岐阜から福井と豊橋へ 離ればなれになるも、豊橋に再集結した3両の路面電車 豊橋鉄道モ800形
「市電」の愛称で親しまれる愛知県豊橋市の路面電車・豊橋鉄道東田本線。その主力は平成17(2005)年に廃止された名古屋鉄道岐阜線・岐阜市内線から転じたモ780形だが、同じく岐阜からやってきたモ800形の経歴は少し複雑だ。3両のうち1両はそのまま岐阜から豊橋へとやってきたのだが、他の2両は福井を経由しているのだ。この記事ではそんなモ800形を紹介しよう。
モ800形は平成12(2000)年6月30日に竣工。同年7月19日より名鉄美濃町線・田神線で3両が営業運転を開始した。名鉄岐阜線・岐阜市内線では最後の新型車両で、バリアフリーに配慮して一部の床面をホームと同じ高さまで下げた超低床車両であった。製造は名鉄とも縁の深い日本車輛で、当時は海外から輸入した技術を使った超低床車両しかなかったため、日本初の国産超低床車両であった。
そんな画期的な存在であったモ800形だが、名鉄岐阜線・岐阜市内線が平成17(2005)年4月1日で廃止となると5年足らずで早くも失業。3両は別々の道を歩むことになる。
トップナンバーであるモ801はモ780形7両と共に、東海地方最後の路面電車となった豊橋鉄道東田本線に転じた。平成17(2005)年8月2日より運行を開始。豊橋では初めての超低床車両だが、井原駅にある半径11メートルの急カーブを曲がれないことから、平成30(2008)年に改造工事が行われるまでは運動公園前支線に入線できず、運用が限定されていた。車体塗色はしばらくは岐阜時代のままだったが、愛知県警マスコットキャラ「コノハ警部」の「安全安心号」を経て、「パト電車」となり、その姿で9年間運行された。令和3(2021)年7月2日からはリサイクル業者「紅久」の広告車両「ベニキュー号」となっている。
残る2両、モ802とモ803は、モ880形5編成、モ770形4編成と共に福井鉄道福武線に転じた。モ802は平成13(2001)年10月から11月にかけて福井鉄道に貸し出されていたことがあり、これはトランジットモール(自家用車の通行を制限し、公共交通のみが侵入できる歩車共存道路)の実験のためだった。
2両は福井の雪・海・山・野をイメージした塗装となり、平成17(2005)年10月19日竣工、平成18(2006)年4月1日より運行を開始した。福井においても初の超低床車両であったが、他が連接車ばかりである中、単行でしか運転できないために収容力が小さく、ラッシュ時には運用されなかった。急行にも充当されることがあったものの、えちぜん鉄道への直通列車には使用されなかった。
福武線では平成25(2013)年から3車体連接の超低床車両「FUKURAM」を4編成導入。これによって同線のバリアフリー化は進んだものの、3連接車に比べて収容力の小さいモ800形は、利用者数の増加もあってさらに使いづらい存在となってしまう。結果、経費削減という名目もあって平成31(2019)年3月13日付で廃車。13年半住み慣れた福井の地を離れることとなった。
福井で戦力外通告を受けたモ802、モ803の2両の次なる職場は、兄弟のモ801が活躍する豊橋だった。平成31(2019)年3月15日には赤岩口車庫に搬入され、モ801と14年ぶりの再会を果たした。
モ802は令和元(2019)年10月16日より2代目「ブラックサンダー号」として運行を開始したが、機器の不具合により再整備を行い、10月31日より本格的に運用に入ることとなる。
モ803は令和2(2020)年4月11日より運行を開始。古関裕而の妻・金子が豊橋出身であることにちなんで、NHKの連続テレビ小説「エール」ラッピング車両となっていた。その後、とよはし競輪PR車両となり、モンスターハンターのラッピング車両を経て、令和6(2024)年8月現在は再びとよはし競輪のPR車両に戻っている。
最初の職場は5年足らずで廃止となり、豊橋と福井に離ればなれになるも、豊橋で再集結したモ800形の3両。井原カーブ対応の改造工事も受け、これからは豊橋で末永く活躍していくことだろう。
余談だが、モ800形が走ってきた岐阜、福井、豊橋の3都市はいずれもライトノベルレーベル・ガガガ文庫の看板作品の舞台である。豊橋は「負けヒロインが多すぎる!」(マケイン)、岐阜は「変人のサラダボウル」(変サラ)で既にアニメに登場しており、福井も「千歳くんはラムネ瓶のなか」で来年・令和7(2025)年にアニメに登場する。もし、アニメラッピング車両が登場するのであれば、3都市ゆかりのモ800形が選ばれてほしいと個人的には思う。
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