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【参院選後】加藤勝信大臣に聞く 「子どもの貧困対策、失速しませんか?」

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
一億総活躍担当でもあり、子どもの貧困対策担当でもある加藤勝信内閣府大臣(写真:ロイター/アフロ)

「争点つぶし」「野党抱きつき」と言われた一億総活躍。その中に、子どもの貧困対策も入っている。もしそれが本当だとしたら、参院選後には対策は失速することになる。消費増税延期の余波を心配する声もある。国の子どもの貧困対策は大丈夫なのか。加藤勝信・内閣府特命大臣に聞いた(以下、一問一答。インタビュアー:湯浅誠)

――「子供の貧困対策推進法」公布から3年が経ちました。

この間、政府としては子供の貧困対策推進大綱を策定したほか、昨年は子供未来応援国民運動を開始しました。

また「子供の未来応援基金」を設立し、内閣府では、昨年度の補正予算で地方自治体向けに「地域子供の未来応援交付金」を創設しました(2015年度予算額24億円)。

さらに、6月2日に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」では、今後5年間のロードマップとして、年間延べ50万人分の居場所創設など各種施策を実施していくことをお示し致しました。

それから、6月28日に発表しましたが、「子供の未来応援基金」の募金状況は6億円を超え、企業からは直接の御寄付以外でもクオカードによる寄付付きカードの販売やNTTドコモによるポイントを活用した寄付の仕組みなど支援を行って頂きました。

何事も一瀉千里にとはいきませんが、官民の盛り上がりは着実に作られてきていると思います。

(写真:筆者)
(写真:筆者)

――少子化の中、子どもの貧困率が傾向的にあがっていっている事態に危機感を持っています。日本の将来のため、次世代のために、政府としてできることはどんなことでしょうか? また、子どもの貧困に関しては、経験や体験の欠如、生活費や進学費の欠如、家庭・学校以外の大人との接点の欠如、さまざまな「欠如」が指摘されています。子どもの貧困対策のためには、何が必要とのご認識でしょうか?

まず子供の相対的貧困率が傾向的に上がっている事態は深刻に受け止めています。

他方、相対的貧困率は所得をベースに算定されており、社会保障等のサービス給付が反映されるわけではないので、例えば保育園の質・量を充実させても下がらない。したがって、この指標も含めてさまざまな指標を見ていく必要があると思っています。

格差が固定化しない、貧困が連鎖しない状況を作ることが大事です。

われわれの世代こそが、次の世代が希望をもてる、活力ある社会につなげていく責任があります。次世代に輝かしい日本を引き渡すことは今の世代の責任です。

とりわけ国の責任は、子供たちに日本の将来は明るいんだよということを確信してもらうことだと思っています。

その意味で、一億総活躍社会の実現に向けた取組を一つ一つ積み重ねていく必要を感じています。

特に家庭状況が厳しいと、進学できないとか中退してしまうだけでなく、いろんな状況の中で自己肯定感(夢や希望)を持つこと自体が難しくなります。

『平成26年版子ども・若者白書』でも、自己肯定感が高い方は将来に対する希望をもっている割合が高いという結果をお示ししました。

困難を抱えるお子さんの実態は見えにくいところがあるので、子どもさんや若い方たちの自己肯定感を育めるように、国がやれることは、地方公共団体、企業、民間、地域社会と連携をとりながら注意深く進めていきます。

先日もNPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(代表・栗林知絵子さん)の運営するこども食堂におじゃましました。子どもたちに食事を提供し、学生や高齢者などいろんな人がボランティアなどで来て、地域ぐるみで交流が出来る居場所になっていて、すばらしいと思いました。

いろんな事情を抱えているお子さんがおられます。その事情というのは、多くの場合、複合的で、課題が一つだけということのほうが少ない。そこを慎重かつ丁寧に見極めながら、必要なら声をかけずに見守り、必要なら声をかける。

お子さんたちの事情をよくよく見ながら、とてもよくやっておられると感心しました。

(写真:筆者)
(写真:筆者)

しかも、それだけではないんですね。

そこに来てもらえる子どもたちには手を差し伸べることができるが、それでもまだ、そこに来てもらえない人たちがいる。

プレイパークなどで子どもたちが遊んでいるのを遠巻きに見ている親子がいる。そこに声掛けしていく。それを栗林さんたちだけじゃなくて、地域の人たちがこぞって何かをやってくれるような地域のつながりをつくっていかれている。

そうした一つ一つの積み重ねの中でこそ、食事支援や学習支援が生きてくるのだと思うんです。こうした人たちの活動を、国も地方公共団体も連携しながらしっかり応援していくことが重要です。

そのために、今年度から地方公共団体向けに「地域子供の未来応援交付金」をつくって、自治体が子どもたちの実情を把握し、地域ネットワークづくりの体制整備をできるようにしました。

先ほどの「子供の未来応援基金」などとも並んで、これらの施策を多面的に展開していきます。

――交付金はまだ地方公共団体からあまり応募がされていないと聞いていますが…。

地域の中に気になる子どもたちがいることは、それぞれみなさん気づいているとは思うんです。ただ、実態把握は自分から言い出す人はなかなか居ないし、個人情報の問題もあって難しい。

ですから私も、先駆的に工夫しながらやっている自治体の情報提供を行うなどして、横展開を促しています。

地域の実情に応じた形で施策を打っていくことが大事ですから、そのためにもまずは実態を把握する必要があります。

そのことを国としてもしっかり投げかけ、働きかけていきたいですね。

――選挙も終わり、消費増税も延期で、子どもの貧困対策が失速するのではないかと心配する声があります。

まず消費税による税収は、年金・医療・介護・保育の4分野に使うことが法律で決まっていますので、子どもの貧困対策は消費税の直接の対象ではありません。したがって、消費増税延期の影響も受けません。

子どもの貧困対策に関わる具体的な施策は、アベノミクスによる経済成長であがった税収を当てていく予定です。

税収増だけでなく、失業者が減ることによって失業給付も減りますので、その分も考えます。

歳入歳出両面の成果を活用して施策を打っていく予定です。

また、政府だけでなく国会でも2月に「子供の貧困対策推進議員連盟」が超党派で誕生しました。

与野党を超えて取り組んでいくための態勢が整っています。

さらには企業でも、先ほど触れたように、直接寄付だけでなく、レジに募金箱をおく、ポイントを活用するなど、さまざまな形でのご支援の取り組みが広がってきています。これからも広がっていくでしょう。

「子供の貧困対策推進法」も公布から3年ですから、この機会を捉えて、国の行う支援を充実させていくつもりですし、必要があれば運用も工夫し、改善していきます。

7月中旬には大綱に基づく「子供の貧困対策推進に関する有識者会議」を開催して、この間の施策を検証し、フォローアップしていきます。

こうした流れに加えて、さらに身近にある支援情報を知っていただくための啓発事業も展開します。

特にひとり親のご家庭の中には孤立しがちで、情報が届かないご家庭もあるかもしれませんので、そうした人たちにも支援情報をしっかりと知ってもらい、施策を活用していただく環境づくりも必要です。

私たちは、子どもへの投資は未来への投資だと言っています。未来への投資であるかぎり、さらに施策を進めていくのが当然で、失速することはありえません。

ここで消えるわけがなく、むしろこれからです。

――「野党抱きつき」などではない、と。

安倍政権スタート時から、活力のある社会づくりが必要だと考えてきました。しかし、20年続いたデフレの中で気持ちが守りに入ってしまう。

それは自然なことで、私たちもそうです。

だからこそ、まずそのことを変えようということでアベノミクス三本の矢がありました。

それを続け、かつ少子高齢化を乗り越えるためにも、マンパワーを最大限発揮していただく環境づくりが大切だということで、一億総活躍社会の実現を掲げました。

それが見えてくれば、若い人たちが将来に希望をもてるようになる。希望がもてれば、それが経済にも必ず反映する。そういう信念でやってきたわけです。

ですから、目の前の選挙などということは問題ではなく、私たちはもっと中長期的なスパンを考えてやっています。

もちろん国の予算にも限りはあります。ただ、それだけではなく、企業の寄付やCSR活動、自治体独自の取組や地域における自主的な取組という形での協力もある。

それらをトータルに結びつけて、支援を展開していきます。

(写真:加藤大臣室)
(写真:加藤大臣室)

――まだ安心しきれないんですけど…。

たしかに、昔はもっとお互いに関心もっていたし、地域のつながりもありました。私の小さいころは商店もたくさんあって商店街に活気がありました。そこが変わってきた面はたしかにあります。

しかし、困っている子どもがいる中で、自分にできることがあればやってあげようという気持ちは、みなさん変わらずに持ち続けておられると思うんです。

ただ、どうやったらいいのかがわからない、気持ちはあるが何をやっていいかわからない、ということはあるかもしれません。その気持ちに形を与えていくことが大事だと思っています。

今まさに、地域の大人のみなさんも学生さんたちも、その気持ちを形に変え始めています。そうした動きが全国各地に出てきている以上、当然国も自治体も後押しします。

みなさんの行動に促され、ある意味ではみなさんから後押しもされながら、そこに応えていくのが政府の役割です。

民間の気持ちを実現できるような施策を進めていきます。そこはぜひご安心いただきたいですね。

――ありがとうございました。

社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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