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給付金、問題は所得制限だった!高所得層排除は「子育て罰」、中所得層の児童手当削減も加速する

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

1.子育て世帯給付金、高所得層排除は「子育て罰」

クーポンか現金かより問題は所得制限

夫婦合算700万円・中所得層も児童手当削減のターゲットに

国会では、子育て世帯給付金に関する論戦が盛り上がっていますが、クーポンか現金かという論点にフォーカスしすぎており本当に大事な論点が忘れられています。

本当の問題は所得制限にあります。

今回の子育て世帯給付金は世帯主の年収960万円以上の世帯が排除されています。

自民党・財務省、そして維新・吉村知事や世論の高所得層バッシングの中で、なし崩し的に、子育てをする高所得層が排除されてしまったのです。

自治体にとっては、同じ自治体に住む子どもたちを差別することになり、所得制限をなくす判断をした自治体もあります。

秋田県横手市、茨城県小美玉市、埼玉県吉見市などが所得制限をなくし全子育て世帯に給付金を支給する報道がありますが、これらの自治体は子育て罰をやめることのできた先進自治体ということができるでしょう。

憲法第14条第1項に定める法の下の平等は、子どもたちに対しては適用されないのか、考えさせられる課題でもあります。

2.自民党・財務省が着々と進める子育て世帯の排除、ターゲットは高所得層から中所得層へ

今回は、世帯主の年収960万円以上の子育て世帯が排除されました。

来年2022年秋からは世帯主の年収1200万円以上の世帯の児童手当がゼロになります。

今回の高所得層バッシングは財務省とそれに近い自民党議員に児童手当削減の恰好の理由を与えることになってしまいました。

児童手当の所得制限は国会を経ず内閣府(2023年以降はこども庁)の決定だけで所得制限が切り下げられれます(児童手当法附則第2条)。

自民党と財務省は、高校無償化と同様に夫婦合算年収910万円以上の世帯を児童手当からも排除し、いずれは夫婦合算700万円以上の世帯も児童手当から排除するリスクが高いことは、すでに拙著『子育て罰』(立命館大学・桜井啓太氏との共著)で指摘しました。

財務省と財務族の自民党議員の圧力により内閣府(こども庁)の独断で、夫婦合算700万円世帯までも児童手当から排除される未来が来てもおかしくありません。

今回の給付金での高所得層排除の論争は、このような中所得層までの児童手当削減の議論を活性化させてしまうリスクを高めました。

実は2021年の法改正のときに児童手当は、所得制限を一回超えると「資格停止」ではなく「資格喪失」という高所得世帯を明確に排除するで厳しい規定が導入されたのです。

「資格喪失」すると、仮に年収が下がって所得制限対象外になっても、自治体に自ら申請しないと児童手当を二度と受けとることはできません。

こども庁でプッシュ型支援が実現されても、一回高所得層になってしまえば二度とその支援が受けられない制度設計といってもよいでしょう。

とくに今回、子育てする高所得層の排除に積極的だった自民党、日本維新の会などは、積極的に中所得層までの児童手当削減を打ち出すかどうか、今後の議論を注視する必要があります。

児童手当からの中高所得層排除は参議院選挙での子育て世帯の投票行動にも関わる重要事項です。

3.国民なくして国家なし、超少子化の日本で子育て世帯支援に所得制限は設けてはいけない

すべての所得階層で子どもを産み育てやすい国にしなければ日本の衰亡は加速

橋下徹氏ら現金給付不要の超富裕層には「辞退」制度を

大学生が日本学生支援機構も借りられない高所得層差別

日本では高所得子育て世帯へのバッシングがあまりにもひどすぎます。

そもそも年収960万円や1200万円を高所得と言わねばならない低賃金構造を悪化させた政治責任の追及と賃金改善のほうがよほど重要ではないでしょうか。

高所得層は累進課税制度のもとで、高額の税金・年金・社会保険料を納め、子育てでも次世代の日本国民の育成に貢献している人々です。

子育て世帯へのあまりに手薄い支援の中で、子育てを頑張っている中所得層・低所得層も、次世代の国民育成という意味で国家に貢献しています。

国民なくして国家はありません。

超少子化の日本では、所得制限に関わらず子育て世帯を支援することで、どの所得階層でも子どもを産み育てやすくしなければ、国家の衰亡は加速するだけです。

橋下徹氏や谷原章介氏、吉村大阪府知事などが、高所得子育て世帯当事者として給付金はいらないと発言されましたが、年収が数千万(もしかして億単位)を超えるような世帯と、都市部で年収1000万円程度でなんとか子育てしている世帯とを同列に論じることもおかしなことです。

いらないとおっしゃる超富裕層のために、児童手当や教育の無償化を含め「辞退」の制度を設ければよいのではないでしょうか。

またこの国では、親が年収1100万円を上回れば大学生が日本学生支援機構も借りられない高所得層差別が起きています。

親子仲が決してよくない若者が自費で学びたくても、親が高所得という理由で差別されることを当たり前にしても良いのでしょうか?

もちろん財源の確保は、複数の専門家が指摘しているとおり、企業法人拠出・資産課税・子ども保険など多様な安定財源で賄う必要があり、児童手当にせこい所得制限を課す前に、こども若者のための財源論こそが、政治とくに与党の役割ではないでしょうか?

そもそも年収900-1000万円代の世帯は高所得層でしょうか?

住宅費・物価の高い東京都・神奈川県等都市部に集中しており、決して生活は楽ではない人も多いはずです。

高所得層だから給付金や児童手当をもらうのはおかしい、という議論があまりに乱暴にされていることに私は懸念を覚えます。

日本をワンチームに例えるならば、チームの収入(税金・年金等)でも貢献し次世代のチームを育てる人々をやっかみ排除するようであれば、次世代のチームは維持できるでしょうか?

公明党をはじめとする主要政党(自民党・維新以外)が子育て給付金で全世帯給付にこだわったのも、日本をチームとして維持していくためにはどうすれば良いかという国民全体の利益のことを考えたからだと私は受け止めています。

4.分断ではなく統合のための現金給付へ

給付金騒動はあらゆる国民を分断

困窮層支援とともに「所得制限のすそ野を広げる」

子育て支援は普遍給付を前提に低・中所得層に手厚く

給付金騒動が日本につきつけたのは、この国はいま国民の統合に失敗しており、あらゆる国民が分断されているということです。

では現金給付をどのように政治や行政で扱えばよいのでしょうか?

政府による所得再分配の原則は格差の拡大を防ぎ、改善することにあります。

現金給付はまず困窮層支援から議論され設計されるべきです

その際に住民税非課税世帯かどうかで区分するような「所得制限の崖」を緩和し、住民税非課税世帯の外側で支援が打ち切られ実はとても苦しい世帯に対しても「所得制限のすそ野をひろげる」制度設計も重要でしょう。

所得制限によって、稼いでもかえって苦しくなる世帯が出現することは内閣官房・規制改革・行政改革担当大臣直轄チーム分析レポート によってもあきらかにされています。

※磯 龍・天達 泰章,2021,共働き世帯における社会給付、負担を考慮した所得の逆転,規制改革・行政改革担当大臣直轄チーム分析レポート No.2

児童手当の所得制限による高所得世帯の可処分所得逆転現象、磯・天達2021,p.5
児童手当の所得制限による高所得世帯の可処分所得逆転現象、磯・天達2021,p.5

就学援助と国民年金保険料による低・中所得世帯の可処分所得逆転現象,磯・天達2021,p.8
就学援助と国民年金保険料による低・中所得世帯の可処分所得逆転現象,磯・天達2021,p.8

高所得層でも低・中所得層でも、子育て世帯では児童手当や年金保険料の「所得制限の崖」により、稼ぐことでかえって苦しくなる世帯が発生しているのです。

繰り返しますが、超少子化の日本では子育て支援はすべての子どもへの普遍給付を前提に低・中所得層に手厚くしていくことが必須です。

低所得層・中所得層の児童手当・出産費用の無償化・大学の無償化等も、もっと手厚くしなければ若い世代が結婚・出産を選べる国ではなくなっているのです。

その際にも夫婦合算年収700万、960万円、1200万円などで一気に支援額が下がり、子育て世帯の就労意欲をなくすような制度ではなく、所得の増減に対しなだらかに対応できる「所得制限のすそ野をひろげる」制度設計が必要になります。

日本では超少子化が国防・経済成長も含め国家安全保障上の課題であることはほとんど理解されていませんが、野田聖子少子化担当大臣もインタビューで強調されているように国家にとっての危機なのです。

※西井泰之,野田聖子氏が明かす“こども庁”構想の全貌「子ども政策にGDPの3%を」(ダイヤモンドオンライン・2021年12月7日)

外国人差別も強く賃金も低い日本は、外国からの移民にも選ばれやすい国ではありません。

オートメーション化による技術革新が起きるとしても、そのイノベーションを生み出し維持するのは子ども若者たちなのです。

今回、高所得子育て層バッシングをした大人たちが、超少子化が進み移民労働力も確保できず必要なサービスすら受けられない20年後30年後の日本で後悔しても遅いのです。

高所得かどうかにかかわらず、子どもが産み育てやすい、子育て罰のなくなる国づくりに国民一丸となって取り組めるか、政治家だけでなく日本の大人の力量が問われています。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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