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日本アカデミー賞に見えた“伊藤沙莉型ブレイク”の兆し

斉藤貴志芸能ライター/編集者
新人俳優賞を受賞した小野花梨(撮影/河野英喜)

子役出身の小野花梨は『鈴木先生』から衝撃を

 『ある男』が8冠を獲得した第46回日本アカデミー賞。授賞式では新人俳優賞の8人の表彰も行われた。男女4人ずつが受賞。“新人”と付く賞だが、「映画初出演ではなくとも、主演・助演クラスの大役を演じ、印象を与えた俳優を対象」とされている(日本アカデミー賞公式HPより)。

 中でも、小野花梨は5歳で子役として活動を始め、2006年にドラマ『嫌われ松子の一生』で女優デビュー。今回の対象作品となった映画『ハケンアニメ!』や放送中のドラマ『罠の戦争』に至るまで、出演作は枚挙に暇がない。

 最初にインパクトが大きかったのは、2011年のドラマ『鈴木先生』。長谷川博己が中学教師役で主演。小野が演じた女子生徒のカーベエこと河辺彩香は、男子生徒を乗り換えながら性関係を持ち、赤裸々な台詞を言う役どころだった。

 撮影時は小学6年生。制作サイドで「この役を小学生にやらせていいのか?」と議論があったそうだが、オーディションに受かって役を掴んだ小野自身が「やります」と言ったという。以前の取材で「台詞の意味はよくわからないまま、監督と話しながら、ちょっと頭がおかしい感じで作っていきました」と振り返っていた。

脇役でも必ず忘れられない印象を残して

 近年では、『親バカ青春白書』のバイト三昧の女子大生役で元カレに飛び蹴りを食らわしたり、ムロツヨシが演じた主人公にキスして迫ったり。朝ドラ『カムカムエヴリバディ』では上白石萌音が演じた初代ヒロインの親友の豆腐屋の娘役。かと思えば、『恋なんて、本気でやってどうするの?』では広瀬アリスが演じたヒロインの恋敵で男にすり寄る匂わせ女など、脇役が多いが硬軟自在で、必ず忘れられない印象を残してきた。

 映画では、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』でガン黒・金髪のコギャルで薬物中毒の役。主演した『プリテンダーズ』では傲慢なひねくれ者で、「私を認めない世の中を変える」と型破りなドッキリ動画を仕掛ける役と、強烈な演技も見せている。

 その演技力は業界で高く評価され、バイプレイヤーとして出演作が絶えない。『ハケンアニメ!』では天才アニメーター役で、ペンの扱い方から作画に掛かると急にスイッチが入るたたずまいまで、完璧にまっとうしていた。

『罠の戦争』より(カンテレ提供)
『罠の戦争』より(カンテレ提供)

19年続けて「やっと1年目と言えます」

 授賞式では「この仕事をさせていただいて19年くらい。でも、『経歴というのは売れてから数えるもの』と言われたことがありました。『私は1年目といつ言えるのかな?』と思っていたところで、この賞をいただけて、やっと自信を持って1年目と言えます」と涙ぐんでいた。

 同世代には、今回の優秀女優賞を受賞した広瀬すずや、橋本環奈、福原遥らがひしめく。取材では「私は雑草で大丈夫」「厳しくされることに慣れて打たれ強いのは、『かわいい』と言われ続けてきた女優さんとは違うかもしれません」と話していた。

高い演技力で気づけば主役級という道へ

 そんな小野の所属事務所はアルファエージェンシー。先輩には、2024年前期の朝ドラ『虎に翼』のヒロインに決まった伊藤沙莉がいる。彼女も9歳でドラマデビューした子役出身。天海祐希主演で小学校が舞台の『女王の教室』では、志田未来をいじめる役で出演していた。

 以後も、朝ドラ『ひよっこ』、『この世界の片隅に』、『これは経費で落ちません!』など主に脇役での出演が続いたが、どんな役でもナチュラルで深みのある演技は徐々に注目されていく。

 名バイプレイヤーと言われつつ、華やかな主演タイプではないとも思われていたが、2020年のドラマ『いいね!光源氏くん』、昨年の『ミステリと言う勿れ』や映画『ちょっと思い出しただけ』など、ヒロインや主演級がいつの間にか増えていた。ついには7年ぶりの朝ドラでヒロインに。

 伊藤は以前、自分の強みについて「守るものがないところ」と話していた。「ヘン顔もするし、濡れ場もやります。きれいな女優さんたちに負けてる部分はたくさんありますけど、ひとつぐらい勝てるところがあるんじゃないかと思って」とのことだった。

伊藤沙莉
伊藤沙莉写真:2021 TIFF/アフロ

 後輩の小野は現在、『罠の戦争』で草彅剛の復讐を助ける国会議員秘書役で、また注目度を高めるなど、伊藤の歩んできた道を辿っているようにも見える。最近はルックス的にも洗練されてきて、多彩な演技の引き出しを武器に、数年後には伊藤同様、主役クラスも演じているのが想像できる。

王道ヒロイン路線を歩んでいる福本莉子

 一方、新人俳優賞には福本莉子も名を連ねた。こちらは沢口靖子に始まり、長澤まさみ、上白石萌音・萌歌、浜辺美波らを輩出した「東宝シンデレラ」オーディションの2016年のグランプリ。いわばサラブレッドだ。

 2018年にはミュージカル『魔女の宅急便』で主人公のキキを演じ、2020年には映画『思い、思われ、ふり、ふられ』で浜辺美波、北村匠海、赤楚衛二との4人主演を務めるなど、王道のヒロイン路線を歩んできた。JR東日本、ロートCキューブ、オロナミンCなどCM出演も相次いでいる。

 2021年には、ドラマ『消えた初恋』で道枝駿佑(なにわ男子)の片想い相手の役でヒロイン。昨年は『君が落とした青空』、『20歳のソウル』、そして今回の対象作となった『今夜、世界からこの恋が消えても』と、主演やヒロインを務めた映画が相次ぎ公開された。

福本莉子(撮影/河野英喜)
福本莉子(撮影/河野英喜)

眠ると記憶を失う難役を熱演

 『今夜、世界からこの恋が消えても』で演じたのは、眠りにつくと1日の記憶を失う前向性健忘症の女子高生という難役。メイキング動画では本読みで不安から涙する場面もあったが、記憶障害の人のドキュメンタリーを観たり、撮影期間中は役と同様に日記をつけたりしたそう。青春のきらめきと裏腹の切なさが胸を揺らす熱演を見せた。

 授賞式では「この映画をきっかけにたくさんの方に知っていただけたので、ここからまた女優として、1人の人間として成長して、映画を通して誰かの人生に少しでも輝く何かを残せるように頑張りたいと思います」とスピーチしていた。

「東宝シンデレラ」の先輩・浜辺美波と肩を並べるか

 福本のルックスも含めたヒロイン感は、同じ2000年生まれだが「東宝シンデレラ」の先輩に当たる浜辺美波に通じる。浜辺は上白石萌歌がグランプリを獲った2011年のニュージェネレーション賞。当時10歳だった。

 レッスンを積みつつ、高校生になる頃には透明感のある美少女に成長。人気アニメをスペシャルドラマ化した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』でヒロインのめんまを演じて、話題になる。

 そして、2017年に映画『君の膵臓をたべたい』で、病気で余命少ない中で最後まで明るく生きようとするヒロインを演じて大ヒット。その後は一気にメインキャストが続く。映画では『センセイ君主』、『思い、思われ、ふり、ふられ』、『約束のネバーランド』など。2020年にはドラマ『アリバイ崩し承ります』、『私たちはどうかしてる』、『タリオ 復讐代行の2人』と3クール続けて主演を務めた。

 この18日には映画『シン・仮面ライダー』が公開。4月3日スタートの朝ドラ『らんまん』では、神木隆之介が演じる主人公の妻となるヒロインと、相変わらず活躍が途切れない。

浜辺美波
浜辺美波写真:アフロ

 福本は同い年の先輩の浜辺の後を追う形になっていたが、『今夜、世界からこの恋が消えても』は韓国でも観客動員数が100万人に達している。この新人俳優賞が弾みとなり、浜辺と肩を並べる存在になる日も、そう遠くないと思わせる。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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