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ハリー王子とのメーガン妃の新作ドキュメンタリー、まるで振るわず。Netflixとの契約はどうなる?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「インヴィクタスー負傷戦士と不屈の魂」にメーガン妃はちらりとしか出ない

 ハリー王子とメーガン妃の将来に、またもや翳りが出た。彼らのアーチウェル・プロダクションズが製作した「インヴィクタスー負傷戦士と不屈の魂」が、まるで振るわないのだ。

 5話構成のドキュメンタリーシリーズがNetflixで配信開始されたのは、先月30日。だが、アメリカでも、イギリスでも、今までに一度もNetflixのアクセスランキングのトップ10に入っていない。昨年末に配信開始した「ハリー&メーガン」は、評判が悪かったにもかかわらず、しばらくの間、全6話のうち複数の回がトップ10内に入っていた。一方、「インヴィクタス〜」は、ハリー王子が創設したインヴィクタス・ゲームに出ると決め、トレーニングをして試合に挑む負傷戦士たちの姿を描くものとあり、全体的に批評家の評は悪くない。「The Times」は、「This is Prince Harry at his best(これは最高のハリー王子)」という見出しを掲げ、5つ星満点の4つ星を与えている。やはり5つ星満点の4つ星を付けた「The Guardian」は、リードで「ニュアンスがあり、感動する」と褒め、「メーガンとハリーは個人的な報復を避けた」との見出しを付けた。

 確かに、「ハリー&メーガン」やハリー王子の回顧録「Spare」と違い、このドキュメンタリーシリーズに表立った王室批判は出てこない。彼ら自身も、試合に挑む元軍人たちの後ろに隠れている。ハリー王子はインヴィクタス・ゲームの創設者なのでかなり登場するが、メーガン妃はミーティングやイベントに出ている姿がちらほらと出てくる程度だ。第2話でハリー王子は自身の過去のメンタルヘルスの問題について話し、「僕の周囲にいた人は誰も僕を助けてくれなかった」と家族を貶すようなことを言うため、「やはり自分の話に持っていって不満を言わずにはいられないのか」との批判も聞かれるものの、そういった声はそれほど大きくない。

ドキュメンタリーの中で、ハリー王子は、自身の過去の経験についても話す
ドキュメンタリーの中で、ハリー王子は、自身の過去の経験についても話す

 皮肉にも、「ハリー&メーガン」はあちこちで叩かれまくったことで注目され、ヒットすることになっている。とりわけメーガン妃がイギリス流のお辞儀の仕方をばかにするようなシーンや、イギリスで彼らに与えられた住まいについてお姫様が住むところとは思えないと謙虚さのない発言をするシーンは、人々の怒りを買った。当時、ソーシャルメディアには、それらの映像とともに彼らをバッシングするコメントが飛び交ったものだ。

 だが、良い意図のもとに作られ、自分たちはあまり表に出ないという正しい判断をした「インヴィクタス〜」は、そういった話題性に欠ける。また、これは「ハリー&メーガン」や、ハリー王子がオプラ・ウィンフリーと製作したApple TV+の「あなたに見えない、私のこと」にも言えたことだが、不必要に長いのだ。王室コメンテーターのリチャード・フリッツウィリアムズは、「Newsweek」に対し、「このドキュメンタリーは5時間もある。これを作ったのは『White Helmets』でオスカーを獲った人たちだが、あのドキュメンタリーは40分だった。どんなに良い話であれ、間違いの言い訳にはならない」と述べている。

 フリッツウィリアムズが“間違い”と呼ぶのは、気配りかもしれない。回が多ければそれだけお金を取れるため、無理矢理引き伸ばしたのではないかと見ることもできるからだ。しかし、そういった計算で回数ありきにした結果、せっかく見始めてくれた人たちも途中で飽きてしまうかもしれない。ついに試合となる最後まで見てこそ感動があるのに、そうなってしまっては元も子もない。

「インヴィクタス〜」の失敗があらためて証明したこと

 とにかく、「インヴィクタス〜」の失敗は、すでにわかっていたいくつかのことをあらためて証明した。ひとつは、ハリー王子とメーガン妃の名前がついていたからといって人はなんでも見るわけではないこと。もうひとつは、王室バッシング以外のネタで勝負できる力量が夫妻には欠けていることだ。

 そしてそれは、夫妻にとって非常に良くない時期に起きてしまった。アーチウェル・プロダクションズは、つい最近、Spotifyから契約を切られたばかり。それでもNetflixはアーチウェルとのコラボレーションに価値を見出すと述べていたが、そこへ来てこの新作がコケてしまったのである。しかも、これはNetflixでの初めての失敗ではない。昨年末、Netflixは、「ハリー&メーガン」だけでなく、アーチウェルが製作した「世界を導くリーダーたち:信念は社会を変えた!」と題するドキュメンタリーシリーズも配信したのだが、こちらは誰も存在すら気づかなかったのだ。

「インヴィクタス〜」は、戦地で負傷した元軍人たちが、スポーツを通じて人生を取り戻していく様子を描く
「インヴィクタス〜」は、戦地で負傷した元軍人たちが、スポーツを通じて人生を取り戻していく様子を描く

 つまり、Netflixで作った3本のうち、ヒットしたのは彼らのプライバシーと王室批判で売る「ハリー&メーガン」だけということ。しかし、家族の悪口で金儲けをする彼らの人気は落ちる一方で、もうこの手に頼り続けることはできない。メーガン妃とアーチウェルがこの春契約したハリウッドの超大手エージェンシー、ウィリアム・モリス・エンデヴァーも、そこを離れてメーガン妃をブランディングしようとしていると思われる。方向転換は避けられないのだ。「インヴィクタス〜」は「ハリー&メーガン」より先にあった企画ながら、ちょうどそこにはまった。だが、結果はこれだったのである。

Netflixには考える時間がある

 アーチウェルとNetflixは、複数作品の製作について1億ドルの契約を結んだとされる。アーチウェルは最近、Netflixで製作するつもりで恋愛小説「Meet Me at the Lake」の映画化権を380万ドルで買ったが、Netflixから正式にゴーサインが出たという話はまだ聞かれない。

 もっとも、現在は脚本家と俳優がストライキをしているので、この映画の企画は進みようもなく、彼らにはじっくり考える時間がある。その結果、Netflixはまだメーガン妃とハリー王子のブランド力を信じることにするのか。それとも、Spotifyがしたように、遅くなる前に決断をして損失が大きくなるのを防ぐのか。折しも、配信各社は今、会員数を増やすだけでなく実際に利益を出すよう、強いプレッシャーを受けている。そんな中でNetflixがどんな判断を下すのかが注目される。

写真/Netflix

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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