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ガラッと変わった 相続法ここに注意!vol.5~妻が多く遺産を取得できる「持戻し免除の推定規定」

竹内豊行政書士
残された妻が多くの遺産を取得できる「持戻し免除の推定規定」がスタートします。(写真:アフロ)

平成30年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(改正相続法)が成立して相続の姿がガラッと変わりました。

そこで、相続法が変わったことによる注意点をシリーズでご紹介しています。

自筆証書遺言の残し方自筆証書遺言の保管制度相続人以外の者による貢献の考慮、そして遺産分割前の払戻し制度に続いて、今回は「遺産分割前の払戻し制度」です。

今まで~夫婦間の自宅の贈与は「遺産の先渡し」とみなされてしまった

たとえば、亡き夫が生前、妻に対して、居住用不動産(自宅)を贈与した場合、その自宅は遺産の先渡し(特別受益)して取り扱われてしまいました(民法903条)。

民法903条(特別受益者の相続分)

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

妻が受け取る遺産は生前贈与を受けなかった場合と変わらなかった

そのため、亡き夫の遺産分割で、妻が受け取ることができる財産の総額を計算するときには、生前贈与を受けた自宅の分を「遺産の先渡し」を受けたものとして取り扱われてしましました(この制度を「持戻し」といいます)。その結果、生前贈与を受けなかったときと変わりませんでした。

亡き夫の妻に対する想いが反映されない遺産分割になってしまった

一般に、長期間の結婚生活を過ごしてきた夫が妻に自宅を生前贈与する意図は、「自分の死後に妻が生活に困らないように」といったように、妻の老後の生活保障です。しかし、生前贈与した自宅が特別受益として持戻して取り扱われてしまっては、夫の妻に対する想いが反映されない結果になってしまいました。

こう変わる~残された妻は多くの財産を受け取れる

今回の相続法改正で、結婚期間が長期間の夫婦間で、配偶者に対して自宅の遺贈または贈与がされた場合には、持戻しを免除する意思表示があったものとして推定し、遺産分割において、原則として自宅の持戻し計算を不要とする(自宅の価額を特別受益として扱わずに計算することができる)規定を設けました。この規定のことを持戻し免除の推定規定といいます(民法904条4項)。

その結果、自宅について遺贈または生前贈与や遺贈を受けた配偶者は、結果的により多くの相続財産を得て、生活を安定させることができるようになります。

ここに注意! 持戻し免除の推定規定

持戻し免除の推定規定の注意点は次のとおりです。

婚姻期間が20年以上必要

持戻し免除の推定規定が適用されるのは、婚姻期間が20年以上の夫婦です。その理由は、自宅は長期間にわたる夫婦の協力のもとで形成された財産であるということ前提としているからです。

法律婚以外は対象外

この規定の対象者は法律婚をしている夫婦です。したがいまして、内縁、事実婚、同姓パートナーの関係の方は対象とされていません。

自宅(居住用不動産)に限られる

この規定の対象となる財産は、配偶者に対して自宅が遺贈・贈与された場合に限られます。その他の財産の遺贈・贈与については、持ち戻し免除の推定規定はあたりません。

開始時期

この規定は、2019年7月1日からスタートします。

将来、残すことになる妻(もちろん夫でもかまいません)の生活保障が気がかりな方は、持戻し免除の推定規定の活用を検討するのもありではないでしょうか。

「ガラッと変わった相続法 ここに注意!」バックナンバー

Vol.1 自筆証書遺言の残し方

Vol.2 自筆証書遺言の保管制度

Vol.3 相続人以外の者による貢献の考慮

vol.4 遺産分割前の払戻し制度

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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