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中国共産党以外の政党を育てない国が野党第一党がない日本を批判する滑稽さ

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2017年衆議院選挙 日本記者クラブ主催の党首討論会(写真:つのだよしお/アフロ)

 安倍首相が解散を宣言し、希望の党が誕生した時には「ようやく安倍軍国主義内閣が崩壊する」と中国の報道は熱気を帯びた。しかし希望の党の性格が分かると、野党が育たないことを、あの中国が批判している。

◆安倍内閣崩壊を喜んだ中国だったが

 中国共産党の管轄下にある中央テレビ局CCTVは、実に詳細に日本に関する情報を報道する。国際チャンネルもあるので、日本の報道を見ているよりも(偏向はしているが)日本の動態を詳細に把握することができる場合さえある。

 国際チャンネル(CCTV4)はもとより、新聞聯播(30分間の全国ニュース。CCTV13)も、安倍首相が衆議院解散を宣言した時には、野党の声を借りて「モリカケ隠しのための解散だ」と批判した。そして同時に「希望の党」の結成が発表されると、「これでようやく安倍軍国主義内閣を打倒することができる」と、キャスターも解説委員も興奮気味に伝えたものだ。

 希望の党が民進党と連携するニュースが入ると、「寛容な保守」に対して礼賛さえ送るという不思議な現象が起きた。

 中国共産党一党支配の国が、「民主主義国家における民主的選挙」を報道することを恥ずかしく思わないのかと、しっかり観察させてもらうことにした。

◆希望の党が「排除」を行ない始めると

 希望の党が「寛容な保守」という幅広い概念に基づいて民進党を吸収するのではなく、あくまでも「憲法改正」や「安全保障政策」という基本政策で民進党候補者を選別し、いわゆる「排除の論理」により踏み絵をさせ始めると、事態は一変した。希望の党に関する報道はほぼ消えてしまい、「排除の論理」に抗議した「立憲民主党」に焦点が移っていった。希望の党は自民党内の党内抗争に過ぎないと解説するものさえ現れる始末。

 小池氏としては、野合と言われないために、あくまでも政策別により政権を再編しようとしたものだと思うが、日本の国民感情が立憲民主党誕生過程などに同情的だという解説さえ、中国の報道で見られるようになったのである。

 中国共産党に100%賛同し礼賛する者でなければ「人間とみなさない」ほどの選別をしている中国が、日本の国民感情や「排除の論理」を論じる違和感が、なんとも滑稽だ。

◆中国にも八大民主党派があるにはあるが…

 中国には実は中国共産党以外にも、八大民主党派と呼ばれる「政党」が存在する。しかし民主党派は中華人民共和国憲法で、「中国共産党の指導の下で、中国共産党に協力する」と厳しく規定されている。

 つまり、中国共産党にぶら下がっているのであって、政権を収奪し得る「野党」ではない。その意味では「政党」として育たないように、始めから仕掛けてあるのである。

◆日本には野党第一党がないと解説する中国

 その中国が、なんと、「日本には自民党に代わって政権奪取できる野党第一党が、なかなか生まれない」と解説しているのを見て、驚いた。つまりアメリカのように二大政党制が生まれるチャンスがなく、ようやく希望の党がリベラル派を結集させるのかと思ったら、逆にリベラルを排除し、「寛容な保守」が「狭量な保守」になってしまったので、野党第一党の役割は果たしえないという解説だ。

 中国は憲法と安全保障問題しか見ていないから、その面で自民党と希望の党は同じで、ただ総理大臣を誰にするかが違うだけだと見ている。そしてアメリカと比べると、日本では民主主義が成熟してないという見解を述べる者もいた。自国の一党支配体制を忘れているかのごとく、である。

◆日本は民主主義の良さを生かしたいものだ

 中国では今月11日から第18回党大会の七中全会が開催されており、ここにおいて次期チャイナ・セブンのメンバーが最終的にリストアップされ、党規約の改正案なども決議される。党規約に関しては18日から開催される第19回党大会に諮り、チャイナ・セブンの承認は、第19回党大会が終わった直後にその延長線として開催される第19回党大会一中全会において最終採決される。

 一党支配体制には、当然のことながら野党第一党はない。

 しかし、「民主主義的選挙」というものに関して、中国は強い関心を持っている。少なくとも党内民主は胡錦濤政権が創った。それでも、立法機関である全人代に関しては欧米式の民主主義体制に移行しないために、中国は社会主義体制こそが最強の体制であると強調している。

 たしかに日本の選挙が、必ずしも政策だけで動かず、数の論理や党利党略の原理が働いていることは否めない。それでも「国民が自らの意思で選ぶ」のであって、強制されて議員を選ぶわけではない。二大政党制のような形で野党第一党を誕生させるか否かは、日本国民自身が決めているのである。

 そのことを考えると、選挙行動の広報のようで憚れるが、日本の選挙民に与えられた貴重な権利を活かしたいものだと痛感する。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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