東地方では、太平洋プレートが地球上で最も高速で沈み込んでいるために、マグマの発生に必要な水がどんどん供給されて世界一の火山密集域となっている。しかしこの辺りの火山はいずれも小ぶりだ(図1)。もちろん燧ヶ岳、鳥海山、岩手山など2000メートル級の高山もあるが、これらの火山は盛り上がった地盤の上にチョコンと乗っているだけで、火山そのものはそれほど大きくない。
一方で伊豆半島から南へ伸びる伊豆・小笠原・マリアナ弧(それぞれの英語の頭文字をとって「IBM」と呼ばれる)言い換えると富士火山帯では、平野や海底面から聳り立つ正味の火山だ。従って、その体積は圧倒的に大きく、富士山よりはるかに巨大なものや、同程度の大きさの火山がIBMには林立している(図1)。陸上では富士山が国内最高峰なのだが、「山」の高さという点では、新島が誕生した西之島火山や、北硫黄島火山が富士山を上回っている。
東北とIBMで太平洋プレートの沈み込む速度はそれほど変わらない。だから単位時間当たりのマグマの発生量はほぼ同程度であるはずだ。それにもかかわらず、IBMでは巨大な火山が形成されるのはなぜだろうか?
巨大火山ができる理由:マグマの上昇と噴火のメカニズム
地球内部で発生したマグマが上昇するのは、周囲の岩石より軽く浮力が働くためだ。マグマはこの浮力で岩石を破壊しながら地殻内を上昇する。しかし、地殻を構成する岩石は浅くなると軽くなるために、マグマは周囲の岩石と同じ重さになった時点で浮力を失い上昇はストップする。これが「マグマ溜り」の形成だ(図2)。ここではマグマが徐々に冷えて結晶化が進む。この時、結晶には水はほとんど含まれないので、マグマの中では結晶以外の液体部分に水が濃集する。一方でマグマ中に溶け込む水の量には限界があり、これを超えると水は「アブク」となって発泡現象が起きる。アブクは水蒸気、つまり気体だから軽くしかも体積も大きい。従って、マグマ溜りで発泡が起きると、マグマは一気に膨張して軽くなり、このために周囲の岩石を破壊して急上昇、つまり噴火が起きるのだ(図2)。
ここで、深さが違う2つのマグマ溜りを考えてみよう(図2)。もちろん元々は同じ量の水がマグマに含まれており、マグマ溜りの大きさ、つまりマグマの量も同じだとする。この場合、浅い方のマグマ溜りでは、深いものより低い結晶化程度で発泡現象が起きる。なぜならば、水などの揮発成分は圧力が低い(=浅い)ほどわずかしか液体に溶け込まない(溶解度が低い)のである。このことは、ビールやシャンパンの栓を開けると(=圧力が下がると)、泡と共に中身まで噴き出す現象と同じだ。
従ってマグマ溜りが浅いと、少し結晶化しただけで発泡し、多量に残っている液体のマグマが噴出することになる。つまり、大きい火山ができるのだ。もしこのことがIBMにおける巨大火山の出現の原因であるならば、IBMの方が東北地方に比べて平均的に地殻が重いために、マグマ溜りが浅い場所に作られていると予想できる。
図2では、観測で得られた地震波の伝わる速度から求めた地下の密度分布と、計算や実験によって求められたマグマの密度変化の比較をした。この図から、IBMでは深さ5キロメートル弱にマグマ溜りができるのに対して、東北日本では15キロメートル、場合によっては20キロメートルもの深さでマグマは一旦滞留し、マグマ溜りを作ってしまうようだ。そのために発泡現象とそれに続く噴火が起きる時点で、IBMの方がずっと多量の液体のマグマが残っており、この多量のマグマが噴出して巨大な火山となると考えられる。こうしてIBMには巨大海底火山が林立し、富士山が(陸上では)日本一高く大きくなった。