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利権とカネ、そして欲望渦巻く北朝鮮の裏の顔

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
朝鮮労働党創建70周年の祝う平壌市民たち。(写真:ロイター/アフロ)

資本主義化が猛スピードで進む北朝鮮で、経済の牽引役となっているのが「ドンジュ(金主)」と呼ばれるニューリッチたちだ。彼らは、小売、貿易、運送、貿易業、さらには不動産に投資し、莫大な利益を上げ、北朝鮮当局はその一部を「忠誠の資金」として吸い上げる。つまり、北朝鮮当局とドンジュは、持ちつ持たれつの関係を築いているわけだ。

整形から覚せい剤ダイエットまで

国家権力と手を組んで成り上がったドンジュたちは莫大な財産を築いた。そうした家庭の子どもたちは、整形を厭わずZARAなどのファストファッションを好み、マダムたちは美容のための牛乳風呂、はては覚せい剤ダイエットにまで手を出すという驚くべき贅沢ぶりだ。

(参考記事:整形顔の「北朝鮮セレブ」はZARAとナイキがお気に入り

一方、国家機関は、表向きは良好な関係を築きながらも、彼らの持つ利権を虎視眈々と狙っている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、つい最近、秘密警察「国家安全保衛部(以下:保衛部)」が、50代のドンジュ女性の財産を全額没収する事件が起きたと報じた。

RFAの現地情報筋によると、中朝貿易の拠点の一つである恵山(ヘサン)市で、女性は、中国から輸入した品物を内陸地方に運ぶ中継貿易、卸売、運送を行い、地域一の金持ちとして知られていたという。そして、地元の保衛部はこの女性に目をつけた。

「保衛部の連中は、時間をかけて女性の身辺調査を行い、ある程度の証拠が揃ったところで女性を連行、6ヶ月間に渡って取り調べを行った。同時に、自宅に家宅捜索に入り、帳簿を押収、取引額を確認した上で、財産全てを罰金として没収してしまった」(現地情報筋)

保衛部が押収した額は数百万人民元に及ぶと言われている。(100万人民元は約1672万円)

利権めぐり「殺し屋」まで登場

女性は既に釈放されたが、全財産を失い路頭に迷っている。保衛部の、女性の財産をターゲットにした露骨なやり方を見た住民は彼女に同情し、保衛部のやり方を「充分に太るまで待ってから食い物にしている」と非難しているという。

一方、ドンジュたちのカネを狙った詐欺事件、それも「オンナ詐欺師」による大型詐欺事件も発生している。あるオンナ詐欺師は、その類い希なる美貌を利用して、ドンジュ男性から多額の現金を巻き上げたという。まさに資本主義社会顔負けの「オンナ詐欺師」っぷりだ。

(参考記事:北朝鮮で女性犯罪が急増…金持ちを餌食にする「毒婦」たち

さらに、今度はマフィア化したドンジュたちが「殺し屋」を雇い、当局者を惨殺したと見られる事件も相次いでいる。北朝鮮捜査機関も、犯人探しに躍起になっているが、10万人単位の特殊部隊出身者が巷にあふれる社会で、真相にたどり着くのは困難だろう。

(参考記事:「殺し屋」が当局者を相次ぎ惨殺…鉱山利権めぐり北朝鮮でマフィア抗争

こうした利権やカネをめぐって魑魅魍魎が跋扈する北朝鮮の実態は、平壌の表面的な発展ぶりからは決して見えてこない。そして、金正恩体制がいくら体裁を取り繕おうと、隠すことができない北朝鮮のもう一つの顔とも言える。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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