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日陰の存在を脱して陽が当たるノンバンク金融仲介

森本紀行HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長
すべての画像:123RF

 産業界にとって、融資を受けることは、基本的な資金調達手法ですが、融資を行うものには、バンクのほかに、ノンバンクがあります。さて、ノンバンクの社会的存在意義は、どこにあるのか。

金融仲介と資本市場

 金融仲介機能、あるいは間接金融においては、個人貯蓄は、銀行等の預金取扱金融機関の預金として形成され、預金取扱金融機関は、その預金を原資として、産業界に融資しています。それに対して、資本市場機能、あるいは直接金融においては、産業界は、債券や株式等の有価証券を発行し、それらは、個人貯蓄によって、投資対象として取得されます。

 しかし、他方で、融資は、単純明瞭な金融技法であって、預金取扱金融機関でなくとも、簡易な規制の枠組みのもとで、誰でも事業として行うことができます。預金取扱金融機関ではない貸金業の事業会社は、ノンバンクと呼ばれ、それに対して、ノンの付かないバンクは、銀行を中心とした預金取扱金融機関の総称を指しています。

バンクとノンバンク

 バンク、即ち、預金取扱金融機関は、金融業態のなかでも、最も高度かつ厳格に規制されています。なぜなら、預金は、貨幣の現実的な存在形態として、決済手段として、貯蓄手段として、信用制度の基礎として、極めて重要な社会的機能を演じているからです。こうして、預金が高度に規制されていることにより、それを原資としたバンクの融資は、高度に規制されることにならざるを得ないわけです。

 バンクにとって、高度に規制されることは、一方で、融資対象の範囲等が制限されるなどの制約になるものの、他方では、高い参入障壁のもとで、特権的な預金取扱業務を通じて、融資の原資の調達が安定するという非常に大きな利点になります。それに対して、ノンバンクにおいては、確かに融資業務における規制上の拘束は少ないものの、原資の調達には高度な工夫が必要になります。

バンクのノンバンクへの融資

 バンクに、制約上、融資できない先のあることは、金融排除と呼ばれていますが、金融の社会的課題は、常に、金融排除の解消へ向けた努力にあって、そのなかからノンバンクが生まれたのです。つまり、バンクの融資対象にならない案件でも、ノンバンクの融資対象にはなり得るので、バンクはノンバンクに融資し、ノンバンクは、それを原資にして、バンクの限界の外に融資すれば、バンクは、ノンバンクを通じて、間接的に融資対象を拡大できるわけです。

 では、バンクは、ノンバンクの融資先に融資できないのに、なぜ、ノンバンクには融資できるのか。様々な実務上の問題があるにしても、金融理論的には、二つの論点が重要です。

 第一に、信用リスクが大きくてバンクの融資対象にならない案件でも、ノンバンクにおいて多数の案件が集積されれば、分散効果によって、全体の信用リスクが削減されるので、ノンバンク自体はバンクの融資対象になるのです。この効果は、個人向け融資を行うノンバンクの場合に、特に大きくなります。

 第二に、ノンバンクの自己資本による信用リスクの吸収です。つまり、融資先に信用リスクが顕在化し、ノンバンクが損失を被るとしても、その損失は、最初にノンバンクの自己資本の厚みよって吸収されるので、バンクのノンバンク向け融資債権は、直ちには劣化しないわけです。

ノンバンクによる資本市場調達

 ノンバンクは、バンクからの融資に依存している限りは、金融仲介機能、あるいは間接金融の枠組みのなかで、特殊な地位を占めるにすぎません。しかし、ノンバンクの資金調達の主たる手法が社債と株式の発行になり、それらが個人貯蓄による投資対象になれば、金融構造が資本市場機能、あるいは直接金融を中軸にしたものに移行していく自然な第一歩となります。

 ノンバンクの社債については、普通社債のほかに、資産担保証券があり得ます。その仕組みは、ノンバンクが保有する貸付債権の集合を特定目的会社等に譲渡し、その貸付債権の集合から生じる利息金と元本の回収金を裏付けとして、特定目的会社等が債券を発行するもので、ノンバンクにとっては、資産を圧縮して、経営効率を高められる利点があります。

金融仲介と資本市場の中間にあるノンバンク

 資本市場機能の本来のあり方においては、産業界の企業等は、直接に資本市場で株式や社債を発行して、資金調達します。それに対して、ノンバンクは、バンクの金融仲介に代わって、産業界に融資し、産業界による資本市場での資金調達に代わって、資本市場で資金調達をしています。

 実は、こうして、金融仲介機能と資本市場機能を媒介するところに、ノンバンクの重要な社会的存在意義があります。つまり、ノンバンクが必要とされる背景には、バンクから融資を受けられずに金融排除されるものは、資本市場で資金調達することもできないという金融の構造的矛盾があるわけです。

ファンドによる融資

 近時、世界的に、バンクへの規制が強化されてきたなかで、融資は、投資運用業における投資対象として、重要な役割を演じるようになってきました。ただし、ここで注意すべき点は、投資運用業者は、一般に、投資対象の創造は行わず、他の専門家が創造した資産を投資対象として取得しているのに対して、融資の場合には、投資運用業者自身が案件を創造するのですから、それを可能にする高度な技術が要求されることです。

 また、投資運用業という枠組みは、融資の原資の調達手法のなかでは、最も柔軟性の高いことが重要です。つまり、ノンバンクの場合には、自己資本の範囲内でしか損失を吸収し得ないのに対して、投資運用業の場合には、運用資金の全額について、損失吸収可能なのです。逆にいえば、投資家は、それだけのリスクを負担するわけですから、それに見合う高い投資収益を期待するのです。

 投資運用業での融資は、顧客の運用資金をファンドに統合して、実行されますから、投資運用業者の運用するファンドが融資するという外貌を呈します。こうして、バンクによらない融資には、主として、事業会社としてのノンバンクによる融資と、ファンドによる融資との二形態があることになります。あるいは、広義のノンバンクには、事業会社形態とファンド形態があるといってもいいでしょう。

シャドーバンキングからノンバンク金融仲介へ

 金融安定理事会(Financial Stability Board、FSB)は、かつては、広義のノンバンクによる融資、即ち、バンクではないものが行う融資の総称として、シャドーバンキング(shadow banking)という用語を使っていました。しかし、最近になって、それを廃止して、新たにノンバンク金融仲介(Non-Bank Financial Intermediation、NBFI)という名称を導入しています。

 シャドーバンキングという用語には、バンクに対する規制が太陽に見立てられ、陽の当たるところに、バンクによる融資があり、陽の当たらない影に、広義のノンバンクによる融資があるとの語感があって、そこには、バンクを金融仲介の本流として上位におく発想が明らかです。それに対し、ノンバンク金融仲介という用語には、金融仲介において、バンクとノンバンクを並列におく思想があると考えられます。

 世界的な金融システムの安定化については、バンクに対する規制強化で実現しようとすれば、必然的にノンバンクの成長を促すことになります。そして、事実として、近時、ノンバンク金融仲介の存在感が増してきたわけで、こうした用語の変更には、金融安定理事会としても、そこに着目せざるを得なくなった背景があります。

 しかし、だからといって、ノンバンク金融仲介を過剰に規制すれば、金融排除が拡大する可能性が高く、金融の高度化は、常に、金融規制と金融排除との間の構造的矛盾をめぐって、展開されるほかないわけです。

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、1990 年1 月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。 2002 年11 月、HC アセットマネジメントを設立、全世界の投資機会を発掘し、専門家に運用委託するという、新しいタイプの資産運用事業を始める。東京大学文学部哲学科卒。

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