タイガー・ウッズ、10位発進。戻ってきた戦士の魂、「これからはアドレナリンが出る」
「これからはアドレナリンが出る」
マスターズ初日を1アンダー、71で回り、10位タイ発進したタイガー・ウッズは、そう言いながら目を輝かせた。その表情は、「戦士タイガー・ウッズ」の熱い魂が戻りつつあること、戻ってきたことを物語っていた。
ウッズにとって今年のマスターズは、コロナ禍の影響で延期開催となった2020年11月のマスターズ以来、実に508日ぶりの実戦復帰だが、それより何より、瀕死の重傷を負った昨年2月のあの壮絶な交通事故から、わずか14か月後の戦線復帰だ。
アップダウンが激しいオーガスタ・ナショナルを歩いて回り切ることはできるのか?世界のトッププレーヤーたちと伍して戦えるところまで、自分の肉体は回復できているのか?その答えは、蓋を開けてみるまでは、ウッズ自身にもわからなかった。
その不安がどれほど大きなものであったかは、7日の初日のスタート前、朝のウォーミングアップの際のこんな逸話が教えてくれた。
朝の練習場でショット練習をしていたウッズは、それはそれは険しい表情。時折り、手を止めて周囲を見回したり、しばし考え込んだり。そして再びクラブを振ったが、終始、眉間に皺を寄せ、笑顔はなかった。
「今朝のウォーミングアップは、恐ろしいほどひどかった。でも、遠い昔、いつも父が言っていた言葉を思い出したんだ。『ウォーミングアップで、やるべきことをやったかい?ちゃんとウォーム・アップしたのかい?』『うん、したよ』『良し、じゃあ、行っていい。プレーしておいで!』今日は、そんな父とのやり取りの通り、(ひどい状態から)しっかりウォーム・アップして、1番ティに行って、そして戦ったんだ」
練習場では、なかなか思い通りに体やクラブが動かず、焦りや不安でいっぱいになったのだろう。しかし、幼少時代の父との会話を思い出し、少しだけ勇気が得られ、徐々にグッドフィールを取り戻すことができた。しっかりウォーム・アップできた。「良し、行ける」「良し、戦える」
そんな思考プロセスを経たことは、初日の朝のウッズが、天国の父親にすがり、神にもすがりたくなるほど不安でいっぱいだったことを物語っていた。
だが、「良し」と感じながらティオフしたら、序盤はパーを拾い続け、6番では見事にピン80センチに付けて、バーディーを奪い、小さく手を上げて大歓声に応えることができた。
しかし、8番でボギー。2オンに成功した13番(パー5)では、イーグルを逃したものの、再びバーディー。しかし、すぐさま14番ではボギー。スコアを伸ばしては落とす展開だったが、パー3の16番で9メートルのバーディーパットを沈めたときには、すでに不安と戦うウッズの顔は、すっかり消えていた。
難関の最終18ホールはティショットを左に曲げたものの、見事にパーで締め括ると、大観衆からスタンディング・オベーションで讃えられた。
マスターズでの復帰戦初日を1アンダーで回り切ったこと、10位タイで発進したことを、誰もが「すごい」と感じ、拍手を送った。終盤に向かって歩く姿には痛々しさが露わになり、ラインを読むにも、しゃがむことができず、中腰で見つめる姿には、さらに痛々しさが漂った。
その状態で、短いパットも長いパットもよく沈め、よくパーを拾った。大健闘だったと誰もが感じたことだろう。
しかし、プレーの感想を求められたウッズは、真っ先にボギーを叩いた8番と14番に言及した。それは、すでにウッズが「歩き通せるか?戦い通せるか?」という不安を払拭し、上位を、いや勝利を目指して戦えることを肌で実感していたことの証だった。
「8番は集中力を欠いていた。14番は実行力を欠いていた。でも首位とは、たったの3打差。そして、まだたくさんのゴルフが残されている。僕は今、いい位置にいる。これからはアドレナリンが出る」
戦えるかどうかに半信半疑だったウッズが、勝利を目指す戦士の魂を取り戻した。
天気予報は、これから寒くなり、風も吹き、フェアウエイもグリーンも干上がって固くなれば、経験値がモノを言う。マスターズ3勝、メジャー15勝、米ツアー通算82勝の王者ウッズの本領発揮が見られそうな予感がする。