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手作り目薬の危険性

平松類眼科医
(写真:イメージマート)

 ネット上、特にツイッター上では目薬を手作りするという情報が今出回り、騒がせています。ジュースを作ったりするのと同じ感覚で一見簡単に作れそうな気がしてしまいます。しかし、点眼液というのは難しいところがあり、手作り目薬の危険性について眼科医が解説します。

〇点眼液特有の難しさ

 なぜ手作りの目薬が危険でよくないと言えるのでしょうか?例えば水に塩を混ぜぜて、果汁を混ぜて飲んだら「危ない」と言われません。だからついついその延長線上で目薬を手作りするという方がいるようです。体の中に入れるという事を考えると飲む方が危なそうな気がします。けれども、飲むのが危なくないのに目薬にするとどうして危ないと言われてしまうのか。それは点眼液特有の難しさがあります。それは「清潔に調整するのが困難」・「点眼瓶は菌が入りやすい」・「濃度・pHが重要」という事があります。

 「清潔に調整するのが困難」というのはどういう事でしょうか?一般に言う清潔と医学で言う清潔の意味が違います。一般的には汚れていない手・消毒した手で作れば清潔と思われます。しかし医学的に清潔とは無菌状態で作ることを言います。塩水を作って飲む場合は素手で作ると思います。塩水は作ってもその場で飲んでしまうので雑菌が繁殖したりするリスクが低いからです。けれども目薬の場合は、調整してその場で点眼して終わりというわけではありません。何日も同じものを使う事となります。となると、作るときに清潔にしておかないとわずかに入った雑菌が繁殖します。ペットボトルのスポーツドリンクに口を付けて飲んで、常温で保存、3日後にそのスポーツドリンクを飲んだらお腹を壊しそう、というのがイメージがつくとおもいます。それと似たような状況です。そのため病院などで点眼薬を調整する場合は、清潔操作といって滅菌された手袋を使って使うお水もきれいにして混ぜるものにも菌が混じらないように細心の注意を払って調合されます。それでさえ長期には使えないというのが現状です。

 さらに、点眼瓶は菌が入りやすいという事があります。ペットボトルに入っている水分であると、コップにうつして飲めばあまりペットボトルの中のものが汚れるリスクが低いです。けれども点眼の場合はボトルをおして液体成分を外にだします。するとボトルの中は陰圧といって圧力が低い状態になります。結果として周りのものをボトル内に吸い込むことになります。さらには点眼を相当上手にしないと睫毛につく、目の周りにつく、点眼瓶の先に手が触れてしまう。という事がおこります。周りの雑菌がボトルの中に入りやすいという事があるのです。

 そして濃度の問題があります。点眼液というのは濃度やpHが重要になります。塩水を作って飲む場合は濃く作りすぎてしまうと「しょっぱくてのめない」という事になります。けれども点眼液の場合はかなりしみますが、目にさすことは容易にできてしまいます。しかし目、特に角膜というのは透明な組織です。体の中でも透明な組織というのは少なく微妙なバランスを保っているところです。浸透圧といって周りの塩分濃度とその組織の塩分濃度に差があると、水分は塩分濃度の高いほうにうつるという現象がおきます。本来望まない角膜からの水分が外へと流出するという現象を引き起こしてしまう可能性があるのです。

提供:イメージマート

〇メリットがない手作り目薬

 それだけリスクがあったとしても多大なメリットがあれば目薬をさす意味があります。けれども手作りした目薬は特に有効な成分があるわけでもありません。仮に有効な成分が入っていたとしてもそれが目に浸透していくというのは困難です。そう考えると手作りをした目薬をさすメリットがないという事になります。

 もちろん、どんなものでも「私には効果があった」という人がいるのも事実です。プラセボ効果という現象があります。信頼できる人から出されたお薬だと、仮にその薬に効果がなくても実際にきいた感じがしてしまうという現象の事を言います。そのため新薬の開発などではダブルブラインドといって、処方する医師も患者さんも本当の目薬なのか?偽物のお薬なのか?というのがわからない状況で処方されます。その状況で偽物の薬より本物の薬の方に効果が出た場合「これは薬の効果だ」と判定します。偽物の薬と本物の薬が同程度の効果であった場合、それはプラセボ効果であると判断されるという事があるのです。

 とはいえ自分で目薬をさしたい。そういう場合はどうすればいいでしょうか?もちろん目の症状がある場合は眼科の受診が最善です。そこまででもないという場合は市販の点眼薬を使うのも一つの方法です。

〇市販薬の選び方

 市販の点眼薬というのは清潔な環境下で作られ、目的をもって作られているものです。自分で目薬を作るよりは安全で効果が期待できるので、市販薬を使うのが良いでしょう。

 市販薬にはスイッチOTCといってもともと処方薬だったものが売られている場合と、一般の市販薬とがあります。スイッチOTCの場合は効果としてはやや高いですが使用に制限があり、買える薬局などに制限があるので確認してみてください。

 そのほかの市販薬に関しては手作り目薬よりは安心して使っていただいてよいです。一方で症状があって治らない場合は、市販薬でずっと耐えるのではなくて眼科医の受診も検討してみていただければと思います。

眼科医

医師・医学博士・眼科専門医・昭和大学兼任講師。海外および全国(北海道から沖縄まで)から患者さんが集まっている。登録者6万人以上のYouTube「眼科医平松類チャンネル」にて日々目の健康情報を発信。日経Goodayなどに連載。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等メディアにても情報発信をおこなっている。著書に「1日3分見るだけでぐんぐん目が良くなる!ガボール・アイ」「緑内障の最新治療」など多数あり、累計50万部以上。

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