U-24日本代表の快進撃で「長谷部越え」も近い? 32歳・吉田麻也のキャプテンシー
フランス戦前のカツで日本を4-0の大勝へと導く
「他の競技でもメダル確実と言われた選手たちが予選敗退を強いられている。自分たちもまだ何もつかみ取ってないぞ」
28日の東京五輪1次リーグ最終戦・U-24フランス戦(横浜)を前に、キャプテン・吉田麻也(サンプドリア)はこうカツを入れたという。確かに今回の五輪開幕以降、内村航平、瀬戸大也、桃田賢斗といった金メダルを有力視されたトップアスリートが続々と敗れ去っている。53年ぶりのメダル獲得が有力視され、スタートからU-24南アフリカ、U-24メキシコに2連勝している日本としても、ここで足踏みするわけにはいかなかった。
そんな懸念は杞憂に終わった。日本は過去2戦同様、落ち着いた入りを見せ、前半27分に上田綺世(鹿島)のシュートのこぼれ球に鋭く反応した久保建英(レアル・マドリード)が3試合連続ゴールを決め、いち早く先制。その7分後にはまたしても上田のシュートのこぼれ球に詰めた酒井宏樹(浦和)が追加点を挙げる。
2点差以上の白星以外は敗退の憂き目に遭うフランスは追い込まれ、右サイドのトヴァン(ティグレス)らの打開からエースFWジニャック(ティグレス)にボールを入れてくる。しかし百戦錬磨の吉田と酒井宏樹(浦和)が応戦。08-09シーズン・リーグアン得点王のベテランに仕事らしい仕事をさせない。
そのうえで、後半から久保と代わった三好康児(アントワープ)が3点目をゲット。2019年コパアメリカ(ブラジル)で見せた大舞台での強さを改めて実証し、後半ロスタイムにはスーパーサブ・前田大然(横浜)がダメ押しとなる4点目を叩き出した。
酒井宏樹が2枚目のイエローカードをもらって31日の準々決勝・ニュージーランド戦(カシマ)に出場停止になったのは悔やまれるが、警告を1枚もらっている遠藤航(シュツットガルト)や堂安律(PSV)らを次々と下げ、途中から切ったカードが得点に絡む活躍をするなど、森保一監督の采配も面白いように的中。完璧なマネージメントで1次リーグ首位通過を果たした。
イジられキャラのキャプテン抜きに今のチームは語れない
3戦連発の久保に加え、堂安、三好、前田とゴールを期待されるアタッカー陣が揃って結果を出す中、やはり光るのが最終ラインをマネージメントする吉田の働きだ。ジニャック封じは最たるものだが、つねに彼が的確な声を出してチーム全体を鼓舞し、リスク管理を徹底しているからこそ、3試合1失点という手堅い戦いができている。この男抜きにここまでの成功は語れない。
「ロンドンであと一歩のところでメダルを逃してしまったという引っ掛かりが今回のチャレンジのきっかけになったのは間違いない。やり残したことがあるなっていうのは自分の中にずっとあったので。五輪ってメダルを取ってナンボ。過去の大会を見ても、オリンピアンとメダリストの違いはかなりある。自分は3回も出ることになるのに、1回もメダルを取っていないっていうのはちょっと情けない。今回は絶対に取りたいです」
オーバーエージ(OA)枠での五輪参戦が決まった時、しみじみこう語っていた吉田。ただ、本人も言うように、ロンドンの時とはU-24世代と年齢が大きく離れている。20歳の久保建英とは実に12歳差で、普通に考えれば、若い世代に溶け込むのも容易ではない。しかし、老若男女問わずフレンドリーに接することができる彼なら大丈夫。名古屋グランパスU-15からの同期である長谷川徹(徳島)も「麻也は上にも可愛がられるけど、若手が同じ目線でいられるようにも振る舞う。後輩にいじられている姿が目に浮かびます」と笑っているが、そういう人柄は急造チームの結束を高めるのに大いに役立っている。
先輩・長谷部誠から学んだオンとオフのメリハリ
年下からイジられるキャラと言えば、先代の日本代表キャプテン・長谷部誠(フランクフルト)を思い出す。2010年南アフリカワールドカップ(W杯)直前合宿地のザースフェーで岡田武史監督(現FC今治代表取締役会長)から指名を受けた頃の彼は「僕はキャプテンなんかロクにやったことがない。本当のキャプテンは能活さん(川口=現U-24GKコーチ)と佑二(中澤=解説者)さん。僕はマークを巻いているだけ」と戸惑っていた。
そんな長谷部も南アでの怒涛の日々を乗り越え、吉田が代表入りした2010年末の時点では「確固たるリーダー」へと変貌していた。代表合宿中に集合時間に遅れてくる選手がいれば、ピシッと叱りつけ、試合内容が悪ければ容赦なく苦言を呈する。5学年上の先輩を若かりし頃の吉田は羨望の眼差しで見つめていたことだろう。
かといって、長谷部はつねにピリピリと緊張感を漂わせていたわけではない。プライベートでも多くの時間を共有していた清武弘嗣(C大阪)などは、何かあると「ハセさん~」とよくからかっていた様子。ユーモア溢れる吉田自身も長谷部イジりの急先鋒になったことが何度もあるはずだ。
「どうあがいても長谷部誠にはなれない」と号泣した日から3年
そうやってオンとオフのメリハリをつけながら巧みにチームをマネージメントする先輩の一挙手一投足を間近で見て学び、自分自身が何をすべきかを吉田は考え続けてきた。川島永嗣(ストラスブール)も前々から「マコの後というのはちょっとハードルが高い」と話していたが、長年の蓄積で体得した統率術を駆使して、吉田は大役を難なくこなしているように映る。
2018年ロシアW杯・ベルギー戦(ロストフ)翌日に長谷部が代表引退を正式発表した直後、「7年半、彼と一緒にやってきましたけど、本当にあれだけチームのことを考えてプレーできる選手は少ない。彼の姿勢から学ぶことが沢山あったので……。でも自分はどうあがいても長谷部誠にはなれない。ああいう選手の後をやるのは、やっぱりやりづらいと思いますけど、自分のスタイルで代表を引っ張っていかないといけないと思います」と、時折、涙で言葉を詰まらせながら語った吉田。あれから3年を経て、今や長谷部の領域に肩を並べたと言ってもいいかもしれない。五輪開幕直前の有観客開催を熱望する発言を含め、要所要所での発信力は、すでに先輩を上回ったと見る向きもあるだろう。
名実ともに偉大な先人を超えるべく、東京五輪で金メダルを!
日本をW杯3大会牽引した偉大な男を名実ともに越えるためにも、自国開催の東京五輪で53年ぶりのメダルを手にしなければならない。殺人的猛暑、超過密日程、コロナ禍での厳格な行動規制と特殊条件が重なった今大会はフランスを筆頭に、ドイツ、アルゼンチンといった強国が1次リーグ敗退を余儀なくされており、ホームの日本にとってはかなり有利な状況と言っていい。
31日の準々決勝の相手・ニュージーランドには、同じOA枠で招集されているFWクリス・ウッド(バーンリー)などイングランド・プレミアリーグで対戦経験のある選手もいる。けれども「どちらが自分たちのよさを出せるか、消せるかの戦いになる。個人的にはプレミアの選手と戦えるのは楽しみ」と吉田自身はワクワクしているという。
そこで勝てれば、9年前に敗れた準決勝に進める。そのハードルを越え、メダルを確定させることで、日本のキャプテンは先人も到達できなかった高みに手が届く。ここまで来たら、ぜひとも吉田にはそこを突き抜けて、日本サッカー史上最高のキャプテンの称号を手にしてほしいものである。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】