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<ガンバ大阪・定期便VOL.7>圧巻の存在感と強烈なミドル。そして『ゆりかごダンス』。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
今シーズンは本職の左SBだけではなく左CBでもプレーする。 写真提供/ガンバ大阪

9月27日に戦ったJ3リーグ、ロアッソ熊本戦。58分に決めた強烈なミドルシュートに誰よりも驚いていたのは、山口竜弥自身だったのかもしれない。試合後、サポーターを前に挨拶に立った彼はまだ興奮の最中にいた。

「えっと…今日は遠いところから駆けつけていただいてありがとうございます。正直今、自分でもよく状況がわかっていないんですけど、あれは…森下さん(仁志U-23監督)に日々、いろいろと厳しく言われ…あのポジションをとれと言われていたので、森下さんの…おかげです。なので…そうです。なので…今後ともよろしくお願いします」

 喜びがうまく言葉にならない。着替えを済ませたあとに、ようやく少し落ち着いた声を聞けた。

「熊本が高いチーム力で、エネルギーを持って試合を進めてきた中で、ベンチから見ているとガンバU-23はちょっと受け身になってしまっていて、自分たちらしく後ろからビルドアップをして主導権を握ってサッカーをすることができていないと感じていました。だからこそ、自分が入ることでスピードだったり、攻撃参加や対人の部分でアクセントをつけられたらなと思っていました。ゴールは…逆サイドにボールがあるときに相手のボランチの脇に入っていくことを去年からずっと森下さんに言われていたし、そのタイミングでスペースがあったらシュートを打とうと決めていて、思い切って足を振りました」

 ゴールネットを揺らした後は、両手を上げて一目散に控えメンバーのもとへ。彼を中心に歓喜の輪が生まれ、そのあとは約束の『ゆりかごダンス』で喜びを分かち合った。

「純くん(一森)のところに子供が生まれたのでお祝いしました。試合前にも仁志さんに『点を決めたやつが先頭に立ってやってやれ』と言われていて…チャンスがあれば決めてやるという気持ちではいたけど、まさか、自分が決めるとは思っていなかったです。普段から裕司さん(宮原コーチ)にもあの位置からのシュート練習に付き合ってもらっていたので、裕司さんにもすごく感謝しています」

 今シーズンの『ゴール』はYSCC横浜戦に続き2つ目。地元・神奈川県でプロ初ゴールを決めた際は『腕組みパフォーマンス』で喜びを表現し、初めてのホームゲームでのゴールには喜びのあまり、頭が真っ白になった。今回は特にチームの勝利に繋がるゴールだったからこそ嬉しかった。

「プロ初ゴールの時は…父親がよく癖であんな風に腕を組むんです。その話がたまたま横浜戦の前日にチームで話題になって…あの時もまさか自分が決めるとは思っていない中でゴールを決められて、両親が観戦に来てくれていたのもあって咄嗟にあのポーズが出てきました。それに対して今回は、ゴールを決める準備はしていたけど、決めたあとの準備は全くしていなくて、ヤバい、ヤバい、どうしよう…と状況を掴めないまま、あんな感じになりました(笑)」

 今年でプロ3年目。「自分のターニングポイントの年になる」という思いでスタートした今シーズンのJ3リーグへの出場は、18試合中17試合を数える。とはいえ、この日の熊本戦では今シーズン2度目のベンチスタートになったからだろう。前半は複雑な心境で試合を見ていたと振り返る。

「プロ3年目で、ガンバU-23でもベンチ、というのは正直情けないと痛感しながら今日の試合に入っていました。だからこそもしも交代でチャンスをもらえたら、なんとかして結果を出して存在価値を出さないといけないと強く思っていました」

 その言葉をプレーで示すかのごとく、55分からピッチに立つと、本職の左サイドバックで躍動。57分には、敵陣の深くまで攻め上がったところからダイレクトでグラウンダーのクロスを送り込み、その1分後に、冒頭に書いたゴールを突き刺した。更に特筆すべきは、85分に白井陽斗が挙げたゴールシーンだ。山口が積極的なプレスからボールを奪い、起点になった。

 といっても、彼がプロになった時から描いているJ1リーグ出場は未だ実現できていない。8月12日に戦ったルヴァンカップの湘南ベルマーレ戦では途中出場ながら念願のトップチームデビューを果たしたものの、悔しさの方が色濃く残った。

「メンタル面で受けた刺激はものすごく大きかったけど、先発で選ばれなかったことは真摯に受け止めないといけない」

それでも、やり続けることでしか自分に変化は起こせないからこそ、山口が立ち止まることはない。

「『あの時、こうしておけばよかった』『もっとやっておけばよかったな』という悔いを絶対に残さないプレーを365日、1日も欠かさずにやり続けたい」

 たとえそれが今すぐ結果に表れなくても『継続』の先には必ず大きな喜びがある。熊本戦はそれを実感した瞬間だった。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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