金正恩「ニセ焼酎」に激怒し3人銃殺…飢える北朝鮮"食品規制"の暗闘
北朝鮮の市場では、様々なストリートフードが売られている。例えば揚げ豆腐にごはんとピリ辛ソースを入れた「豆腐飯」、ソイミートにご飯を入れた「人造肉飯」、トウモロコシの粉で作った「速度戦餅」、ブリトーのような「ミルサム」など種類も豊富だ。その場で作られるものもあれば、自宅で作ったものを販売する場合もある。
社会安全省(警察庁)は、これらストリートフードの流通、販売に対する集中取り締まりを命じたが、商人からは強い反発の声が上がっている。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
社会安全省は先月25日、各道の安全局(県警本部)に、個人宅での不良食品製造、流通、販売に対する集中取り締まりを命じた。両江道安全局は今月、道内の市・郡の安全部(警察署)に、不良食品製造者の割り出しに乗り出すよう指示した。
安全局はこのように説明した。
「(朝鮮労働)党はニセ食品を作ったり、流通させたりするなと数年前から強調してきたのに、このような行為が続いている。ニセ食品を食べた住民の中で、命が危ぶまれるほど深刻な状況となる事件があり、このような集中取り締まりを行う」
ここで言われている「事件」の詳細は不明だが、ニセ食品による深刻なトラブルがしばしば起きている。
2019年の3月、軍事境界線にほど近い開城(ケソン)にある、開城松岳食料工場の「松岳(ソンアク)焼酎」のラベルを貼った密造酒が大量に出回り、亡くなったり失明したりする人が続出した。これを知った金正恩総書記は激怒し、密造酒の売買に関わった3人が公開処刑された模様だ。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
処刑場では、3人がそれぞれ60発ずつ、自動小銃の銃弾を浴びたという。北朝鮮の公開銃殺は従来、死刑囚1人に対し9発ずつ発射する方式で行われていたというから、60発というのはかなり「強化」されたやり方と言える。
また、冷蔵庫も電気もないことから保存状態に難があり、食中毒を引き起こすこともあった。
町内担当の安全員(警察官)は家々を周り、「ニセ食品製造販売禁止令」を伝えているが、それを聞いた人々が安全員をこう問い詰めるケースもあるという。
「ニセ食品呼ばわりとは一体どういうことだ!今まで自分たちが食べてきたものは全部ニセモノだったということか!」
ストリートフード以外にも、味噌や醤油などを醸造して市場で販売する人々もいる。中国製の加工食品にほぼ占領された状態だった北朝鮮の市場だが、それに抗っていたのが地元の個人製造業者だ。自宅で作ったものを市場で販売し、事実上の税金である市場使用料(ショバ代)を納め、地方政府の財政を潤してきた。大規模な業者は、個人を雇い入れる場合すらあった。
当局は、計画経済回帰策の一環として、地元の食品工場や大手の国営工場で製造した製品を売り込みたいのだろうが、予算や原材料が足りず、充分な量を供給できない。また、地元の人々の好みに合わせた商品づくりなど、痒い所に手が届くようなこともできない。また、価格競争力もない。
(参考記事:「金正恩印」のお菓子作りに失敗した5人の悲惨な運命)
「国営企業の製品や中国からの輸入品は供給量が多くなく、消費者は個人業者の製品が安いから好む。それなのに国が余計な取り締まりをして人民を苦しめるから非難の声が続出するのだ」(情報筋)
恵山(ヘサン)でゼリーを製造販売している50代の女性は、自宅を訪ねてきた安全員を怒鳴りつけて食って掛かった。
「すぐに出ていけ!ゼリーを良心的に作って売って生きているが、お前は私の生活を助けてくれたことがあるのか!」
個人業者が製造する食品を買っているのは安全員とて同じだ。ガンガン取り締まると市場で何も買えなくなってしまう。だから、ワイロと引き換えに黙認するのだという。
「安全員もワイロさえ受け取れば、個人が何を作って売ろうと見て見ぬ振りをする。結局、このような取り締まりなどやってもやらなくても同じ。いつもくたびれさせられるのは一般庶民だ」(情報筋)
かつて「猫の角以外何でもある」と言われた北朝鮮の市場だが、計画経済回帰策で儲けの大きい電化製品、加工食品、穀物など多くの製品の販売が禁じられた。残ったのは、自宅の裏の畑で作った野菜や、食品だけだ。北朝鮮国民の多くが、現金収入を市場から得ている現状で、資本主義の萌芽を完全に摘み取ろうとする金正恩氏の政策は、国民を飢餓と貧困に追い込む結果ばかり生んでいる。