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法施行間近で自称・ホワイト企業に増える、見せかけの「ホワイトウォッシュ」とは

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
やり方を間違えると法令違反になりかねません(ペイレスイメージズ/アフロ)

■2019年は「人」の年になる?

11月も終わりに近づき、ビジネスパーソンの多くは、来年および来年度のビジネス環境について色々と情報収集をする時期かと思います。

そこで本記事では、来年のトレンドということで、2019年4月からの労働関連法改正により、企業は労働時間規制の見直しや非正社員の待遇改善などで、様々な対応を迫られていることについて解説したいと思います。ただ、私は労働法ではなくCSR(企業の社会的責任)が専門ですので、従業員に対する社会的責任ということで、いわゆる「ホワイト企業」についての課題をまとめます。

■ホワイト企業と法改正

ホワイト企業という単語は随分浸透してきていると思いますが、ホワイト企業とは、劣悪な労働環境の組織を指す「ブラック企業」の対比語として生まれました。その特徴としては「福利厚生が充実している」「労働関連法を守っている」「離職率が低い」「残業時間が少ない」など、従業員への配慮が行き届いている企業を指します。いわゆる、ワークライフバランスが進んでいる企業とも言えます。

さて、今回紹介する、すべてのビジネスパーソンが注目すべき法律というのが、2018年6月に可決成立しまして2019年4月1日より施行なる「働き方改革関連法案(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)」です。「時間外労働の上限を厳格化」「年次有給休暇取得の義務化」「インターバル制の努力義務化」「産業医・産業保健機能の強化」「同一労働同一賃金」「高度プロフェッショナル制度の創設」などが改正のポイントです。全体的な労働格差の是正に貢献するとされていますが、もちろん問題がないわけではないため、企業担当者は当然ながら、すべてのビジネスパーソンが自身で、今後自分のビジネス環境が変わるのか確認しておきたいところです。

さて、そのような法改正ですが、今までホワイト企業とされた組織であっても、適切な対応がされなければ法令違反も含めて、グレー企業(ホワイトとブラックの間)認定されかねません。そしてその対応ができたからといって、今まで通りのリクルーティングをしていると、それはそれで新しい問題に発展してしまう可能性があります。詳しく説明します。

※施策の一部は、企業規模等により2020年4月以降に施行のものもある

■見せかけだけ、はリスクになる

経営層含めて、すべての従業員は自分にメリットの大きい労働環境に身を置きたがります。これは当然ですね。そうなると実際は「やりがい搾取」や「見せかけだけの制度」であっても、全業種で人手不足とも言われている現代において採用活動で競合より優位に立つために、労働環境の健全性をアピールする(ホワイト企業であるとアピールする)ことが重要になってきています。そうすると施行後の4月から何が起きるかというと「ホワイトウォッシュ」な企業が増える、ということです。

ホワイトウォッシュとは、いくつか意味がありますが「漆喰を塗る→うわべを取り繕う」という意味を指します。映画などで、原作がアジア人であったキャラクターを改変して白人に置き換えることを指す問題もホワイトウォッシュといいますが、今回使うホワイトウォッシュは「見せかけだけのホワイト企業」つまり、労働環境がとてもよいと言っているのに、実際に入社してみたらブラック企業だった、というものを指すこととします。

■ホワイトウォッシュにならないようにするには

CSR界隈ではうわべだけの施策である「〇〇ウォッシュ」という単語をよく見聞きしますが、もともとは「グリーンウォッシュ」から始まったと言われています。

グリーンウォッシュとは、環境配慮がうわべだけである企業活動等を指し、グリーン(木々の色で、環境問題のシンボルカラー)とホワイトウォッシュを掛け合わせた造語です。グリーンウォッシュにならないためには「曖昧な印象の言葉は避ける」「分かりにくい表現は避ける」「証拠ゼロは避ける」「論理性に欠ける場合は避ける」「暗示的な図は避ける」などの工夫が必要とされています

これらの指摘はホワイトウォッシュでもほぼそのまま活用できます。自分たちはホワイト企業だと主張したいのはわかりますが、既存の従業員にも求職者にも誤解を招く表現になるのでよろしくありません。結局大げさな表現で人を集めても、ミスマッチで退職者が増えるだけです。見せかけでもそういう情報開示を企業が行いたがるのは、当然メリットがあるからです。少しくらい大げさに言って入社してもらってかまわないよね?という魂胆がみえみえです。

特に今までは問題がなかったとしても、来年4月以降は様々なカテゴリで労働者側の権利拡大が行われるので、アウトになる事例も増えてきます。人事・法務・CSRなどの部門では、ホワイトウォッシュにならないように、前述の注意点を確認しながら、様々なコミュニケーションを行わなければなりません。

■自社以外の従業員も?

ここで問題なのが「取引先・従業員への配慮」です。法令では当然自社従業員が対象となるのですが、グローバルな視点でいうと、企業はサプライチェーン全体の労働問題への配慮が必要とされています。自社だけホワイトでも、負荷を他社におしつけていては、社会全体として何もよくなっていないということです。当然、無理を通すような要求を取引先にしてはいけません。今までは“客の言うことだから”で対応してくれたかもしれませんが、労働環境の改善により対応が難しくなる企業もでてくるでしょう。

特にこのカテゴリについて、外部のステークホルダーから追及されるのは、上場企業で時価総額が高い上位500社程度の企業です。これらの企業は、投資家サイドからどこまで対応しているか問われ(これをESG投資という)ますが、昨今の盛り上がりもあり今後はより追及されるようになるでしょう。

ESG投資とは、E:環境(environment)、S:社会(social)、G:企業統治(governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資のことです。環境活動はもちろんのこと、S:社会のカテゴリでは特に「人権・労働慣行」の問題が重視されています。ホワイトウォッシュな活動が続いてしまうと、ESGの外部評価が落ちて株価下落などより深刻な問題になってしまう可能性もあります。

また、自社の従業員だけではなく、サプライチェーン(バリューチェーン)における労働者にも配慮しなければ、ホワイトウォッシュな企業になってしまう可能性もあります。企業としては大変な時代に入ったということもありますが、不可逆なトレンドである以上、今まで以上に人材に配慮する経営が求められています。その一部が今回の法改正で義務化されたのです。そのため、この人材を大切にしかつ活用できた企業が次のステージに行けるチャンスというわけです。

■従業員の価値を活かせているか

いつの時代も「人」は、経営のリスクでもあり機会でもあります。ワークライフバランス(労働環境)、ダイバーシティ(多様性)、ディーセントワーク(働きがいのある仕事)など、労働環境に関わる概念もずいぶんとビジネスパーソン全体に浸透してきたようにも思います。しかし、会社として制度設計から運用までができているかというと、現場レベルではまだまだな企業のほうが多いです。

毎年「1月1日」と「4月1日」は法律の施行が多いので、自分の仕事でかかわる各種法令はもちろんのこと、自身の労働環境をよく確認しましょう。そして人事や広報・CSR担当者は、自社で「ホワイトウォッシュ」が起きないようご注意ください。そうでないと、企業も従業員も不幸なことになってしまいますので。従業員も自社の取り組みにより注意を払うようにしましょう。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会/代表理事。法政大学イノベーション・マネジメント研究センター/客員研究員。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』『創発型責任経営』ほか多数。国内上場企業を中心に15年以上サステナビリティ経営支援を行い、またテレビ、新聞、週刊誌、ニュースメディア等でも解説を多数担当。

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