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国連事務次長訪朝の背後に中国か?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
グテーレス国連事務総長(写真:ロイター/アフロ)

 中国特使の訪朝に関し、中国は「これはまだ第一歩だ」と言っていたが、その後水面下で、ポルトガル領だったマカオ返還を通して親密にしてきた現在のグテーレス国連事務総長を動かしていたものと考えられる。

◆グテーレス氏は「対話による解決」派

 国連のフェルトマン事務次長が5日、北朝鮮を訪問した。北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相らとの会談を予定している。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は北朝鮮問題に関して、かねてより「対話による」解決を主張しており、日米が強行する「圧力と制裁」の効果には疑問を呈している。中国政府関係者は、筆者に「環球時報の社説を詳細に読んでくれ」という言葉を残していた。

 11月20日付のコラム「北朝鮮問題、中国の秘策はうまくいくのか――特使派遣の裏側」に書いたように、習近平の特使(宋濤)が帰国した後の「環球網」には「一回の訪問で問題が解決することはない」と書いてある。筆者はそれに対して、「つまり中国は、これまで練ってきた秘策を実行に移す用意はあるが、しかし一気に解決するというわけにはいかず、スタート地点にようやく立ったと言いたいのだろうと判断される」と書いた。

 グテーレス事務総長は、1998年から頻繁に訪中しており、習近平国家主席とも李克強首相とも何度も会っている。また王毅外相とは、つい最近も会談し、北朝鮮問題に関して意見交換をしている。

 国連としてはアメリカの意思を重視しなければならない立場にあるのかもしれないが、フェルトマン事務次長はグテーレス事務総長の意向を伝える可能性がある。つまり、中国の考え方を伝えて北朝鮮を説得する可能性があるということだ。

◆中国とグテーレス氏の親密な関係――マカオ返還をきっかけとして

 ポルトガル領だったマカオが正式に中国に返還され中国の特別行政区となったのは1999年12月20日のことである。その前の年の1998年、グテーレス氏はポルトガルの総理として中国を訪問し、江沢民国家主席と会っている。1999年には社会主義インターナショナルの議長に就任。2001年12月にポルトガルにおける選挙で敗北し総理を辞職すると、今度は2004年、ポルトガルの社会党主席の身分で訪中。胡錦濤国家主席と会見した。

 2005年6月に国連難民高等弁務官に選任されると、その翌年の2006年に訪中し、再び胡錦濤国家主席と会っている。

 2016年10月6日のグテーレス氏の国連事務総長就任決定に合わせて、同年10月10日、中国はマカオで「中国―ポルトガル 国家経済協力フォーラム」を開催し、李克強が出席した。

 まるで、その返礼のように、同年11月28日、今度はグテーレス氏が訪中し、習近平国家主席と会見し、人民大会堂で次期国連事務総長就任を祝いあった。中国はグテーレス氏が国連事務総長に選任されるべく、水面下で努力し続けてきた。従って、「祝いあった」のである。グテーレス氏は明確に「私が国連事務総長に選任されるに当たり、中国が貴重な支援(宝貴支持)をしてくれたことを感謝する」と口に出してしまっているほどだ。

 グテーレス氏は同日午後、同じく人民大会堂で李克強首相とも会見し、へつらわんばかりの笑顔を見せている。

◆国連事務総長になった後も

 グレーテス氏は2017年1月1日に正式に国連事務総長に就任したが、今年5月14日から15日にかけて北京で開催された「一帯一路国際協力サミット・フォーラム」に出席し、習近平や李克強らと人民大会堂で会見している

 一方、2017年9月18日、中国の王毅外相は国連本部でグテーレス国連事務総長と会見し、北朝鮮問題に関しても意見交換をした。

 9月25日、グテーレス事務総長は、中国の国連代表の交代に当たり、「中国が国連や国際社会において非常に重要な貢献をしている」と中国を礼賛した。新華社が報じた。このときグレーテス事務総長は「国連は今後も中国との協力関係をさらに強化し、世界平和と発展を維持していこう」と述べている。

◆グレーテス国連事務総長は完全に中国に取り込まれている

 以上から、すでに明白になったと思われるが、(客観的立場でなければならないはずの)国連の事務総長ともあろうものが、実は中国に完全に取り込まれているのである。フェルトマン事務次長が、どれほど事務総長の意向を受けて北朝鮮と話をするかに関しては、断定的なことは言えないが、一定程度は事務総長の意向を反映するのではないだろうか。

 となれば、中露が言うところの「双暫停」すなわち、暫くは凍結でもいいので北朝鮮にともかく核・ミサイルの開発を暫時停止させて、その代わりに米韓に合同軍事演習を暫時停止させるという案を持ち出すことになろう。

 少なくとも、日米の「圧力と制裁」の線に沿って北朝鮮の完全な核・ミサイルの廃棄を要求したところで、北朝鮮が絶対に受け入れないことは分かっているので、中露の中間的で暫定的な妥協線を提示するしかないだろう。そうでなければ「仲介」にはならない。

 北朝鮮も中国の言うことなら聞かないが、国連事務総長の意向を受けた事務次長の言うことなら耳を傾けるということなのかもしれない。ただ、最大規模の米韓合同軍事演習が現在進行形で行なわれている現状にあって、交渉が困難を極めることは確かだろう。逆に北朝鮮から、国連に対して要求を突き付けてくる可能性も否めない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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