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「今日も元気にいってらっしゃい!」過酷な修行を成し遂げた塩沼亮潤大阿闍梨が毎日ラジオで伝えていること

川元茂編集者/『Kappo 仙台闊歩』元編集長 
2月23日に放送された特別番組の収録風景

仙台市秋保・慈眼寺の住職で、大峯山千日回峰行満行大阿闍梨である塩沼亮潤さんのラジオ番組『今朝の一言』(Datefm 77.1Mhz/宮城県仙台市)が、今年放送開始5周年を迎えた。朝8時35分過ぎから約2分の短い番組だが、実に1350 回の放送を数え、月曜から金曜までの平日の朝、被災地・宮城に元気と勇気を届けている。

5周年を記念した生放送で塩沼さんは、「できるだけ日々の出来事を交えて、ためになるような、ヒントになるような、そんなお話を心がけています」と語った。千日回峰行満行の行者がラジオ番組のパーソナリティをするとはどういうことなのか。2月23日に放送された5周年の特別番組に密着した。

寄せられるたくさんのメッセージ

「震災で家は半壊でした。塩沼さんがよくおっしゃっている『できることをひとつずつ』という言葉を胸に生活していたら11年が経っていました。おかげさまで、主人は復職し、周りの方に支えられ社会復帰。いまは主人とともにボランティアに関わり、恩返しをしています」

「放送の時間は車イスで生活している娘を支援学校に送る時間です。大阿闍梨の『いってらっしゃい!』に、大きな声で『いってきます!』と応えます。送迎の毎日を番組で背中を押していただいています。これからも今朝の一言、そして、いってらっしゃい!をよろしくお願いします」

「毎日家事をしながら聞いています。改めて気づかされること、なるほどなあと思うこと、自分に置き換えて考えることがあって、そんな時はメモを取っています」

(※番組に寄せられたメッセージから抜粋しています)

普段は収録だが、この日は久しぶりの生放送。リスナーからのメールを読み上げながら、軽妙な掛け合いが続く。メールの多さに、塩沼さんが日々発信している言葉がリスナーに届いていることを実感する。ラジオを通して会話をしているかのようだ。

『今朝の一言』がはじまったのは2017年1月。塩沼さんにとっては初めてのラジオ番組だった。「何ごとにも挑戦することをモットーにしていますが、ラジオで話す行為は思った以上に大変でした。緊張の連続です。日常会話とラジオでの声の出し方はまったく違いますし、話す内容も日々考えなくてはなりません。これも修行のひとつですね」と言う。

千日回峰行の修行時代の塩沼さん
千日回峰行の修行時代の塩沼さん

1300年の歴史で2人目となる大峯千日回峰行を満行

塩沼さんは、1987年、奈良県吉野の金峯山寺で出家得度し、1991年、千日回峰行に入行。金峯山寺から24km先にある大峯山山頂に立つ大峯山寺まで、毎年5月3日から9月3日までの4か月間、16時間かけて徒歩で往復する行に挑んだ。

午前0時半に寺を出発し、雨の日も、風の日も、体調が悪い日も関係なく、ひたすら般若心経を唱え、山道を歩き続ける日々。それは9年1000日間にわたって続き、1999年、ついに1300年の歴史で2人目となる大峯千日回峰行を満行する。続いて2000年には、断食、断水、不眠、不臥を9日間続ける四無行に挑み、こちらも満行。2003年、宮城県に戻り、秋保の里に慈眼寺を建立して以来、宮城県を拠点に活動を続けている。

普段『今朝の一言』は慈眼寺で収録している。
普段『今朝の一言』は慈眼寺で収録している。

『今朝の一言』で語られる内容は多岐にわたる。「山の怖さ」「千日回峰行が与えてくれたもの」など修行時代のこと。師弟関係や信仰についての話。「苦手な人との関わり方」「夫婦で向き合うには」などの人間関係について。生き方を指南する「心を維持するには」「失敗を引きずらない」などのエピソード。時には「コロナ禍だからできること」「新庄監督」など、時流の話題も含まれる。「みなさんの人生がどうすれば楽しくなるのか、明るくなるのかを考えてお話しています」と塩沼さん。

例えば「私たちは生かされている」というテーマの回では、こんなことが語られた。「23歳から32歳までの10年間は、1年の3分の1を大自然の山の中に身をおいて、修行に明け暮れました。誰もいない山奥で話す相手もなく、困難な状況に追いこまれても助けてくれる人もいません。大自然の中ですから、怪我や病気になっても、山を歩く4か月間は病院にも行けません。そういう生活をしていると、生きているのではなく、生かされているのだという気持ちになってきます。朝、目を覚まし、呼吸をしていることにも感謝の心が生まれ、この世に存在しているだけでもありがたいという気持ちでいっぱいになります」。こうしたメッセージを毎朝聞いて、生きることに感謝をし、気づきを得て、心を整える人が多いのではないかと思う。

仙台市秋保に建立された慈眼寺
仙台市秋保に建立された慈眼寺

「今日も頑張ろう」被災地にエールを発信

平日の毎日、ラジオで言葉を発し続けるそのチャレンジ精神はどこから来るのだろうか。「一言で言えば負けず嫌いの精神でしょうか。最後の一息まで上を目指したいという向上心です。現状に安住してしまったら、そこで動きがストップしてしまう。何かを発信することはものすごいリスクを背負うことですが、同時に成長する機会でもあります」と塩沼さんは言うが、簡単なことではないだろう。コツコツと発信を積み重ねて1350回。千日回峰行の道程にも通じる里での行が、いま宮城の人たちに確かに届き、人々の支えになっていることを実感するのだ。

それはリスナーからのこんなメッセージにも表れている。「毎朝、塩沼さんの声に耳を傾けて出勤しています。不思議なことにみなさんのメッセージに対する塩沼さんの言葉が、どれも自分にも通じているようで、あるときは背中を押され、あるときはふっと軽くなり、温かなエールに今日も頑張ろうという気持ちになります。続けていくことは 大変ですが、これからも大切な朝のひととき、お身体を大切に発信してください」

これからも番組は続く。塩沼さんはラジオ番組を通して、被災地・宮城に厳しくも温かいエールを送っている。忙しい毎日ではあるが、少し立ち止まって、彼の言葉に耳を傾けてはいかがだろうか。

塩沼さんのラジオ番組は以下の通り。

Datefm(エフエム仙台)『塩沼亮潤大阿闍梨 今朝の一言』※福島県でも放送中

TBC(東北放送)『塩沼亮潤とバクコメのぼちぼとがんばるDAY』

InterFM897『塩沼亮潤大阿闍梨のstep by step』

秋保の二口峡谷での一枚。塩沼さんは、講演やラジオ出演料のほとんどを、ご飯を食べることが困難な子どもたちのための基金に提供している。
秋保の二口峡谷での一枚。塩沼さんは、講演やラジオ出演料のほとんどを、ご飯を食べることが困難な子どもたちのための基金に提供している。

『今朝の一言』で発信された言葉を1冊にまとめた最新刊『寄りそう心』も発売中です。

慈眼寺

宮城県仙台市太白区秋保町馬場字滝原89-2

編集者/『Kappo 仙台闊歩』元編集長 

1967年生まれ。海外旅行情報誌『AB・ROAD』編集部で、バリ島、ベトナム、カンボジア、ハワイ、ヨセミテ、メルボルン、エアラインなどを取材。仙台に戻り、株式会社プレスアート入社。『ファッション&ピープルマガジン COLOR』『せんだいタウン情報 S-style』『大人のためのプレミアムマガジン Kappo 仙台闊歩』編集長を経て、取締役地域メディア局長。仙台・宮城・東北の食、旅、歴史、文化をテーマに、地方から情報発信を続ける。2006年からDatefmで8年間「Radio Kappo」のパーソナリティ。仙台短編文学賞実行委員会事務局長。タウン情報全国ネットワーク理事。

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