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中国はなぜ、北朝鮮を説得できないーその5つの理由

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2009年10月温家宝総理率いる中国代表団が訪朝し、金正日総書記と会談

中国は陰に陽に北朝鮮に核開発を止めるよう説得しているようだが、北朝鮮は全く聞く耳を持たない。中国に配慮し、自制するどころか胡錦濤政権下で2度(2006年10月と2009年5月)、習近平政権下ですでに3度(2013年2月、2016年1月と9月)も行っている。

北朝鮮を説得できない理由の一つは、影響力に限界があることだ。

北朝鮮と中国は1千数百キロに及ぶ国境を接していることもあって歴史的にも地理的にも近く、中国がソウル五輪に参加するまでは同盟関係にあった。しかし、1988年に中国が北朝鮮のボイコット要請を無視して、ソウル五輪に参加し、4年後の1992年に韓国と国交を樹立したことから同盟関係は崩れ、北朝鮮に対する影響力が半減してしまった。

北朝鮮は中国が韓国を承認したことを「背信行為」と受け止め、また中国の改革・開放路線を「社会主義を離脱し、資本主義の道を歩んでいる」と見なしている。米国が一時、提唱していた米中と南北による4者会談への中国の参加を最後まで反対していたことからも明らかなように北朝鮮は中国に絶対的な信頼を寄せていない。

かつての「唇と歯」のような関係と評された「血盟」の面影は今では微塵もない。「同志関係」から単なる「隣人関係」と転落したと思えるほど、今では「普通の関係」に成り下がったと言っても過言ではない。

二つ目の理由は、中国が北朝鮮の安全保障を担保していないことにある。

中国は経済苦境に喘ぐ北朝鮮に無償で原油を供給し、食糧援助も行い、影響力の確保に努めているが、北朝鮮が安全保障を中国に委ねてないことや中国の核の傘にないことから影響力の行使には限界がある。米軍を駐屯させ、米国の核の傘の下にある日本、韓国と違って、北朝鮮には中国の基地もなく、軍も駐屯してない、また中朝合同訓練を一度も実施していないことがその証左でもある。

三つ目の理由は、中国が核保有国であることだ。

韓国には「私が他の女性を好きになるのは、ロマンチックなことだが、お前(妻)が他の男を好きになるのは、不倫だから、やってはならない」とのブラックジョークがあるが、中国の説得は北朝鮮には手前勝手にしか聞こえないようだ。

中国が1964年に核実験を成功した際には北朝鮮は同盟国として支持を表明したのに、それから52年後、北朝鮮が同じことをやったら、中国が批判するのは理屈に会わないと北朝鮮は反発している。

(参考資料: 異例ではない北朝鮮の対中批判

そのことは二度目の核実験(2009年)の時、習近平国家副主席(当時)が韓国の李相憙国防長官との会談で「北朝鮮はこれ以上、事態を悪化させてはならない」と警告したことに反発し、労働新聞が「大国がやっていることを小国はやってはならないとする大国主義的見解、小国は大国に無条件服従すべきとの支配主義的論理を認めないし、受け入れないのが我が人民だ」との論説を載せていたことからも自明だ。

四つ目の理由は、「中朝友好条約」が足枷となっていることだ。

北朝鮮と中国との間には「友好・協力及び相互援助に関する条約」があってその中で「主権に対する相互尊重、内政不干渉」が謳われている。北朝鮮が中国の改革・開放政策に不満を抱きながらも、表立って批判しないのと同じように「中国も北朝鮮の核問題について口を挟むことはできない」というのが北朝鮮の立場のようだ。

史上初の核実験を行った2006年10月、中国外務省が「国際社会の普遍的な反対を無視し、勝手に核実験を実施した」と強く批判した際、労働新聞は「大国の顔色をうかがい、大国の圧力や干渉を受け入れるのは時代主義の表れである。干渉を受け入れ、他人の指揮棒によって動けば、自主権を持った国とは言えない。真の独立国家とは言えない」と中国の批判に反発する論説を載せていた。

加えて、1961年に交わされたこの友好条約には「相手方に反対、敵対するいかなる団体や行動、措置には加わらない」とする一条がある。

北朝鮮が中国の説得に応じないのは、国連安保理の対北非難声明や制裁決議に中国が賛同したことに尽きる。故金正日総書記は2009年1月に訪朝した王家瑞中国共産党対外連絡部長に「北朝鮮は中国を裏切るようなことは絶対にしない」と約束したが、これは裏を返せば、中国も裏切るなという意味だった。

ところが、中国は3年後の2012年4月のミサイル(衛星)発射でも国連の制裁決議に賛成した。北朝鮮は直ちに「深刻なのは、常任理事国が公正性からかけ離れ、絶え間ない核脅威恐喝と敵視政策で朝鮮半島核問題を作った張本人である米国の罪悪については見て見ぬふりして、米国の強盗的要求を一方的に後押ししていることだ」として、「最も多く核兵器を持っている安保理理事国が他国の核問題を論じる道徳的資格もない」と米韓合同軍事演習を黙認している中国を批判したりもした。

そして、五つ目の理由は、自尊心の強い北朝鮮に服従を強いるようなことをすれば、逆に中国にとってマイナスになるからだ。

二度目の核実験(2009年5月)への国連の制裁決議「1974」に中国が賛成し、採択された際、北朝鮮外務省は「6か国協議は我々の平和的科学技術開発まで妨害し、正常な経済発展までも抑制しようとする場に転落した。結局、我々を武装解除させ、何もできないようにさせたうえで自分らが投げ与えるパンくずで延命させようとするのが他の参加国らの下心である」との6か国協議を拒否する談話(7月27日)を発表したが、「自分らが投げ与えるパンくずで延命させようとするのが他の参加国」とは他ならぬ中国を指す。

中国が拒否権を発動しなかったことに怒り心頭の金正日総書記はこの年8月に訪朝した現代グループの玄貞恩会長との会見で「中国は信用が置けない」と発言するに至った。

中露紛争、中越紛争、中印紛争に象徴されるように中国は国境を接してきた国々とこれまで数々のトラブルを起こしてきた。いずれも、軍事衝突に拡大した。そうした中で北朝鮮とは一度も、公に紛争を起こしたことはない。国境を接している北朝鮮とそう簡単に決別はできないのが実情である。

(参考資料:中国が北朝鮮を突き放せない5つの理由

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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