原油価格の急落は終わったのか?
先週は週刊エコノミストが「とことん分かる原油安」の特集を組んだのに続き、今週は週刊ダイヤモンドが「世界を揺るがす原油安超入門」、週刊東洋経済が「原油安ショック」と、国内の主要経済誌が相次いで原油相場急落を取り上げている。
マーケットの世界では、こうした大手メディアがこぞって取り上げるようになると「相場はおしまい」と皮肉られたりもするが、実際の所は今後の原油相場をどのように考えれば良いのだろうか。
まず足元の状況を確認しておくと、1月のNYMEX原油先物相場は1バレル当たりで前月から5.03ドル値下がりして48.24ドルとなり、月末時点の価格としては2009年2月以来となる約6年ぶりの安値を更新している。昨年7月からだと7ヶ月連続の下げ相場になるが、これはリーマン・ショックの発生した2008年7月~09年1月以来のことである。その当時は7ヶ月連続の下げで原油相場は底を打っており、今年2月はリーマン・ショック時の記録を更新するか否かの分岐点に差し掛かっている。
引き続き、国際原油需給が緩和状態にあることに関しては、ほぼ議論の余地がない状況になっている。中国経済の減速で世界石油需要が伸び悩む一方、シェールオイルなど非在来型原油の増産は続いている。石油輸出国機構(OPEC)もこの状況を変えるような動きは見せておらず、イラクなどは逆に増産傾向を強めている。こうした中、需給ギャップは世界の原油在庫増加という形で顕在化している。例えば、米国の原油在庫は直近の1月23日の週に4億バレルの大台に乗せている。原油相場が急騰していた07~08年当時は3億バレル前後だったが、今や在庫保管能力を増強しなければ、保管場所にも事欠く状況になり始めている。
世界の石油需要は日量9,250万バレル前後を推移していると推計されているが、石油輸出国機構(OPEC)のバドリ事務局長は日量150万バレルの供給過剰が存在しているとの見方を示している。
■専門家が注目している石油リグ数
しかし、急激な原油安は石油開発会社の経営環境を悪化させており、徐々にではあるが産油体制に対する影響が確認され始めている。
特に、ここ数ヶ月のマーケットで注目を集めているのが、米国における石油リグ稼動数である。石油リグとは油田の掘削装置の一式であり、これがどの程度の数稼動しているのか、稼動数が増えているのか減っているのかで、今後の産油量に対してある程度の見通しを描くことができる。余り一般の人が目にする統計ではないが、実はこの石油リグ稼動数が昨年10月以降に急激な落ち込みを見せている(下図参照)。
直近の1月30日時点では1,223基となっているが、これは昨年10月10日時点の1,609基から24%もの落ち込みになる。水準としては2012年1月以来となる約3年ぶりの低水準であり、シェール革命が始まってから最大の危機を迎えている。まだこれが実際の減産や増産停止には直結しておらず、シェールオイルは従来通りの増産傾向を維持している。その意味では、需給バランスの均衡化にはなお多くの時間が必要であり、瞬間的に直近安値(43.58ドル、1月29日)を下抜き、30ドル台に突入する可能性も否定はできないと考えている。1月下旬の原油相場は反発傾向を見せているが、原油安に終止符が打たれたと判断するのは時期尚早だろう。
ただ、「原油相場急落→生産体制の見直し→需給バランスの均衡化」という、サウジアラビアが目指した流れは着実に実現に向かっていることも事実である。いずれにしても再び従来の100ドル水準を試すような相場環境にはないが、年末に向けての上昇余地と下落余地を比較すると、徐々に前者(=上昇余地)の方が大きくなり始める価格水準・需給環境に突入し始めたと考えている。