「壱番屋」からみえる成功の秘訣と持続性
日本人のカレー好き、今後
カレーといえばインド人の次に消費が多い日本人。1976年、御飯が学校給食に出されるようになり、以前から出されていたカレーもごはんに合うことで一気に子供の好きな食べ物となり、今やすっかり国民食になっている。その一方で、高齢化が進むにつれ、減少するとも言われている。
理由の一つとして、カレーは、外食、中食ではなく、あくまで家で食べる料理、つまり内食に強いとされ、家庭で大量に作ることでおいしさが生まれる。しかし単身者の急増、そして高齢化から調理の煩わしさもある。簡易なレトルトカレーさえも、震災後、重要が少し増えたがその分、価格競争が起こり、売り上げは前年比10年より11年では2・9%ダウンしている。そんななか、カレー専門店に君臨し、チェーン展開で単独で成功しているところと言えば、1社のみ。壱番屋である。現在 国内1220店舗、海外進出(143店舗)もはたしている。そしてこれほどまでの店舗数を誇るカレー専門店は皆無である。
外食・中食では難しい商品 競合は家庭食
外食、中食の経営者の多くは、「カレーは国民食であり、オペレーションを考えると、大量に作ってクイックサービスなんだから、うちでも出来るじゃないか」とよく口にされる。「クイックと安易にそういわれても・・・レンジアップ商品も沢山あるし、差別化が難しい・・・」と思ってしまうのである。
これほど外食、中食、内食と競合がひしめき合っているところで成功するには、一見するとわからない根底に流れるゆるぎない考え方、方針が必要なのである。
ココイチの客数・客単価推移
人口減のなか、客数をあげることは至難の業であり、多くの場合、客単価を上げ、何とか売り上げを維持している。しかしココイチのように4月5月を除いて客数・客単価いずれもアップしているのは外食、中食産業においても非常に貴重であり、ここからも一見、参入しやすい業態に見えるが、壱番屋の堅牢なビジネスシステム、そして考え、方針があることがわかる。
ココ壱の強さ、システムと原料仕入れの安定化
「ココ壱番屋」の強さの秘訣は、ブルームシステム、19%株主でもあるハウス食品とのタッグがよく挙げられる。
強さのその1 ブルームシステム
フランチャイズとは違った「のれん分け」というブルームシステムが大きいとされる。巷にあるフランチャイズは、売上からロイヤルテイとして○%がとられ、その上、供給される食材にも利益がのっかっている状態である。所謂、二重取りという形が多い。しかし、このブルームシステムは違う。一定以上のスキルと勤務期間を経た社員に与えられる権利であり、オーナーになるには厳しく、最短で2年、多くは平均約5年要するとも言われる。事実、研修を受け、オーナーに残るのは1割と言われているほどだ。しかし、その一方でオーナーに対し、ココ壱の本部へのロイヤリティーが発生すること、つまり金銭的やり取りは一切生じない。これがココ壱の独自性である。
そして外食の成長時期から今、成熟期を迎えているなか、外食の成長期にこの制度を導入したことは、のれん分けという昔ながらの方法のようでいて先見性さえ感じる。
昨今、外食産業の経営者にヘッドハンテイングによる他業界からの登用が多く、皆が皆とは言わないまでも優秀であっても現場を知らない方が多々ある。やはり現場を知らないことにより、部下、そして店舗運営における間違った意思決定、そして判断が多く見受けられるのも事実。そのような経営者が長期に君臨した後、これまで培ってきた企業の持ち味、OPが崩れ、売上ががたんと落ち込んでしまった、戻らない例が幾度か見てきている。
このブルーム制度は、現場を知る大切さをよくよく企業が熟知した制度ともいえ、フランチャイジーに見受けられる脱サラからの店を持ったことで苦労することをこの研修教育で理解でき、これが規模の拡大につながったとも言える。
強さその2 仕入れ
一言でカレーといえど、カレーの仕入れ、スパイスの供給は非常に難しい。これまでも開発に幾度となく携わったことがある。というのは、外食、中食の経営者の多くは参入障壁がなぜか低いと思われるからだ。しかしスパイスは劣化しやすく、原産地の保管状況が劣悪な場合が多く、仕入れ値が大きく変動し原価調整が難しい。最近で言うと、コショウの高騰が挙げられる。壱番屋の株主でもあるハウス食品が仕入れを担うことで安定供給し、これが価格の安定にもつながるのだ。事実、値下げは一切していない。
強さのその1、その2の強み、つまり現場、仕入れという両輪の大切さは、よく言われていることである。
そして、やはり価格設定も無視できない。
強さその3 価格設定
最近、ようやく外食の方も中食の商品構成、価格に対し、敏感になってきた。しかし価格設定を見ると、まだまだその業界内の価格のみに目がいっているところも多い。壱番屋の平均単価873円は、ファミリレストランより低め、しかしファーストフードより高め価格であり、中食に目を転じると、カレーPBアッパー商品の価格2倍強、カレー丼においてはワンコイン500円となる。つまり店舗内でトッピングを作り立て調理で提供することで、中食、外食、各業態において、程よい隙間価格で店舗内調理を残しつつ、顧客に満足してもらっている。勿論、この価格設定を維持するには、強み1、強み2があってこそなのである。
今、持続性と言う言葉がよく聞かれる。外食では、労務の問題など他の業種よりシステム化がまだまだという印象が強い。しかし壱番屋を見ると、持続性という面からも他の業種に大きなヒントを与えてくれると思う。