「子どもたちに夢をもってほしい」大相撲にもドラフト制? 元横綱・鶴竜が考える角界の課題と新構想
6月3日に断髪式を行う、大相撲の元横綱・鶴竜親方にインタビュー。本稿では、未来を担う子どもたちについて、相撲離れという角界の課題と親方なりの解決策、指導の難しさや工夫などを伺った。
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多競技の経験が相撲にも生きる
――鶴竜親方が横綱にまで上り詰めることができた要因はなんだったとお考えですか。
「細くても背があった(187センチ)のは大きかったね。最初は動きのなかで勝機を見出していたけど、番付が上がるごとに体重が増えて、最終的には162キロにまでなりました。それぐらいになると簡単に押されないし、安定感が出ます」
――最初細身だったのは、ご飯を食べられなかったからとか、そういった苦労はありましたか。
「それはなかったんだよね。いつもおなかいっぱいまで、ご飯最低3杯は食べていました」
――お相撲さんは、体の小ささ・細さをネガティブに言われることが多いと思います。しかし、小さい頃から体の大きかった照ノ富士関に話を聞くと、子どもの頃に運動神経を養うことが難しかったから、その部分はもともと小さい子のほうが有利かもしれないとおっしゃっていました。その観点ではいかがでしょうか。
「その通りだと思います。わんぱく相撲の小学生でも、すでにすごく太っている子っていますよね。でも、まだ骨が成長し切っていない時期から体を大きくしたら、X脚になったり膝をケガしたり、プロに入るスタートラインに立つ前からつまずいてしまいます。将来力士にならないとしても、そのリスクはないほうがいい。あと、相撲以外のスポーツもやって運動神経を養った子が、相撲でも強くなるのは間違いないと思います。もちろん、絶対に強くなりたい、成功したい、上に上がりたいっていう気持ちが一番大事ですけどね」
――親方もバスケットボールなどの競技経験があります。それは相撲に生きましたか。
「もちろん。バスケのほかにテニスも習っていたし、スポーツ大好きだったから何でもやりました。いろんな体の使い方を覚えると、相撲にかなり生きると思うんです。どんなことも、やってみることではじめて、自分で工夫できるようになる。運動の“センス”は、生まれ持ったものもあるかもしれません。でもうまくなるかどうかは、うまくなるように自分の頭で考えているか、それを自分でわかっているかどうか、その有無で全然違ってきますから」
指導の難しさと試行錯誤
――現在は陸奥部屋の部屋付き親方として後進の指導に当たっていらっしゃいますが、時代も変わってきているなか、どのような指導をしていくべきだと思われますか。
「いまは昔みたいに厳しくできない部分もたくさんあるんですが、根幹としての厳しさは崩しちゃいけないと思うんです。相撲は単なるスポーツじゃなくて『道(どう)』、つまり人間として育つところだから。何もできなかった子が、料理も掃除も洗濯もコミュニケーションもできるようになる。練習や試合のときだけ集まるんじゃない。相撲部屋は大家族です。これからも、先輩後輩ではなく兄と弟っていう感覚を大切にしてほしいし、それが自然といじめや暴力の根絶につながると思っています」
――厳しさを残しつつも、いまの時代に合った指導というのは、どういうものだとお考えですか。
「アメとムチでうまくやらないといけないんですが、いまはムチに耐えられない、怒られても響かない子が多いんです。これが問題だと思います。もちろん、ちゃんと受け止められる子もいるんだけど、そうじゃない子が割合的に多い。若いときは誰しもラクしたいもの。でも、我慢して続けていくと強くなってきたのが自分でわかるし、それがわかってくると、言われることを素直にやるようになるんだよね。だから最初は、ただ怒られたくないからやるっていうのでもいいと思うんです。やっているうちに身についてきて、身についてきたことがわかればいい。そういう部分で、いまは指導する側がやる気を出させる違った方法を考えないといけないのかなと思います」
――逆に、これからも変わらず守っていきたい部分は何ですか。
「たくさんありますよ。相撲のしきたりや厳しさ。そういうものを海外の人に見てもらいたいだけでなく、日本の子どもたちにも知ってもらいたいですね」
ドラフト制、就職支援――親方の構想とその意図
――親方として、現在の角界の課題はどのようなところにあると感じていますか。
「入ってくる子がいないこと。これが一番の問題だと思います。子どもの人数自体が少ないのもあるだろうけど、力士に夢をもてないことのほうが問題です。特に日本の子どもたちにはいろんな可能性があって、才能のある子は野球やサッカーといったメジャーなスポーツに行ってしまいます。スポーツは、する人がいなかったら成り立たない。いかに力士を増やすか、夢をもって強くなる子を引っ張れるかを考えていかないといけない。そのためには、協会とアマチュアとがもっと一緒になって取り組んだほうがいいとも思っています」
――たしかに、その架け橋はありそうであまりないかもしれません。
「例えばドラフト制の導入。もちろん、親方とのつながりや相性の問題もあるから簡単なことじゃないんだけど、それでも協会側が、若い子がコンスタントに入れるような仕組みを作ってあげるのもありなのかなと思うんです」
――それは斬新なアイデアですね。
「あとは単純にお金です。ニュースでメジャーリーガーの年俸が何十億だって報道されると、才能のある子は野球やろうって思うでしょう。残念ですが、結局はお金の問題になっちゃうんですよね。これをすぐに大きく変えることは、やっぱり難しい。日本人力士は弱いなんて耳にすることはあるけど、違うよ。海外の子から見たら、日本の相撲界にはまだまだ夢がある。日本の子どもたちに、相撲をやりたいっていうモチベーションがあまりないから、才能ある子ほど違うスポーツに行っちゃっているだけなんだよね」
――大谷翔平選手がもし角界に入ってきていたらきっとすごかったぞって思いますもんね。
「そうですよ。本当にどうなっていたかわかんないですよ、そしたら」
――日本の子どもたちの相撲離れを食い止める策は、ほかに何かありそうでしょうか。
「ひとつは学歴やセカンドキャリアの保証。いまは協会が通信制の高校と組んで高卒の資格を取れる制度もできています。それに加えて、辞めた後の職場を斡旋する制度もできたらもっといい。結局、みんながみんな強くなるわけじゃないから、引退後にどんな会社に就職できるかが入門前からわかっていたら、ダメでも5年やってみよう、30歳までやってみようと、思い切って入ってこられます。力士の年収を急に上げることは難しいけれど、入る前の安心感で補うことはできるのかなと思いますね。力士になりたいと思ってくれる子をどう増やしていくか。夢をもって入ってくる子、強くなる可能性を秘めた子をどう引っ張ってこられるかを、プロアマ一体となって、親方同士でも一緒に考えていきたいですね」
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