フジHD社長の「決して真似てはならない」記者会見
4月8日のフジHD社長会見は、自ら疑念を深める失敗説明だった。会見の体裁、話す姿勢、伝えるメッセージのすべてが×で、会見をきっかけに新たな不信感を招く典型例だ。
この会見をもとに、新聞各紙は、
- フジHD、外資規制違反認める 「総務省に14年報告」(日経新聞)
- フジ、外資規制違反2年間 社長陳謝 14年、総務省に報告 (毎日新聞)
- 外資規制違反「総務省に相談」 14年末に フジHD、一転認める (朝日新聞)
などと翌日(9日)の一面記事で伝えている。
注目したいのは、メディアの報じるニュースで問題視されているのが外資規制違反なのに対して、ネット上では記者会見での社長の態度が不誠実だとする声が多く目立つことだ。この種の反応は、会見をきっかけにして組織に対する不信感が広がることに加え、週刊誌などによる新たなスキャンダル発掘などに発展していくケースが多い。
つまり、ここから新たに大きな問題になることが予見されるのだ。
そこで、何がどう作用して会見がネガティブな反応につながるのか、見ていくことにしたい。「ニュース」としては専門的で分かりにくい点も多いため、最低限でまとめていくことにする。
会見に出席したのは、フジテレビなどを傘下に持つ持ち株会社のフジ・メディア・ホールディングス(フジHD)の金光修社長、和賀井隆専務、清水賢治取締役。
フジHDの外資規制違反の疑いは、少なくとも4月5日の段階で朝日新聞が報じたことをきっかけに、大きく問題視され、フジHDは6日段階で「2012年9月末から14年3月末にかけて外資規制に違反していた可能性がある」と発表。結果として、8日の会見開催に追い込まれた形だった。
スタンスが不明
つまり、まずおさえておくべき状況としては、積極的な情報開示ではなく、せざるを得なくなった社長会見だったということだ。
通常、こうした流れで違反を認めるならば、会見は謝罪と釈明が目的になる。ところが、8日のフジHD会見は、どうもスタンスがはっきりしない。
会見の中で社長は頭を下げ謝罪をしたものの、問題自体は「極めて軽微」で、しかも「すでに解決済み」であることを強調するような印象すら与えていた。
それがはっきり表れたのは、社長が「違法性の認識はあった」と答えた後で、経営責任について問われた質問への答えだった。
体裁、姿勢、メッセージすべて×
今回の社長会見で最も大きな問題は、「分かってもらおう」という会見準備がほとんど感じられないことだ。具体的に見ていこう。
1.会見の体裁…×
・司会者が冒頭、感染防止の観点から取材メディアを絞ったと説明。ところが、会場の様子を見るとカメラの場所は人が密集している。厳しい追及を警戒し、記者の数を意図的に減らしたかったのではないかとの疑念が生まれる。
・司会者はまた、「感染を防ぐ観点から1時間をめどに」と断って会見を開始したが、質問を受け付けたのはのべ6人の約30分だけ。最後は追加質問を呼びかけず、半ば強引な形で切り上げた。単純比較はできないが、3月にみずほ銀行のシステム障害で頭取が2時間、質問がなくなるまで受け付けたことと比べると、説明に随分消極的な印象だ。
2.話す姿勢…×
・会見場に入り多くのカメラ・フラッシュがたかれる中、社長はスーツをいじり落ち着かない様子で、役員3人で頭を下げる場面でもバラバラと揃わない。形はあくまで形でしかないが、丁寧に伝えようと準備していれば、こうしたところにも1つ1つ気を遣うもので、進行の様子から完全な準備不足の会見であることを窺わせた。
・金光社長はまた、質問に答える際、たびたび腕を組み、そして感情的になる。ツイッターでは「逆ギレ会見」と名付ける声も見られた。
3.伝えるメッセージ…×
・冒頭説明や質問への答えで、外資規制を違反したことついて、その程度が「わずかに」「軽微な」「極めてわずか」といった表現を繰り返し強調して、大きな問題ではないかのような主張を繰り返している。違反だった事実を問われている場で、それはどう考えても主張するポイントではない。
・金光社長の説明には、「私見」「個人的には」「本音」などといった表現が繰り返し出てきた。記者会見に出ているのは会社の代表で、組織の問題を問われている場面である。たとえばフジテレビでは、そんな個人的な考えが、報道内容にも反映されるのが当然だということなのだろうか?
・質問で総務省とのやりとりを問われた金光社長は、「それは総務省に聞いてほしい」という内容の回答を何度もしている。見解については当事者でなければ答えられないと理解できるが、ファクトの確認を総務省に向かわせたことで、むしろ総務省との間で事前調整済のような悪印象を生んだ。
ぜひ会見の様子を見てほしい
会見は、冒頭説明が約7分半、その後に質疑応答が30分弱の計40分に満たない、以前の安倍首相会見に匹敵する短さだ。こんな会見をしてはならないという例として、ぜひ見てほしい。
疑念を深める小さな嘘が見え隠れ
以上のようなやりとりから感じ取れるように、フジHDの情報開示の姿勢は決して積極的なものではない。
そして総務省から「認定の取り消し」があれば、それは重大事項として適時開示にあたるが、「なかったので」重大事項とせず、適時開示をせず、有価証券報告書・四半期報告書の修正もしなかった。そして追いやられて開催することになった会見まで違反があった事実の公表もしなかったということだ。
企業のコミュニケーション現場を知る者としては、こうした「開示義務の有無」と「積極的な情報開示」で常に板挟みになることを理解した上で、それでもフジHDの発信する情報に小さな嘘(それが意図的かどうかは別にして)が見え隠れしていることが、今回のような会見を経て、疑念を深める要因になっていることを指摘したい。
* 3月25日にフジHDが発表した<当社の外国人持株比率について>とする公開文書で、「「議決権を有する外国人株主の比率」は法律に則り常に 20%未満に抑えられており、「放送法違反」に該当することはございません。」とあるが、「常に」は嘘だった(会見で指摘されていた)。
* 4月6日、フジHDは、「2012年9月末から14年3月末にかけて外資規制に違反していた可能性がある」と発表していたが、可能性ではなく、違反していた事実を2014年12月に総務省に金光社長が報告に行った時点で認識をしていた訳で、これは明らかにごまかしの表現だ。
1つ1つは小さな表現や情報の甘さが、重大な違反にもつながっているのではないか、あるいは他にも開示していない情報がまだあるのではないか、との疑念が生まれる記者会見だった。