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会食における感染対策 高齢者を守る観点から

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

やはり、新型コロナウイルスは冬を得意としていました。寒冷と乾燥、そして締め切った環境で、いま急速に広がっています。このパンデミックにおける、最大のヤマ場に差し掛かったと言えます。ここを乗り越えることができれば、春以降はワクチン接種など期待できる動きもあります。大事なときです。

年末年始に帰省を予定している方もおられると思いますが、最大限の感染対策をお願いします。とくに高齢者との会食には注意が必要です。この流行が落ち着くまで延期できるのなら、その方が良いと私は思います。ただ、いろいろな事情があるものです。最善の感染対策だけが、人生の正しい選択ではありませんから。

というわけで、いまのコロナ流行下において、高齢者との会食をセットすると決めたときの、リスクを最小化する取り組みについて紹介します。

14日前からの感染予防を徹底する

もっとも堅実な感染対策とは、潜伏期間の最大日数である14日間にわたって自己隔離してしまうことです。この間に発症せず、かつ周囲から感染するリスクを断っていれば、感染していない状態と言えます。

とはいえ、一般には、長期の自己隔離など非現実的でしょう。そこで、これに準じて、会食の14日前より感染予防をしっかり心掛けます。すなわち、人が集まる場所に入るときは、マスクを着用すること。公共のモノに触れたときは、(首から上を触る前に)手を洗うか消毒すること。ここも丁寧な積み重ねですね。

この間、発熱などの症状がないかを確認してください。そのための14日間です。症状を認めたときは、会食は延期とすることを強くお勧めします。なお、ここでPCR検査を受けて、その結果が陰性であったとしても、感染していないことを証明することはできません。ウイルス量の多い発症直後であっても2割程度は偽陰性とする報告もあり(Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):262-267.)、検査結果によらず会食を延期するのが原則です。

レストランでの会食

久しぶりに高齢者に会って食事をするなら、自宅よりもレストランでの会食とすることをお勧めします。自宅は共用スペースが多く、消毒も難しいので、多くの場合、レストランの方が安全です。

予約に当たっては、できるだけ個室としてください。難しい場合にも、他のテーブルから離れた場所、せめて別テーブルとの遮蔽がある場所など、高齢者が参加することを伝えて、店側に配慮をお願いしてみてください。

新鮮な風が流れ込んでくる場所を上座と考え、そこに高齢者は座っていただきます。窓の近くで風が流れ込んでくる場所、送風口の下などですね。ただ、寒冷に十分な配慮が必要です。ひざ掛けなどを準備しておくことも考えましょう。

高齢者の横と正面の席は、感染させるリスクが高いので同居している人で固めることが望ましいです その上で、同心円状に、時々会うことのある人、滅多に合わない人と座ってゆきます。

なお、(結論は出ていませんが)子どもからの感染は少ないとする報告もあるので、大人と子ども、どちらを高齢者の近くに座らせるか悩んだら、子どもを優先させた方が良いかもしれません(Kim J, et al. Arch Dis Child. 2020. DOI: 10.1136/archdischild-2020-319910)。

自宅での会食

次に、高齢者の自宅を訪問して、あるいは、高齢者を招いて自宅で会食する場合の注意事項です。

訪問者が入り口で手指消毒をして、会食時以外はマスクを着けて過ごすことは基本事項です。料理を手伝ったり、食器を並べたり、一緒にしたいところだと思いますが、訪問者はお客さんに徹した方がいいと思います。こうした共同作業のプロセスで、接触感染を予防するのは難しいからです。

テーブルにつく場所については、前項で述べた通り。もうひと工夫するならば、マスクが外れる会食時には換気を強化していただければと思います。部屋に換気扇があるなら、スイッチを入れておくのもひとつの方法です。可能なら、寒くない程度に窓を少しだけ開けてください。

風の流れが不十分だと感じるときは、扇風機を窓の外に向けて、部屋の空気を屋外へと流します。一方、人に向けて扇風機の風をあて続けると、感染リスクを高めるので避けてください。レストランにおける集団感染の事例では、扇風機やエアコンによる風の流れに沿って、感染者のいた風上から風下へと感染が拡がっていることが少なくありません。狭い部屋の空気をかき回すことは、ときに逆効果になってしまいます。感染対策としての扇風機は、換気扇として使うことが原則です。

会食すると決めたら、あとは楽しむ

ここまでがセッティング。ここから先は、会食を楽しんでくださいね。やれることは限られてますし、食べてる横から、あれこれ注意事項を言いたくありません。いつも言ってることですが、感染対策とはイベントの黒子役です。本来の目的を感染対策が台無しにしてしまうことがないように・・・。

私たち専門家としても、「会食は楽しくなかったけど、感染対策は完璧だったね」などと言われたくありません。病院における感染対策も同様で、「病気は治らなかったけど、感染対策は完璧だったね」となっては意味がないのと一緒です。

ただ、アルコールの飲み過ぎには注意してください。あと、お酌をして回るのもやめましょう。興に乗じて歌うのもやめましょう。と、結局、いろいろ言ってますが、実際には、できる範囲でやるしかありません。ただ、できることはやった方がいいと思います。

最後に・・・ 高齢者の方々へ。

帰省するご家族は、いろいろと工夫と努力をしていると思います。皆さんも、平素から感染予防を心掛けて、お迎えいただければと思います。そして、持病のある方は、コロナの予防だけでなく、医師の指導を守って生活習慣病の合併症予防を心掛けてください。

コロナが流行していることもあり、この機会にタバコを止めておくこともお勧めします。年末年始、食べすぎ、飲みすぎにも注意してくださいね。心身を健康に保ち、免疫を高めておくことこそ、感染予防における基本ですから。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画記事です。】

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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