アトピー性皮膚炎の炎症を抑える新薬トラロキヌマブ - 2年間の臨床試験結果
【IL-13を標的としたアトピー性皮膚炎治療の新たな選択肢】
アトピー性皮膚炎は、慢性的な皮膚の炎症を特徴とする難治性の疾患です。かゆみを伴う湿疹が繰り返し現れ、患者のQOLを大きく損ねます。アトピー性皮膚炎の発症には、遺伝的要因と環境要因の両方が関与しており、皮膚バリア機能の異常や免疫系の過剰反応などが病態の中心的な役割を担っていると考えられています。
近年、アトピー性皮膚炎の病態形成においてインターロイキン13(IL-13)が重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。IL-13は、皮膚の炎症と皮膚バリアの異常を引き起こす主要なメディエーターの一つです。そこで注目されているのが、IL-13を特異的に中和する新しい生物学的製剤トラロキヌマブです。
トラロキヌマブは、IL-13受容体との結合を阻害することでIL-13のシグナル伝達を遮断し、皮膚の炎症と皮膚バリア異常を改善します。第III相臨床試験ECZTRA 1およびECZTRA 2では、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者を対象に、トラロキヌマブの有効性と安全性が評価されました。その結果、トラロキヌマブ投与群では、プラセボ群と比較して、投与16週目までに皮疹の面積・重症度スコア(EASI)が有意に改善し、そのレベルが2年間維持されることが示されました。
【トラロキヌマブがアトピー性皮膚炎の皮膚および血清バイオマーカーに及ぼす影響】
トラロキヌマブによるIL-13の中和が、アトピー性皮膚炎患者の皮膚および血清バイオマーカーに及ぼす影響も検討されました。投与16週目までに、トラロキヌマブ投与群では血清中のCCL17/TARC、ペリオスチン、IgEなどのバイオマーカーが有意に減少し、表皮の肥厚が改善、ロリクリン(皮膚バリア関連タンパク質)の発現が増加しました。
さらに、トラロキヌマブ投与2年後には、病変部皮膚においてTh2、Th1、Th17/Th22関連遺伝子の発現が非病変部レベルまで改善し、表皮分化および皮膚バリア関連遺伝子の発現が正常化しました。興味深いことに、動脈硬化関連遺伝子の発現パターンも非病変部の状態に近づきました。
アトピー性皮膚炎は単なる皮膚の疾患ではなく、全身性の慢性炎症性疾患と捉えるべきでしょう。IL-13を標的とした治療は、皮膚のみならず全身の炎症反応を是正し、動脈硬化などの合併症リスクを軽減する可能性も秘めているのかもしれません。
【IL-13阻害がアトピー性皮膚炎の病態を多面的に改善】
トラロキヌマブによるIL-13の選択的阻害は、アトピー性皮膚炎に特徴的な免疫活性化や皮膚バリア機能異常を是正し、かゆみに関連するIL-31の発現も抑制しました。これらの結果は、臨床的な皮疹の改善やかゆみの緩和とも合致しており、IL-13がアトピー性皮膚炎の病態形成に重要な役割を果たしていることを裏付けるものです。
トラロキヌマブは、アトピー性皮膚炎という複雑な病態を多面的にカバーする治療法と言えるでしょう。IL-13の選択的阻害だけでアトピー性皮膚炎の免疫異常を是正できるという今回の知見は、IL-4とIL-13の両方をブロックする既存の生物学的製剤デュピルマブと同等の効果が期待できることを示唆しています。トラロキヌマブは、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者にとって新たな治療選択肢になると思います。
参考文献:
Wollenberg A et al. Tralokinumab for moderate-to-severe atopic dermatitis: results from two 52-week, randomized, double-blind, multicentre, placebo-controlled phase III trials (ECZTRA 1 and ECZTRA 2). Br J Dermatol. 2021;184(3):437-449. doi:10.1111/bjd.19574
Allergy. 2024 Apr 2. doi: 10.1111/all.16108.