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【三国志】もし現代に使われたとしても極めて有効?戦うことなく敵勢力を崩壊へ導くおそるべき計略・3選!

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

今や世界レベルで人気を誇る・古代中国の乱世をもとに描かれた、三国志演義。一騎当千の武将たちがバチバチと火花を散らし、激突する展開は大勢の心を惹きつけてきました。

一方で自ら武力は振るわないものの、知力で敵を撃破してしまう軍師たちの策略も、あっと驚かされる1つです。ズバリと刺されば、大ピンチに追い込まれていた側が、戦わずして敵を崩壊させてしまうこともあるほど。

人間の心理を巧みに利用して実行される計略の数々は、古代中国のみならず、仮にこの現代に使われたとしても、有効と思われるものも多数あります。

そこで、この記事ではそうした計略を3つ(プラスα)で、ピックアップしてお伝えしたいと思います。ある意味で今に生きる私たちの教訓にもしながら、お読みいただけたら幸いです。

①二虎競食(にこきょうしょく)の計

三国志とはそのタイトルとは裏腹に、中国の統一を目指す幾多の勢力が、しのぎを削る時期のエピソードが長く、3つの国に絞られるのはかなり後半になってからです。

前半の情勢ではうかつに誰かと戦って消耗すれば、たちまち他の武将に襲われるリスクも高く、その状況をどう勝ち残るかの駆け引きが繰り広げられます。

そうした中、曹操(そうそう)という武将の軍師が仕かけたのが、この計略。“2匹の虎が喰らい合う”という名の通り、強い勢力同士が互いに戦い合うように仕向ける作戦です。

いわば“漁夫の利”を人為的に引き起こす策略で、三国志では皇帝の命令を利用し「〇〇を討伐すれば、地位を与える」という誘惑を利用して、争わせようとします。

なお歴史上、この計略は他の国でもしばしば使われ、たとえば偽の文章やスパイによる扇動などを駆使して「〇〇が自国へ攻め込もうとしている!」といった情報を、2つの勢力へ拡散。互いを敵視させた上で戦端が開かれるきっかけを放り込み、衝突へ誘うといった手法も“二虎競食”といえるでしょう。

三国志演義においては結局は失敗しますが、この計略をさらに発展させ、3つの勢力にまでターゲットを拡大した上で(呂布、袁術、劉備)2段目が仕かけられました。これは全面衝突の寸前まで行くのですが、呂布がとっさに機転を利かせて、これも失敗に終わる結末となりました。

ちなみに、これは情報が発達した現代こそ、むしろ発動しやすい策略かもしれません。本当に自分の国が狙われているならば、十分に気をつけなければいけませんが・・不自然に煽るような情報が湧いてきたときには、誰かが“二虎競食”を仕かけていないか、気をつけた方が良いかも知れません。

②美人の計(+ご馳走攻めの計)

じつは三国志の中で最も威力を発揮している計略こそが、この“美人の計”と言えるかもしれません。通常、物語では強力な悪役ポジションとして董卓(とうたく)曹操という2人の武将が登場しますが、前者は内部崩壊させられて滅亡。後者は優秀な跡取り息子が戦死するなど、大ダメージを負うハメとなっています。

当時、有力な為政者はほぼ男性であり、その名の通り“絶世の美女”を用いて、対象を崩壊へ誘ったり、本来の思考力を封じてしまう、この計略。董卓は最強にして切り札の配下武将と、美女をめぐって争うように仕向けられ、結局は反乱を起こされて滅亡。

曹操は美女に夢中になっているところ、屋敷を囲まれて攻撃され、命からがら脱出という憂き目に合っており、1歩まちがえれば本人が討ち取られ、歴史そのものが大きく変わってしまっていました。

なお、この策略は三国志の主人公たる、劉備(りゅうび)も仕掛けられており、孫権(そんけん)という武将の妹で、30歳も年下の美女と縁談の話を持ちかけられます。孫権サイドとしてはあわよくば、やってきた劉備をスキを見て暗殺する企てをしますが、これは失敗。

すると次は、自領の屋敷に滞在する劉備を、逆にもてなし始めます。まいにち信じられないほどのご馳走が出され、周囲に要望や欲しいものを口にすれば「はい、ただちに!」と叶えてもらえるのです。

こうして快楽堕ちに誘うという、ある意味で誰もが仕掛けられたくなってしまう計略ですが・・殺伐とした戦場を生き抜いてきた身に、この作戦は効果てきめん。

劉備は「ああ、こんなにも幸せなら、志など忘れてこのままで良いか」などと思いかけてしまうほどでしたが、物語では正気に戻され、孫権の元から脱出する流れとなります。

現代でも色仕掛けやハニートラップで、しばしば有名人の失墜などが起こりますが、何千年を経てもなお変わらない、人間の性(さが)を突いたおそるべき計略といえるでしょう。

③苦肉(くにく)の計

自国の内通者やスパイを送り込んで、ターゲットを混乱や崩壊に導く作戦は、いつの時代も有効な策略です。しかし敵も「こやつは本当に味方なのか?」と疑いますから、成功も難易度が高い計略といえます。

そうした中で使われたのが、この"苦肉の計”です。前述の孫権は領地を大河が流れるなど、“水”を守りの要としていましたが、そこへ曹操の圧倒的な大水軍が攻め寄せ、大ピンチに陥ります。

そうした中、孫権軍の黄蓋(こうがい)とう有力武将が、とつぜん軍内の規則に背いたとして、拘束されます。そして全員の見る前で見せしめのように、気絶するまで棒で打ちすえられる刑罰を受けたのです。「これはひどい、さすがにやり過ぎなのでは」。見ていた諸将の多くはそう思いました。

ほどなくして曹操のもとには、この黄蓋が傷だらけの体で姿を表します。そして「私は孫権軍の中で理不尽な仕打ちを受け、もう我慢がなりません。かくなる上はあなたに味方して、この恨みを晴らしたい」と申し出ます。

曹操は「ここまでされたなら無理もない」と受け入れますが、実は理不尽な刑罰から1連の出来事が、すべては孫権サイドの作戦でした。黄蓋は不意をついて曹操軍の船団に火を放ち、壊滅させてしまったのです。

このことで、この戦い(赤壁の戦い)は孫権軍の大逆転勝利に終わりました。「まさか自作自演で、ここまではできないだろう」。その思考の裏を見事についた計略でした。

武力を上回る知恵

以上、ここまで3つ+αにて三国志の物語で発動された、おそるべき計略をご紹介しました。ときにたった1人の知恵は、巨大な組織をも打ち崩してしまうことがあるのです。

エピソードとしては面白いですが、逆に現代でも自分たちに仕掛けられていないか、特にそれなりの地位にある方は、気をつける教訓にした方が良いかも知れません。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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