円安は日本の競争力を奪う
最近、円安は日本経済にとって良くないのではないかと思うようになった。かつて円高は、輸出企業にとって悪とされた。ドル表示での価格が高くなりすぎて日本製品は高価になり、輸出企業の製品が売れにくくなった。しかし、半導体産業では、2021年の世界半導体産業に占める日本企業のシェアが10%だったが、22年は円安のせいもあり、9%に落ちた。
日本の半導体企業が世界のトップになったのは、1985年9月のプラザ合意によって円高が容認された直後からである。合意前に1ドル=242円だったのが、1985年末には200円を切り、86年には1ドル=150円まで進んだ。そのおかげで突如、1986年の世界半導体ランキングのトップにNECが来た(表1)。2位東芝、3位日立製作所、4位Motorola、5位TI、6位National Semiconductor、7位富士通、8位Philips、9位松下電子工業、10位三菱電機と日本企業が6社も占めるようになったのである(参考資料1)。
円安の時代は、例えば1981年でも日本の半導体産業は力をつけていたが、トップにはなれなかった。1980年代前半まではTIとMotorolaが常に1位、2位争いをしており、1981年でもNECの3位がやっとだった。
世界の半導体産業はドルベースで比較するため、円高であれば日本円での売上額が少なくてもドルにすると増えて見えるのである。ただ、円高が進みすぎると、輸出産業の製品価格が上がりすぎて売りにくくなる、という現象がクルマなどの産業で起きた。もちろん製品に付加価値がなければ価格競争に陥り円高は競争力が低下する。要は、付加価値を上げた製品であれば、円高でも競争力はあるのだ。
1ドル=100円の感覚が米国では当たり前だったころ、1ドル=80円台まで来るとさすがにきつい。外国人が日本に来る場合にはドルをたくさん支払わなければならなくなった。かつて2005年ごろの猛烈な円高で、輸出産業が苦しんでいた頃、あるアメリカ人から円高であなたの国の経済はいいわね、と言われたことがある。円高=日本経済に悪い、という図式が頭にあった筆者にはガツンと感じた。確かに、円高だと、原料や部品、部材を安く輸入できる。むしろ、円高で製品に付加価値を付けて売る方が日本産業にとっては良いのではないだろうか、と思うようになった。
円安は、日本のお金が安く評価されていることを表している。いつまでも円安が良いと思うようでは、日本の経済は良くならないのではないだろうか。円安が続けば、海外旅行、出張にはコストがかかる。輸出産業は製品をドル価格で安く売れるが、輸入する原料費が高くついてしまう。
結局、半導体産業だけではなくGDPも世界が上がっているのにもかかわらず日本だけがフラットでいるから、すなわち経済が成長していないから、輸入価格が高くなる。さらに円安になっているため、日本は輸入製品が高い。このため日本国内の物価を上げざるを得なくなっている。円安は日本を苦しめていると言えるのではないだろうか。
参考資料
1.「エレクトロニクスの50年と将来展望」、EDN Japan特別号(現在休刊)、2007年1月1日、旧リードビジネスインフォメーション社発行