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若い人に負けないLegendこそ高齢化社会の先駆けになる

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

葛西紀明選手、銀メダルおめでとう。飛ぶ前に、「7回ものオリンピックに出るなんて葛西はlegend(伝説)だ」、という言葉を外国人が話しているのをテレビで見た。41歳。スキーのジャンプ競技で個人第2位となる銀メダルと団体の銅メダルを獲得した。

長寿王国ニッポンを象徴するような出来事だ。ジャンプ競技では、アプローチのクローチング姿勢から飛び出し前傾する訳だが、実は一瞬のうちにかかとふくらはぎの筋肉を使って、スキーを釣り上げる。さもなければ、スキーの先が雪面に突き刺さってしまうからだ。スキーが体と平行に保つためには、この筋肉を徹底的に鍛える必要がある。飛び出し、体の投げ出し、スキー板の釣り上げを一瞬のうちに行わなければ風に乗れなくなってしまう。ジャンプの難しさはここにある。もちろん、風向きも影響する。

私も昔、40メートル級のジャンプ台でジャンプ用のスキーをはいて1度だけ飛んだことがあるから、その難しさはよくわかる。頭で考えている動作と実際の自分の動作とは全く違う。それを一致させるために、繰り返し練習する。当然筋肉をいつも鍛えておく必要がある。自分が飛んだときは前傾しているつもりだったが、写真を見ると90度立っていた。いやはや難しい。

葛西選手はただ飛べるだけではない。世界の同じようなレベルの若い選手と互角に競争し合うのだから、その練習は並大抵ではない。それを41歳までやってのけた。さらにもっと上の金メダルも狙うという。

葛西選手だけではない。サッカーのカズこと三浦知良選手も1993年のJリーグ発足以来の現役選手だ。間もなく47歳になる。プロ野球では中日ドラゴンズの山本昌広投手はすでに48歳を超えた。スポーツ選手の選手寿命が延びていることは確かだ。

ただ、葛西選手は世界で2位という成績を今、手にしたことがすごい。共同通信は、山本昌投手が葛西選手から刺激を受けて「おれも頑張らないと」という気持ちになったと報じている。

このことはスポーツ選手に限ったことではない。企業人といえども同じではないだろうか。ただ、勤め人には、定年退職という名の「強制解雇」というシステムがある。体力・知力はまだ元気なのに、否が応でも自動的に解雇されてしまう。しかし、60歳でも働ける人は多い。最近では65歳を超えても働ける状況なら働くという人は増えている。2月18日の日本経済新聞は1面トップで、65歳以上の就労者が636万人いると報じた。日本は高齢者の割合が世界一多い国だ。日本は高齢化社会のモデルを創っていくモデル国となりうる。

かつて、ある講演会で、「少子高齢化を問題にするが少子化は確かに問題だが、高齢化は問題ではない。元気な人を働かせればよいのだ」、という話を聞いた。元東京大学の小宮山総長の講演である。しかし今の日本の仕組みでは、せいぜい65歳までしか働けない。もちろん、それ以上働きたくない人もいる。選択制にすればよい。

かつて、外資系の出版社で働いたことがある。広告営業の仕事で72歳まで働いていたセールスマンが米国にいた。米国では基本的に定年制がない。年齢で差別することが許されないからだ。もちろん、働く以上は若い人たちと同等以上の実力を示さなければならない。彼は、年寄りでも若手以上に稼ぐ営業マンだった。ビジネスマンでも葛西選手と同様、若手に交じって働き、しかも若手以上の成績を残す。これが重要である。

「自分の書いた手書きの書類を女性社員にパソコンで打ってもらう」というような考えの年寄なら要らない。若手と同じようにパソコンを駆使して業務を遂行することが出来なければ、あるいは出来るように頑張らないのなら足手まといになる。却って業務の妨げになる。IT関係の仕事でなくてもパソコン、インターネット、メール、英語などは最低限必要である。これが出来なくて働きたいのなら、ホワイトカラーの仕事を望んではいけない。

葛西選手と同様に働くということは若手に負けないつもりで働く気があるか、ということの裏返しでもある。65歳以上の就労者が若い人たちに負けない働きをすれば、人口の低下を補って日本経済の成長を保つことができるようになるかもしれない。葛西選手をお手本にして、少なくとも若い働き手よりも優れた成績を残せることを心掛ける年寄がたくさん増えると、日本は世界に先駆けた未来を作り出すことができる。葛西選手は日本に勇気をくれた。

(2014/02/18)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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