金正恩の空港から「ジェット燃料」の盗難が相次ぐ
北朝鮮の首都・平壌の北にある空の玄関口、平壌国際空港、通称は順安(スナン)空港には、中国の北京、瀋陽、ロシアのウラジオストクの定期便3路線以外にも、中国各地へのチャーター便や、時々運航される国内線などの路線が存在した。
一国の首都の国際空港としては、離着陸する便数が極度に少なく、金正恩総書記が様々な注文を出して、2017年にようやく完成にこぎつけたターミナルビルは、閑散としていた。しかし、わずかばかりの定期便も、2020年1月から完全に消えてしまった。新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために、国境を封鎖してしまったからだ。運航が再開されたのは、今年8月になってのことだ。
さて、勤務していた空港職員はその間、どうやって暮らしてきたのだろうか。最近、摘発された事件を通じて、明らかになった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平壌の情報筋によると、順安飛行場で働いていた30代の男性労務者(整備士の北朝鮮式名称)が、帰宅途中にパトロール中だった安全員(警察官)に逮捕された。男性は、ビニール袋に入れたジェット燃料1キログラムを服の中に隠して家に持ち帰ろうとしていた。
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別の情報筋によると、順安飛行場の職員は食糧配給を受け取れず、月給もわずかであるため、勤務先の空港でジェット燃料を盗み、市場で売って家族を養っている。
ちなみにジェット燃料は、北朝鮮で高級ガソリンと認識されており、一般のガソリンの2倍の価格で販売され、需要も多い。
当局は、8月からジェット燃料の窃盗について警備を強化していた。そんな中で運悪く捕まった彼の自宅からは20キログラムものジェット燃料が見つかった。
事件の翌日、当局は労務者を集合させ、ジェット燃料盗難事件が起きたとして、今後は1グラムでも盗んだ者は、国の航空を妨害する逆賊として処罰すると警告した。
しかし、労務者や住民からは不満の声があがっている。食糧の供給に何一つ役立たないミサイルの発射には、燃料を無駄使いしているのに、配給と月給はまともに支給しない、誰が泥棒をしたくてやったのかと。
今回の事件のように、国家財産扱いされるものを勤め先から盗み出して売り払い、生活の足しにする行為は1990年代から広範囲に行われてきた。上述の通り、配給もなければ、給料も雀の涙程度で、とうてい生活が成り立たないからだ。
事あるごとに摘発は行われているものの、根本的に問題が解決しない限りはほとぼりが冷めればまた同じことが繰り返されるだけだ。