コロナ禍の「新型フードロス」と戦う東京・神田のラーメン店の裏側
新型コロナウイルスの影響により、飲食店が休業・時短営業に追い込まれ、大打撃を受けている。メディアでは飲食店の悲痛な声を届けているが、飲食店だけでなく、食材の生産者をはじめとする取引業者や流通業者のダメージも甚大であることを忘れてはならない。
「新型フードロス」とは?
生産者で今大きな問題になっているのが「新型フードロス」である。
これまでのフードロスとは、規格外の食材や、仕入れ時や配送時に傷がついて廃棄になってしまう食材が中心であった。しかし、現在はそれに加えて、コロナ禍による消費減退によって生み出されたフードロスの問題が浮かび上がっているのだ。
休業や時短営業により、飲食店の仕入れが減少し、卸売業者は在庫過多になる。そして、それに連鎖するように生産者も在庫過多になり、買い手が付かず廃棄になってしまう食材が大量に発生しているのである。
これがコロナ禍による「新型フードロス」である。
居酒屋で仕入れを減らしていた魚の使い道を模索
都内でレストランや居酒屋事業を展開する株式会社MUGENという会社がある。
ここに「新型フードロス」によって残された魚の使い道についての相談が生産者・仲卸業者から入った。
MUGENの展開する居酒屋も休業・時短営業により、仕入れを減らしていた。本来ならば居酒屋で提供していた魚がもしかしたら廃棄されてしまっているかもしれない。生産者のコロナ禍での大変厳しい現状を知り、MUGENは本来なら廃棄されてしまう海の富をどう活かしていくべきか議論した。
その頃、たまたま新橋にある「倫道」というラーメン店と出会う。昨年末にオープンした、焼き魚のペーストをスープにして仕上げたラーメンで話題の店である。
魚を炭火で焼き、頭から尻尾まで全てを無駄なくペーストにしてラーメンにすれば、「新型フードロス」によって残された魚が使えるのではないか、そう考えたMUGENのスタッフは、ラーメンの開発に着手する。
炭火で焼いた魚を頭から尻尾まで無駄なく使ったラーメン
MUGENは「倫道」にレシピを教えてもらい、炭火焼濃厚中華そばを作り上げた。
こうしてオープンしたのが東京・神田にある「炭火焼濃厚中華そば 海富道(しーふーどう)」である。「倫道」の暖簾分け店として5月にオープンした。
スープはアゴ(飛び魚)出汁をベースとし、魚の頭から尻尾までをまるごと使用した炭火焼きの特殊ペーストを合わせる。店内で魚を炭火焼きし、ペーストを作ってスープと合わせている。炭火焼の香りと出来立ての美味しさが特徴だ。スープには動物系を使用せず、魚100%。動物系で厚みをつけなくても濃厚で旨味の深いスープを完成させた。
「倫道」で提供している「鯖」「鰯」「鮭」に加え、「海老」「烏賊」をラインナップした。
鮭と海老(甘エビ)は、飲食店からの受注が減り、賞味期限が切れかけて廃棄に回されてしまう可能性のあるフードロス商品を早めに仕入れて活用している。甘エビは一杯につき40〜50匹分の頭を使用していて、ドロドロ感はないものの、海老の旨味がこれでもかと主張するスープに仕上がっている。
鰯と烏賊(するめいか)は、通常ならば捨てる部位を余すことなく特殊ペースト化している。丁寧に炭火焼きすることで臭みが出ず、濃厚でパンチのあるスープに仕上がる。
「新型フードロス」に出会わなければMUGENがラーメンに乗り出すことはなかったかもしれない。新たな社会問題を解決する先に「海富道」の挑戦がある。
※写真はすべて筆者による撮影