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ISS宇宙旅行、スペースX・ビゲローから開始。NASA価格より割安

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
ビゲロー・エアロスペースの有人滞在モジュールBEAM。Credit: NASA

2019年5月7日、Bigelow Space Operations(BSO:ビゲロー・スペース・オペレーションズ)は、NASAが発表した2020年以降の国際宇宙ステーション(ISS)宇宙旅行の実施企業として、4名の旅行者が滞在する予定だと発表した。搭乗する宇宙船はスペースXのクルードラゴンを使用し、搭乗費用は5200万ドル(約56億円)とこれまでNASAが示していた価格より割安となる。

Credit: NASA
Credit: NASA

BSOは、ISSで有人滞在が可能なインフレータブルモジュールBEAM(Bigelow Expandable Activity Module)を開発、運用するビゲロー・エアロスペースの関連会社。BEAMは2016年4月に打ち上げられ、軌道上で膨らませる実証を成功させた。長さ約4メートル、直径3.2メートルの樽型で、内部の空間は約16立方メートルになる。宇宙飛行士が滞在する運用実証は、5月から4年目に入った。

ISS取り付け時のインフレータブルモジュールBEAM。Credit: NASA
ISS取り付け時のインフレータブルモジュールBEAM。Credit: NASA

ビゲロー・エアロスペースは、ラスベガスのホテルチェーンを経営するロバート・ビゲロー氏が設立した企業。宇宙有人滞在モジュールを拡張して宇宙ホテルを運営すると表明しており、BSOは施設運営の子会社として、2018年に設立された。BSOの発表によると、4名の旅行客がISSに1~2ヶ月滞在するための宇宙船搭乗費用として、2018年9月にスペースXへ預託金と予約料を支払い済みだという。

同社は、宇宙船搭乗費用の予定価格を5200万ドル(約56億円)としている。これは、NASAがこれまで公表している宇宙飛行士1名あたりの搭乗費用5800万ドル(63億円)よりも低価格だ。NASA公表価格は宇宙船の開発段階でロシアのソユーズ宇宙船との比較で挙げられたもので、ISSを商業化し安定運用する段階では、新たな価格が設定されると考えられる。

3月に無人飛行試験を成功させたスペースXのクルードラゴン宇宙船。出典:NASA TV
3月に無人飛行試験を成功させたスペースXのクルードラゴン宇宙船。出典:NASA TV

これまでにISS滞在宇宙旅行を実施した企業として、スペース・アドベンチャーズがある。2001年からロシアのソユーズ宇宙船で民間人7名の旅行を実現した実績を持ち、NASAと共にISSの商業化検討に参加した企業の1社だ。今年2月、スペース・アドベンチャーズは2021年にソユーズ宇宙船で2名がISSに短期滞在する契約を結んだと発表した。さらに、ボーイングが開発するスターライナ(CST-100)宇宙船でISSへ向かう計画も表明している。

クルードラゴン宇宙船の内部。出典:NASA TV
クルードラゴン宇宙船の内部。出典:NASA TV

各社の発表から、ISS滞在宇宙旅行の「旅行会社」は、BSOとスペース・アドベンチャーズの2社となりそうだ。とはいえ、BSOは宇宙旅行の開始を「NASAがスペースX宇宙船の認証を完了した時点」としており、クルードラゴン、スターライナーの宇宙船開発がカギとなる。現時点で、クルードラゴンは事故調査中、スターライナーは8月に予定される無人の軌道飛行試験に向けて準備中だ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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