就業形態別の「正規の仕事が無いので非正規で」の人の実情
景況感の変化や労働市場の状況変化に伴い大きな注目を集めているのが、いわゆる非正規社員問題。その非正規社員の立場で働く人たち自身は、どのような理由で現職にあるのかを、総務省統計局が2017年2月に発表した、2016年分の労働力調査(詳細集計)の速報結果を元に、「なぜ非正規社員として働くのか?その理由を尋ねてみた」で確認した。今回は少し視点を変え、非正規社員の立ち位置をもう少し細分化した上で、さらに「正規の職員・従業員の仕事がないから」との回答事由の動向を見ていくことにする。
現在非正規職員・従業員として就業している人において、なぜその立場にあるのか、主な理由を挙げてもらった結果は次の通り。選択肢「自分の都合の良い時間に働きたい」「家計の補助・学費などを得たい」「家事・育児・介護などと両立しやすい」「通勤時間が短い」「専門的な技能などを活かせる」「正規の職員・従業員の仕事が無い」「その他」のうち、本来は非正規での就業を望んでいなかった、つまり自分では望まずに非正規就業をしていると判断できる「正規の職員・従業員の仕事が無い」は、男性で24.8%、女性で11.5%との結果が出ている。
この「望まずに非正規」について、非正規の就業スタイルの詳細によって大きな違いが生じているのでは、との意見もある。そこで非正規の就業状態につき、「パート」「アルバイト」「労働者派遣事業者の派遣社員」「契約社員」「嘱託」「その他」に細分化し、それぞれについて各上記選択肢から「現職就業の主な理由」を挙げてもらい、そのうち「正規の職員・従業員の仕事が無い」の値を算出したのが次のグラフ。男女で就業状況に大きな違いがあるため、性別の仕切り分けも行う。
男女共に主な理由として「望まずに非正規」の値が高いのは、派遣や契約社員。男性派遣社員では4割を超えている。他方、パートやアルバイトでは大よそ男性が2割前後、女性は1割足らず。
最初のグラフの通り、元々女性よりも男性の方が該当選択肢の回答率が高いため、多くの就業状態でも男性の方が高い値を示している。もっとも非正規就業者人口そのものは女性がはるかに上なため、人数で見るとパートや派遣社員で女性の方が上との結果が出る。特にパートの女性は64万人が「望まずに非正規」な状態にある。
また今件「望まずに非正規」以外は望んで選択した具体的内容なため、100%からこの値を引いた結果が「望んで非正規」となる。女性のパートやアルバイトは9割強、男性は7割から8割が望んで非正規として働いていることになる。一方派遣社員は男性が6割近く、女性はほぼ7割、契約社員では男性7割近く、女性では3/4程度に留まっている。
さらに年齢階層別に仕切り分けすると次の通りとなる。ただし今件項目は元値が1桁のものが多く(元々万人単位での公開値で、しかも年齢階層別に仕切り分けしているため、値が小さなものとなりがち)、かなり荒い、誤差が懸念される結果となっている。あくまでも大よその動きを見極める程度のものとなる。
男性では「時間の都合の良い時に」は学生が多分に含まれる若年層と定年退職後の人、「家計の補助」は若年層と高齢層、「技術を活かしたい」のは高齢層に多く見受けられる。そして「正規がないから仕方なく」は中堅層に多い。高齢フリーターもここに多分に含まれる感はある。
女性では「時間の都合」がかなり多く、「家計の補助」が続く。また「家事や育児などとの両立」は中堅層に多い。主婦のパートやアルバイトが該当すると見れば道理は通る。「正規がないから仕方なく」との回答は25~34歳層でやや多いものの、男性と比べると随分と少なめではある。
この結果の限りでは、「正規で働けないから仕方なく非正規で」は、多分に男性中堅層の問題であることが分かる。
今件で注意しなければならないのは、精査した選択肢「正規の職員・従業員の仕事がないから」にはいくつかの意味がある点。具体的には「当事者は正規社員として就業できる技能がある。しかし適切な該当求人が無い」、そして「当事者の技能ではハードルが高く、就業可能な正規求人が無い」の2パターン。さらに当事者自身が自分の技能に関して正しく認識している場合もあれば、認識ができていない可能性も否定はできない。
仮に非正規の求人が正規にシフトしたとしても、今回スポットライトを当てた「望まずに非正規」な回答者すべてがその枠に収まる、就業ラインに達しているとは限らない。その他の希望条件とも合わせ、就業のマッチングは一筋縄ではいかないのが実情ではある。
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