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「人生を変える挑戦」を社員募集でアピールするオーストラリア飲食企業の狙いとは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
オーストラリアで日本人社員を募集しているREBEL代表の堀場健太氏(筆者撮影)

「和僑」という言葉がある。これは一般的に使われている「華僑」の日本版。華僑とは「中国国籍を持ちながら世界で生活する人」を指していて、それになぞらえて「日本国籍を持ちながら世界で生活する人」を指している。ここに「海外で雄飛する」という力強い意味を込めて「海外進出を果たした日本人企業家」のことをイメージして使われている。

オーストラリアでの長期的な就労の道を用意

オーストラリアと日本で飲食業を展開しているREBELという会社では、同社のオーストラリア事業部で日本からの社員の募集を行っている。まさに「和僑を目指そう」というスタンスだ。同社は2019年4月に代表の堀場健太氏(34歳)が立ち上げて、現在はオーストラリア国内に飲食のリアル店舗を4店舗、ゴーストレストランを11ブランド70アカウント展開している。

https://rebel-japan.com/

この社員募集でアピールしている象徴的な文言は「Life-Changing Challenges」(=人生を変える挑戦)である。

そして、このように表記している。

「成長意欲はあるけれど、熱中することが見つからない。そんな方々に向けて、REBELでは海外で挑戦するという選択肢を提供しています」

「英語力、経験を問いません。短期的(1年)な雇用形態から、将来の永住を見据えた長期採用まで、個別に対応させていただきます」

https://rebel-japan.com/auth-recruit/

この社員募集のポイントは「短期的(1年)な雇用形態から、将来の永住を見据えた長期採用まで、個別に対応させていただきます」ということだ。

日本国籍の人がオーストラリアで就労する道は「ワーキング・ホリデー」が知られている。これは、18歳から30歳の人が1年間「休暇を楽しみながら」現地で就労するという制度。

そこで、さらに現地で就労を継続する希望を抱いた場合は「スポンサービザ」が必要となる。

https://www.soledu.net/jp/visas/sponsorship-visa-for-work-457/

就労ビザが取得しやすい環境を整える

REBELがオーストラリア事業の社員募集を強くアピールしている背景には、この「スポンサービザ」を取得しやすい環境を整えていることが挙げられる。これを「スポンサーシップ」という。

REBELで日本国籍の人が就労する場合は、18歳から30歳の人はワーキング・ホリデーで入ってもらう。ただし「就労に専念する」ことが条件となる。

そして、REBELで半年間就労し、同社の「店舗で実績を出した」と認められてから「スポンサービザ」を取得する道を用意している。オーストラリアで就労する外国籍の人が「スポンサービザ」を取得するためには3つのステップがある。

それは「雇用主の審査(スポンサーが必要)」「職種の審査(フルタイムの正社員)」「就労者の審査(許可された職種でのみ就労可能)」というもの。

REBELが多業態を展開しているのは、スポンサービザを取得しやすい環境をつくるためである。「店舗で実績を出した」とカギカッコ付きで前述したのは、本人の経歴がその役職を担うことの実績が伴っているか、オーストラリア移民局が判断するからだ。さらに、英語力が問われる。

https://www.yappango.com/keywordpage/australia_visa.html

オーストラリアは世界で活躍するための近道

REBELではスポンサービザを取得しやすいように事業展開を行い、2020年に「スポンサーシップ」が認められた。

同社の「オーストラリア事業部、社員募集」のURLを先に貼っているが、それを見ると社員の待遇は良い。堀場氏によると「仕事に自分事として取り組んでいること」が前提となっている。これは後述するが、このコロナ禍にあっても、オーストラリアで奮闘する社員に裁量権を与えてきたことが背景に挙げられる

この「社員募集」は「オーストラリアは働きやすい環境の国」「滞在期間中の面倒はすべて会社が見る」「給料は高待遇」といった「働きやすくて楽な職場」をうたった社員募集ではない。具体的には、渡航費は自己負担、宿の確保は会社が1カ月間程度世話をするが、その後は自分で住むところを捜して、自立した生活を営む。このガイドラインとして、社員募集の中に「移住1年目、月度収支シミュレーション」を掲載している。

堀場氏はこう語る。

「この社員募集は、自分でオーストラリアの現実と向き合って行動するチャンスを、わが社が差し上げる、ということ。ですから『人生を変える挑戦』なのです。わが社で、自分の夢を切り拓く力を培って、仕事を通して、目標を追って頑張ろう、ということ」

「私は、日本の食文化を海外で伝えていくということをミッションとしている。『こんなことをやりたい』という人を、私は増やしていきたい。『オーストラリアが魅力』ではなく『世界で通用する自分』をつくろう、それを私たちと一緒に育てて行こう。私たちはそのボールを持っているのです」

オーストラリアは多様な国籍の人が住む国であり、多様な背景の人が集まっている。自分を鍛えて世界に通用する「和僑」となる環境が整っている。「だからこそ、オーストラリアで働く意義がある」と堀場氏は語る。

外食企業に入社しオーストラリア事業に参画

堀場氏がオーストラリアで事業を起こした沿革を紹介しよう、

堀場氏は、1989年11月生まれ。東京・町田の出身。2012年4月に外食企業に入社する。新卒3期生であった。堀場氏は10代の頃から「将来は飲食業で独立したい」と考えていて、就職活動に取り掛かる前から、同社の力強い事業展開を注目していた。そこで「自分はこの会社で成長することが出来る」と入社を決断した。

同社では2012年5月に「オーストラリア事業」を立ち上げ、翌6月それに参画する人材の募集を行った。堀場氏は入社して2カ月に満たない段階であったが、その募集に手を挙げた。50人応募がある中で3人のメンバーに選ばれた。その2週間後シドニーに移り、現地の事業に取り組んだ。

オーストラリア事業の第一弾は、カフェテリア方式のうどん店(「丸亀製麺」のイメージ)。シドニーの中心部から車で15分程度、アジア人が多く住むエリアのショッピングモール内での営業。走り出した当初はなかなか軌道に乗ることができず改善を重ねていった。

堀場氏の前職の事業をバイアウトして事業を継続。ここで誕生した「チキンカツカレー」が飛躍しつつある(REBEL提供)
堀場氏の前職の事業をバイアウトして事業を継続。ここで誕生した「チキンカツカレー」が飛躍しつつある(REBEL提供)

その過程で「チキンカツ」のカレーがヒットした。豚肉ではなく「鶏肉」を選択した理由は、豚肉の場合、イスラム教徒が食べることができないといった、食の禁忌に触れることが多いから。特に多様な国籍の居住者が多いオーストラリアではチキンカツが人気を博す土壌があり、世界に広がる可能性を秘めていた。

このショッピングモールのうどん店で誕生したチキンカツカレーは「Ken-Chan Curry」となり、リアル店舗やゴーストレストランとして展開するようになった。2017年にはマレーシアのオーナーが加盟店となり、現地で10店舗以上を展開している。

堀場氏は2019年3月に同社を退社してREBELを設立し、前職の会社からうどん店を買い取らせていただいた。こうしてREBELの社是である「いっぱいのカレーから始まる恩返し」が誕生した。

「チキン」には宗教上の食の禁忌に触れることなく世界中の人が食べることができて「チキンカツカレー」は世界に広がる可能性を秘めている(REBEL提供)
「チキン」には宗教上の食の禁忌に触れることなく世界中の人が食べることができて「チキンカツカレー」は世界に広がる可能性を秘めている(REBEL提供)

「チキンカツカレー」を「すし」「ラーメン」に並ぶ日本食へ

REBELでは、日本からのワーキング・ホリデーが中心となった人材によって、リアル店舗とゴーストレストランを展開していくが、2020年に入りコロナ禍が直撃した。ロックダウンとなったことから、リアル店舗は営業が出来ず、ゴーストレストランがメインとなる。そこで、堀場氏はオーストラリアでの資金繰りを図るために日本に一時帰国。オーストラリアでは現地の社員が既存の事業をコントロールすることになった。そして堀場氏は2020年12月、JR中野駅北口から徒歩5分程度の飲食店街に「Ken-Chan Curry」を出店した。

2020年12月、JR中野駅北口から徒歩5分程度の場所にカレーショップをオープン。6坪と小ぶりながら月商でマックス550万円を売り上げている(REBEL提供)
2020年12月、JR中野駅北口から徒歩5分程度の場所にカレーショップをオープン。6坪と小ぶりながら月商でマックス550万円を売り上げている(REBEL提供)

同店は6坪と小ぶりながら、特徴がとがっていない飽きのこない食味がすぐに人気を博し、たちまち繁盛店となった。通常で月商400万円、マックスで550万円を記録したことがある。このハイレベルの売上は、オーストラリアで培ってきたデリバリーのノウハウが活かされている。これらの月商のうちデリバリーが300万円を占めている。

オーストラリア現地の社員とはコミュニケーションルールを取り決めて、毎日LINEを交換した。オーストラリアで会社を立ち上げてから社員に裁量権を与えて、主体的に仕事に取り組む土壌はできている。REBELの中にこのような環境が培われていることから、同社の「人生を変える挑戦」という社員募集の呼びかけにつながっている。

堀場氏は、2024年の1月にオーストラリアに戻り、日本でのチキンカツカレー事業をコントロールしながら、チキンカツカレーのグローバルな展開を推進していく構えだ。2025年にはアメリカでリアル店舗を成功させて、ここを土台にアジアを中心とした世界各国でライセンス展開を図ろうとしている。そして「チキンカツカレー」を、海外の人が日本食として真っ先にイメージする「すし」「ラーメン」に並ぶものに育てていきたいと語る。

「Ken-Chan Curry」は多様な背景を持つひとが集まるオーストラリアで定着するスピードが速く、人気商品となっている(REBEL提供)
「Ken-Chan Curry」は多様な背景を持つひとが集まるオーストラリアで定着するスピードが速く、人気商品となっている(REBEL提供)

堀場氏が率いるREBELは「和僑」としての力強い歩み方をしている。厳しいコロナ禍を潜り抜けて、より一層強い体質が培われたことであろう。同社の「人生を変える挑戦」という社員募集の呼びかけに強い説得力を感じる。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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