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羽生竜王にアマチュアでも挑戦可能!竜王戦の魅力

古作登大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員
「永世七冠」達成を受け記者会見する羽生善治竜王(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

アマ参加枠がある竜王戦

 「竜王」は将棋界最高峰に位置するタイトルである。昨年秋から冬にかけ行われた第30期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催)は羽生善治棋聖(47)が渡辺明竜王(33)に挑戦し4勝1敗でタイトルを奪取、羽生は通算7期の竜王獲得により「永世竜王」の称号と「永世七冠」(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)を達成し国民栄誉賞の受賞が決まった。

 昨年末には早速次期挑戦者を決める第31期竜王戦ランキング戦がスタートしている。クラスは1組から6組まであり、各組の成績優秀者で決勝トーナメントが行われる。

 ここで特筆したいのが6組には毎年アマチュア選手の参加枠が設けられていること。近年は5名の定員で、初夏に行われる「アマチュア竜王戦全国大会」の成績優秀者を中心に選ばれている。12月から1月にかけて行われた6組1回戦のアマ選手全成績は以下のとおり。

12月22日

古森悠太四段○-藤原結樹アマ●

12月25日

浦野真彦八段〇-古作登アマ●

西川慶二七段●-野島進太郎アマ○

12月27日

伊藤博文七段●-久保田貴洋アマ○

1月6日

梶浦宏孝四段○-横山大樹アマ●

1回戦の結果はプロの3勝2敗、アマは17歳高校2年生の野島さんと25歳の教員、久保田さんが2回戦に進んだ。惜しくも敗れたアマ竜王の藤原さん、アマ名人ほか四冠の横山さんも20代の若さだ。藤井聡太四段(15)の活躍が注目されるプロ棋界同様、アマの世界も全国レベルでは10代20代の若手がベテラン勢を圧倒している。

公式戦は棋士になった気分

 すでにお気づきの方もいらっしゃるだろうが、筆者も今回初めて公式戦の竜王戦6組に参加した。推薦理由は第30回アマチュア竜王戦全国大会での4位入賞。54歳の筆者は多くのアマトップ選手とは干支で二回りから三回りほど年齢差があるが運に恵まれた。過去にアマ対局者の感想が書かれたことはほとんどなかったので、リポート風に公式戦当日までの流れを紹介させていただく。

 対局の3週間ほど前までに日本将棋連盟手合課と日程調整をし、のち対局通知が送られ確認のサインをして対局日が公式に発表される。当日は携帯電話やタブレット端末など電子機器が持ち込み厳禁のため、別室の保管場所に預ける。さらに対局室に入る前には空港のセキュリティチェックに用いるような金属探知機を使って厳密な検査を行う。これらは一昨年秋、将棋界で起こった「スマホカンニング冤罪事件」を受けて行われるようになったもの。筆者は棋士やアマトップの人たちが不正を行うほどモラルが低いとは思っていないけれども、1997年にコンピュータが人間の世界チャンピオンを破ったチェスの世界ではかなり前から不正防止対策が行われていたので、将棋界が国際標準に追いついたと考えるべきなのだろう。

 対局場は関西将棋会館「御上段の間」。「詰将棋ハンドブック」シリーズの著者として有名な浦野八段とは小学生の時以来40数年ぶりの取り組みで、床の間に掛軸のある特等席での対局だ。振り駒で先後を決めたあと午前10時に記録係を務める奨励会員の合図で初手▲7六歩を指した。ここから約10時間半におよぶ長い一日が始まった。

 開始から小一時間で担当の奨励会員が昼食の注文を聞きに来る。昼食休憩は正午から40分、別室の食事場所には出前の料理が並べられお茶まで用意されていた。

 昼食のあと、対局再開までの空き時間に関西将棋会館の事務室にあいさつに行くと常務理事の井上慶太九段、少しして奥から前会長の谷川浩司九段が登場し「今日は対局ですね」と声をかけられた。この日だけは棋士になった気分である。

 竜王戦の持ち時間は各5時間と順位戦(6時間)に次ぐ長さ、ふだん大会で30分や40分の持ち時間で対局するアマチュアにとっては異次元の世界だが、盤上に没頭しているとあっという間に時は過ぎていく。

対局室は朝から夕方まで雑談一つなく、張りつめた空気で満たされている。この日も本格的な戦いが始まったのは午後6時40分の夕食休憩明けだった。筆者は態勢有利を意識して積極的に決めに行ったつもりだったが、浦野八段の巧みな反撃の前に屈した。「詰将棋の達人」の鮮やかな寄せを体感し、敗れても心地よかった。

 終局は午後8時39分、感想戦を1時間ほどして9時半過ぎに駒を片付け、主催紙のインタビューを受けてから一礼して盤の前を辞去した。結果はともかく、アマチュアにとってこうした公式戦の舞台が用意されていることはありがたいことだと身をもって感じることができた。

アマにもチャンス。13回勝てば挑戦者

 2回戦に進出した野島さんと久保田さんにはまだ羽生竜王に挑戦する可能性が残されている。6組優勝まであと5勝、前年もアマ選手2人がベスト8に進んでいるので決して絵空事ではない。優勝すると次は決勝トーナメントで、ここで5回勝ち挑戦者決定三番勝負で2勝すれば挑戦権獲得となる。すなわちあと12勝(挑戦者決定三番勝負は1敗可)で「夢の七番勝負」だ。

 6組2回戦、東和男八段-野島アマ、藤原直哉七段-久保田アマの対局は2月以降に予定されている。10代、20代のトップアマがプロにどこまで迫れるか注目したい。

大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員

1963年生まれ。東京都出身。早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修卒業。1982年大学生の時に日本将棋連盟新進棋士奨励会に1級で入会、同期に羽生善治、森内俊之ら。三段まで進み、退会後毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)に入社、1996年~2002年「週刊将棋」編集長。のち囲碁書籍編集長、ネット事業課長を経て退職。NHK・BS2「囲碁・将棋ウィークリー」司会(1996年~1998年)。2008年から大阪商業大学アミューズメント産業研究所で囲碁・将棋を中心とした頭脳スポーツ、遊戯史研究に従事。大阪商業大学公共学部助教(2018年~)。趣味は将棋、囲碁、テニス、ゴルフ、スキューバダイビング。

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