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「若者の給料」と同様に、30年間伸びていない「若者男子の低身長」問題

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

「3高」がモテる条件だった時代

かつて、モテる男の要素として「3高」といわれていた時代があった。1980年代のバブル期である。[3高]とは、「高身長・高学歴・高収入の男」という意味だ。当時、その条件を巡って恋愛模様を繰り広げた男女はいまや55~64歳のアラカン(還暦周り)世代であろう。

テレビではトレンディドラマが流行り、ディスコブームが盛り上がり、まさにクリスマスデート文化が生み出された頃でもある。

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今から思えば、恋愛相手の男性の条件に高身長が求められた昔は、ずいぶんと牧歌的だった気がする。今ならさしずめ「身長なんかで飯が食えるか」と言われそうであるが、今回はそうしたモテる男の条件の話ではなく、日本人男性の身長についてお話したい。

男子の身長の伸びが止まった

日本人男性の平均身長は、明治時代から100年間で約15cmも伸びた。しかし、その身長の伸びが近年止まってしまったどころか、逆に若干低身長化の傾向にあるという事実をご存じだろうか?

以下は、1900年(明治33年)からの16歳の男性の長期身長推移が表したものである。終戦直後、食料不足の時に平均身長は一時期的に低くなったが、戦後「日本が豊かになっていく」時代の中で身長も大きく伸びた。ところが、その伸びも平成に入ったあたり、ちょうど170cmに達するあたりで止まってしまった。

以降30年間、ほぼ伸びていない。

最近、ツイッターで「身長170cmに満たない男は…」発言に対する炎上案件が発生していたが、2019年時点において、20歳以上の男性の平均身長は、167.7cmにすぎない。平均が170cmにも達していないのが事実である(2019年厚労省「国民健康・栄養調査」より。2020年はコロナ禍のため調査自体不実施)。

「20歳以上の平均にしたら、中年や高齢者も含むのだから、それは低くなって当然でしょ。若い人だけに限定したらもっと高いでしょ」と思われるかもしれない。しかし、同調査によれば、20歳男性の平均も170.2cm21歳の平均にいたっては168.7cmしかないのである。

世の中の実情というか、平均とはそんな程度のものである。身長にしろ、年収にしろ、思っているほど高くはない。

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おじさんより低身長な10代男子

それよりも注目したいのは、若者の低身長化である。20代男性の身長は、「3高」といわれて右往左往したバブル世代の50代男性にはわずかに勝っているが、40代男性の平均身長とほぼ変わらないどころか、微差ではあるが、18-19歳の男子の身長は、40代の中年おじさんよりも低くなっているのである。

1975年時点の、若いほど高身長だった頃と比べるとずいぶん様変わりした。

電車の中などで見る、制服姿の高校生男子をみて、全体的に身長が低くなっているという印象をもったことはないだろうか。その印象はあながち間違いではない。男子高校生の低身長化が実際に起こっている。

写真:アフロ

文科省の「学校保健統計調査」から高校3年生である17歳男子の身長分布の違いを、2005年と2018年とで比較してみた。2005年と2018年の17歳の平均身長はほぼ変わらないが、2005年の17歳より2018年の17歳の方が155-170台の低身長群の割合が明らかに増えていることがわかる。

出生と関係する成人身長

こうした若者男子の低身長化の原因とはなんだろうか?

30年間身長が伸びていないことと、30年間若者の給料があがっていないことが奇しくも一致する点も興味深いのだが、それ以外にも、栄養の偏りなのか、運動不足なのか、はたまた、スマホなどの影響による睡眠不足なのか。要因はいろいろ考えられる。ただし、国立成育医療研究センターの見解によれば、子どもたちの低身長化は「低出生体重児」の増加であるという指摘もある。

「低出生体重児」とは、出生時2500g以下で生まれた子を指す。

1950年から2020年にかけて、2500g以下の低出生体重児の構成比と出生児の平均体重の推移を表したグラフが以下である(男子のみ)。

1980年代と比べると、2005年以降の低出生体重児比率は、倍近い8~9%台を推移していて、しかもその値が直近ほぼ不動で推移していることがわかる。これは女子も同様である。

低体重児比率が高まれば高まるほど、出生時の平均体重は低くなるという負の相関も見られる。これは、2500gの比率だけではなく、低体重児とはならない2500~3000gの子も増えているからである。

3000g未満の出生児の比率は、1975年の27%に対して、2020年43%と約1.6倍に増えている。明らかに、全体的に出生児の体重は減ってきている。

現在40代のおじさんの出生時の平均体重は約3220gだった、ところが現在18歳の男子の出生時平均体重は3060gである。現在の身長差マイナス1.2cm分が、この出生時の体重の差であるとも考えたくもなる。

なぜなら、出生体重が低いと成人身長が低くなりやすいことは海外でも多く報告されているからだ。もちろん、出生時2500gで生まれても、成人した時に身長180cm以上の長身に育った人もいるだろうし、逆もあるかもしれないが、全体的な傾向でいえば、出生体重と成人身長は相関する。

写真:イメージマート

「小さく産んで大きく育てる」などといわれた記憶のある人もいるかもしれないが、前述した国立成育医療研究センターのレポートによれば、身長が低いほうが高血圧、冠動脈疾患、脳血管障害を起こすリスクが上がり、平均寿命も短くなりやすいという報告が各国の研究で得られているとのこと。

若者の低身長化は、モテるモテないの話ではなく、健康や寿命の長さの問題かもしれず、注意が必要である。こうした状況が続くと、人生100年時代なんてやってこないかもしれない。とはいえ、男性より身長の低い女性の方が長生きなので、そもそも関係ないのかもしれない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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