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大きなお腹に気を取られていたら口パクをしていた。スーパーボウルのリアーナがアメリカで話題

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 1年で最高の視聴率を誇るアメリカの祭典スーパーボウルのハーフタイムショーで歌うのは、ミュージシャンにとって最高の栄誉。見る人の数が多いだけに、毎回、良い反響も悪い反響もたっぷり寄せられるものだが、リアーナがパフォーマンスをした今年は(もちろん、ジャスティン・ティンバーレイクとジャネット・ジャクソンが『衣装の問題』を起こした年を別にして)、いつもよりさらに話題を呼んだ。ふたりめを妊娠していることを隠していた彼女が、この晴れの舞台に大きなお腹で登場したからだ。

 ミュージシャンは肌を露出したセクシーな衣装で舞台に立つのが普通ながら、この夜、リアーナは、袖もパンツの丈も長い、体のシルエットを隠した服装で登場。だが、動くうちに彼女の下腹部が出ているのが誰の目にも明らかになってきて、ソーシャルメディアには「妊娠しているのか?」という声が飛び交い始めた。途中、彼女がまさに妊婦のようにお腹に手を当てると、視聴者は確信。ショーの後、リアーナのパブリシストも、彼女が妊娠していることを確認した。

 このことは、いくつもの意味で驚きだった。昨年5月に初めての赤ちゃんを生んだばかりでもうまたお腹が大きくなっていること自体もそうだが、そのニュースをここまで隠し通せたことが、まずひとつ。このショーのためには当然リハーサルをしていて、ダンサーやクルー、テレビ局の関係者は知っていたのではないかと思われるのに、情報は漏れなかった。ダンサーのひとりが「リハーサル中も全然気づかなかった」とテレビのニュースで語ったところを見ると、そこでもバレないようにと相当配慮をしていたのだろう。

写真:ロイター/アフロ

 それに、こんな形で妊娠を世間に報告したセレブはこれまでにいない。妊娠していながらダンスをこなしたのもあっぱれだし、何より、妊婦がスーパーボウルのハーフタイムショーで歌ったという前例を作ったのは見事だ。1991年、妊娠したデミ・ムーアのヌードが「Vanity Fair」の表紙を飾ったことは妊婦にとってのタブーを大きく破ってみせたが、今回のリアーナも、また前進に貢献したと言える。

「85%は口パクだった」 

 そう感心していたら、そこでもうひとつのことが起こっていたのである。筆者も含め、そのことばかりに気を取られていた人は気づかなかったが、実はリアーナの歌は口パクだったのだ。しかも、気づいた人たちにしてみれば相当にひどいレベルで、ツイッターには「リップシンクをしていることを隠しもしないリアーナに拍手」「これまで見た中で最悪のスーパーボウルハーフタイムショーかも。エネルギッシュさがなくて退屈。リップシンクすらまともにやろうとしていない。ひどい」などというコメントが飛び交った。

 毒舌で知られるラジオ番組ホストのハワード・スターンも、「彼女はなぜ出てきたんだろうね?僕が見たかぎり、85%はリップシンクだったよ」と発言。それを受けて、番組の共同司会者は、「彼女がマイクを膝あたりに下げて、唇が動いていない時も歌が続いていたよね。あれでわかった」とコメントしている。

 しかし、スーパーボウルにおいて、リアーナは決して初めての例ではない。過去にも、レッド・ホット・チリペッパーズがハーフタイムショーで口パクをしたことがバレている。また、やはりハーフタイムショーで歌ったケイティ・ペリーは、「ほとんどの部分はライブでやります」と、口パクが入るかもしれないことを事前に自ら示唆していた。

 さらに、「New York Post」が報じるところによれば、口パクはスーパーボウルの主催者NFLも認めているとのこと。念のために彼らはリハーサルをすべてレコーディングし、本人が本番で使いたい場合は、部分的であれ、全部であれ、使わせるのだそうだ。激しいダンスをこなすシンガーたちの多くは、その選択肢があることを好むらしい。

「やっと出てきたら口パクだったなんて」

 それでも、一般人、とくにファンからすれば、口パクを見せられていたとわかるのはがっかりだ。ツイッターには「全然わからないし興味もないスポーツを90分もがまんして見たのに、リアーナがやっと出てきたと思ったらリップシンクだったなんて信じられない」という声もあった。「リアーナが実際に歌わなかったことをどうして誰も責めないの?口パクをやらせるんだったら誰でもよかったじゃないか」「スーパーボウルはリップシンクを禁じるべきだ」との強い意見もある。

 しかし、前述したようにNFLのポリシーで認められている以上、今後選ばれるシンガーにも、口パクの選択肢は常に残されている。ただ、リアーナの例を見た以上、彼らはもっとうまくやらなくてはいけないだろう。このスーパーボウルを通じて、リアーナは世の中の妊婦に希望を与えただけでなく、シンガーたちに大きなレッスンも与えたようである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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