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トランプ「WHO拠出金停止」、習近平「高笑い」――アフターコロナの世界新秩序を狙う中国

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
アメリカにおける新型コロナウイルス肺炎の爆発的拡大に激怒するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

 コロナ蔓延の責任は習近平とWHOにあるのだからトランプがWHOを中国寄りと非難するのは正しい。しかし拠出金停止で喜ぶのは習近平だ。習近平がどれだけ用意周到に国連傘下の専門機関を牛耳ろうとしているかを知るべきである。

◆トランプ大統領がWHO拠出金停止を宣言

 4月14日、トランプ大統領はWHOへの拠出金を停止すると表明した。公平であるべきWHOが「中国寄り」の立場を取ったせいで、新型コロナに関する適切な世界への警告を出さず、その結果全世界に感染を拡大させたいうのが理由だ。

 WHOのテドロス事務局長は1月23日に緊急事態宣言発布を延期し、1月30日にようやく発布したが、WHO緊急事態宣言に付き物の「当該国への渡航や交易を禁止する」という条件を「その必要はない」として外し、緊急事態宣言を骨抜きにした。それが新型コロナを全世界に蔓延させる原因を作っている。これに関しては1月31日の<習近平とWHO事務局長の「仲」が人類に危機をもたらす>で詳述したし、またWHOによるパンデミック宣言時期の不適切さに関しては3月12日の<習近平の武漢入りとWHOのパンデミック宣言>に書いた通り。その意味においてトランプの主張は全面的に正しいと思っている。

 テドロスが習近平になびき習近平寄りのメッセージを出したのは、言うまでもなく彼がエチオピア人で、エチオピアへの最大の投資国は中国だからだ。

 さらにテドロスの辞任要求をカナダ在住の発起人がChange.orgというサイトで呼びかけ、4月15日で書名者の数は全世界で100万人を超えている。辞任要求として挙げているのは、「WHOは政治的に中立でなければならないのに、1月23日に時期尚早だとして緊急事態宣言を見送ったりなどして中国を擁護し、コロナ感染を世界に広げていった」ということである。

 このいずれも客観的で正しい主張をしていると思う。コロナ災禍が収束したら、全世界は習近平とテドロスを徹底的に糾弾しなければならない。

 だというのに日本の時事通信社などが「(トランプ大統領が)初動対応の遅れを批判される自身の責任転嫁のためにWHOを標的にした」]と報道しているのを見ると残念でならない。通信社は新しい情報を迅速に報道してくれるのでありがたいが、なぜ「責任転嫁のために」などと、主観的言葉を入れてニュース配信をするのだろうか。最初からトランプを悪者にして習近平やテドロスの罪を覆い隠している。これは中国の報道と全く同じで、まるで中国政府の代弁者のようだ。

 同報道はさらに「トランプ政権は、新型ウイルス対策で医療用の高機能マスクなどの国外流出を阻止する方針を表明するなど自国最優先の姿勢を鮮明にしてきた」と誹謗しているが、アメリカの感染患者の尋常ではない爆発的増加に心を痛めないのだろうか?「自国最優先の姿勢」どころか、自国の国民の命を守るために少しでも多くの高機能マスクを自国の医者のために確保しようと思わなかったとしたら、一国家の指導者としても失格だろう。

 もちろんトランプの対コロナ政策が正しかったとは言わない。間違っていたと思う。日本の安倍首相と同じく、コロナの災禍を甘く見ていて経済優先的な措置しか取らなかったことには責任がある。

 トランプの場合、残念ながら、WHOへの拠出金を停止した時に何が起きるかという未来予測に関する危機感が甘いと言わざるを得ない。

◆国連のほとんどの専門機関を牛耳っている中国

 現在、国連には15の専門組織(国連憲章第57条,第63条に基づき国連との間に連携協定を有し,国連と緊密な連携を保っている国際機関)があるが、その内の4つの専門機関の長は「中国人」が占めている。その4つの機関名と職位、中国人の名前および就任時期を書くと以下のようになる。

 ●UNIDO(国際連合工業開発機関)事務局長:李勇 (2013年6月~)

 ●ITU(国際電気通信連合)事務総局長:趙厚麟(2014年10月~)

 ●ICAO(国際民間航空機関)事務局長:柳芳(2015年3月~)

 ●FAO 国際連合食糧農業機関 事務局長:屈冬玉(2019年8月~)

 習近平が中国共産党中央委員会(中共中央)総書記に着任したのが2012年11月で、国家主席の座に就いたのは「2013年3月」だ。なんと「みごと」ではないか。

  親中の人間を国連や国連専門機関の長に据えるだけでなく、大陸の中国人そのものを国連専門機関の長に就かせることによって、中国は国連を乗っ取る戦略で動いているのである。

  それだけではない。

  国連専門機関のトップ以外の要職や、国連傘下の関連国際組織あるいはその周辺組織にも、以下のような中国人が着任している。

  ●WIPO(世界知的所有権機関)事務次長:王彬頴(2008年12月~)

  ●IMF(国際通貨基金)事務局長:林建海(2012年3月~2020年4月)

  ●WTO(世界貿易機関)事務局次長:易小準(2013年8月~)

  ●WB(世界銀行)常務副総裁兼最高総務責任者(CAO):楊少林(2016年1月~)

  ●WHO(世界保健機関)事務局長補佐:任明輝(2016年1月~)

  ●AIIB(アジアインフラ投資銀行)行長(総裁):金立群(2016年1月~)

  ●IOC(国際オリンピック委員会)副会長;于再清(2016年8月~)

  ●IMF(国際通貨基金)副専務理事:張涛(2016年8月~)

  ●WMO(世界気象機関)事務次長:張文建(2016年9月~)

  ●UN(国際連合 国際連合経済社会局)事務次長:劉振民(2017年6月~)

  ●ADB(アジア開発銀行)副総裁:陳詩新(2018年12月~)

  ●UN(国際連合=国連 事務次長補佐):徐浩良(2019年9月~)

 こんなに圧倒的な数の中国人が、国際組織の要職を占拠している。

 これはチャイナ・マネーで買収された(という言葉が悪ければ「心を奪われた」)人々によって「選挙で公平に」選ばれているメンバーたちだ。戦略的な中国は、着々と水面下で「仕事」をしてきた。

 特に注目すべきは、今般問題になっているWHOは事務局長のテドロスだけではなく「●WHO(世界保健機関)事務局長補佐:任明輝(2016年1月~)」にあるように、事務局長補佐の一人は中国人自身なのだ。WHOは中国によって牛耳られていると言っても過言ではない。

 WHOへの拠出金の最大の国は圧倒的にアメリカで、現状ではイギリス、ドイツ、日本、カナダ、ノルウェイと続き、その次にようやく中国が来る。

 しかしコロナ後中国はさらにWHOに別枠で献金しているし、今後も拠出金を増やしていくことだろう。アメリカさえいなくなれば、要職や拠出金を増やし中国が発言権を強化させていくであろうことは言を俟(ま)たない。

 

◆ポスト・コロナの新時代秩序

 前項で列挙した人々は当然、全員「中国共産党員」である。

 中国建国の父・毛沢東の「世界赤化」の夢は、着実に実現しつつあるのだ。

 建国以来(実際には1950年10月1日に改編)、天安門の城壁に掲げてあるスローガンを見ていただきたい(これは建国70周年記念パレードにおける動画なので、冒頭の一コマだけをご確認いただければ十分だが、敢えて静止画像にリンクしなかったのは、今もあることを確認して頂きたいからである)。

 一つは「中華人民共和国万歳」だが、もう一つは「世界人民大団結万歳」だ。「世界人民大団結」は何を意味しているかというと「世界を中国共産主義化していくこと」、つまり「世界赤化」である。

 今は共産主義を信奉する中国人民はほとんどいないので、習近平はマルクス主義から始まり「初心に戻れ」を中心として如何に共産主義が素晴らしいかを教育しているが、要は「共産主義の衣を着た中国という国家」が世界制覇をすればいいと思っているのである。

 そのために中国人を要職に就けるだけでなく、これまでのコラムで何度も触れてきたようにWHO事務局長以外に、国連のグテーレス事務総長(詳細は2017年12月6日コラム<国連事務次長訪朝の背後に中国か?>)、IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事(詳細は3月23日の<背後に千億円の対中コロナ支援:中露首脳電話会談>)など国連の要職を親中派で固め、国連そのものを中国が乗っ取ろうとしていることは明らかだ。

 2019年8月26日、ワシントン・タイムズは“U.S. needs to respond to rising Chinese influence in the United Nations”(アメリカは国連で増大している中国の影響力に対処しなければならない)という警鐘を鳴らしている。

 この傾向はコロナ前から着々と進めれてきているのだが、その事実に注目する日本人は少ない。トランプもこの事実に目を向けるべきで、テドロスや習近平を非難するのは良いが、拠出金を停止して何が起きるのかを大局的視点から分析した上で手を打たなければならないのではないだろうか。

 ましてやコロナが過ぎていった後の「アフターコロナ」の世界を考えてみて欲しい。

 中国はいち早くコロナの大拡散から抜け出して、今やコロナ禍にまみれ苦しんでいる国々に医療物資を提供したり医療支援チームを派遣したりなどして「コロナ支援外交」を展開している。対象国は一帯一路沿線国を中心に130ヵ国に及んでいる。

 アフターコロナで、支援を受けた国々が「中国を糾弾する側」には立たないだろう。

 70日以上に及ぶ完全な都市封鎖により経済的に大きな打撃を受けたであろう中国は、しかしその分だけいちはやくコロナから抜け出して経済復帰もほぼ100%に達しており、今もなお感染者が爆発的に増えているアメリカ経済を凌いでいく可能性もある。

 習近平が全世界に拡散させたコロナ禍を通して、中国は「アフターコロナの世界新秩序」をもう組み立てようと虎視眈々と狙っているのである。

 トランプのWHO拠出金停止は、中国が目論む新世界秩序を決定的に加速させる危険性を孕んでいる。慎重に注視しなければならない。

(なお、悪いのは中国共産党という言論弾圧をする一党支配体制であって、少なからぬ中国の一般庶民はむしろ犠牲者であることを付言しておきたい。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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