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モイーズ就任で香川はどうなる? マンUファーガソン帝国の終焉が与える影響

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

5月8日、世界中のサッカーファンを驚かせるビッグニュースが世界を駆け巡った。

1986年以来、実に26年という長期間に渡ってマンチェスター・ユナイテッドを指揮した名将サー・アレックス・ファーガソンの勇退が公式発表されたのである。

かつて、一度は名言しながら自身で退任を取り消して監督を続けた経緯を持つファーガソンだが、さすがに71歳となった今回はそれはあり得ない。

つまり、四半世紀以上に渡るファーガソン帝国の歴史にひとつのピリオドが打たれることになったわけだ。

この26年の間、ファーガソンはマンチェスター・ユナイテッドに計38個ものメジャートロフィーを与えた。過去のサッカー史を紐解いても、これだけ栄光に包まれた人物はほとんど存在しない。

そういう意味では、今後、マンチェスター・ユナイテッドの歴史のみならず、間違いなく世界のサッカー史の中で最も成功した監督だと評されるだろう。

予測されるファーガソン帝国終焉後の混乱

それだけに、ファーガソン勇退が与える影響は計り知れないものがある。

とりわけ、後任となるデイヴィッド・モイーズ監督(現エヴァートン監督)にとっては、想像以上の重責と困難が待ち構えていると見ていいだろう。

これは何もサッカーの世界に限った話ではないが、大帝国にピリオドが打たれた後は必ず混乱期が訪れるのが必然だ。それは、どの世界の歴史を紐解いても明らかである。

クラブにとっても、モイーズにとっても、これは避けては通れない道だと考えていい。

今回の勇退に際して、ファーガソン自身は「私にとって大事だったのは、このチームを最も強い状態にして去ることで、私はそれが達成できたと思う。リーグ優勝した今のチームのクオリティ、選手の年齢バランスは、最高レベルでの成功を継続するのに値する。同時に、優れたユースシステムの存在が今後もクラブの成功を支えていくはずだろう」と、声明を発表している。

確かに、ファーガソンにとっては今がその時であることは間違いない。

実際、今季のチームの強さに疑いの余地はないし、若手の育成についても不安は見当たらない。

そういう点で、ファーガソンが言うように、このタイミングでの勇退がベストだったと言える。

しかしながら、今回の勇退についてはファーガソンもクラブも用意周到に事を運んできたに違いないだろうが、問題は、その影響をどのレベルで止めることができるかということにある。

だからこそ、今後マンチェスター・ユナイテッドは、ファーガソンをクラブのオブザーバー、そしてアンバサダーという立場に据えて舵を切っていくことを決めたのだろう。

逆に言えば、これまでクラブがファーガソンに頼り続けてきた最大の理由が、彼が去った後に訪れる黄金時代の終焉が怖かったからということが証明されたことにもなる。

モイーズ就任で香川の未来はどう変わるのか?

さて、注目されたファーガソンの後任人事だが、最有力とされていたデイヴィッド・モイーズの就任が決定した。ファーガソンと同じスコットランド人の指導者だ。

そしてこの決定については、ある意味、既定路線という見方ができる。なぜなら、ファーガソンがクラブに残ることを前提とした後任人事だったからである。

つまり、クラブはファーガソンをバックにしてこれまでの流れから逸脱しないチーム作りをモイーズに託す方法を選択したわけだ。

結局、噂されたモウリーニョについては、現実的にはあり得ない選択だったと思われる。

仮にモウリーニョにその役を託すとなると、これまでファーガソンが築き上げてきたチーム作りのフィロソフィーをぶち壊し、あくまでも自分流のチーム作りを行うことは目に見えている。それは、クラブにとって大きな賭けでしかない。

また、これまで数々のタイトルを手にしてきたモウリーニョにとっても、背後にファーガソンが存在する中での指揮は受け入れがたい話だ。

むしろモウリーニョとしては、今も噂が絶えないチェルシーの監督再就任を実現し、ここぞとばかりにマンチェスター・ユナイテッドの黄金時代に烙印を押すべくタイトルの独占を目論むだろう。

モウリーニョとは、そういう男だ。

そこで気になるのが、もうひとつの注目点、今季から加入した日本代表の香川真司の今後である。

ご存知の通り、香川はファーガソンが獲得を希望した選手だ。

今季の香川は、ここまでリーグ18試合に出場し、5ゴールをマーク。プレミア初年度としては及第点の出来だった。

とはいえ、これまで香川が活躍できた試合と、そうでなかった試合の内容には大きな違いが存在することは否めない。そこが、現在の香川が抱えている最大の課題でもある。

活躍できる試合とはプレミア中位以下のチームとの試合であり、そうでない試合とは、マンチェスター・シティ、チェルシー、アーセナル、トッテナムといったプレミア上位を争う強豪との試合であり、あるいはチャンピオンズリーグの決勝トーナメントで対戦する欧州の強豪クラブとの試合だ。

この壁を乗り越えるには、当然ながらモイーズ政権下で結果を残す必要があるわけだが、香川にとっては自分を獲得してくれたファーガソン政権下よりも、モイーズ政権下の方がそのハードルが高くなることは間違いない。

いくらファーガソンがフロントに残ったとしても、やはり現場を仕切るのは新監督のモイーズだ。

メンバー構成についても、選手の起用についても、権限はモイーズにある。今夏の移籍マーケットも、おそらく現場を仕切るモイーズの意向を無視することはないはずだ。

となれば、当然だがモイーズお気に入りのアタッカーを獲得する可能性は高いわけで、香川のチーム内における序列も変化するはず。

そういう中で、来季の香川はもう一度新指揮官の信頼を勝ち取るところから始めなければならないのだ。

前述の試合に出場できない理由は、香川のフィジカルの強さとディフェンス力の問題であることは明らかだ。

そして、その課題を克服するための猶予期間は、ファーガソン時代よりも短くなったと考えた方が妥当だろう。

香川にとって、モイーズ就任はチャンスなのかピンチなのかと言えば、やはり現時点ではピンチだと言わざるを得ない。ファーガソン勇退の影響が香川に及ぶことは間違いないだろう。

逆に言えば、そこを乗り越えた時、香川は世界トップクラスの選手であることを世界中の人から認められることになるはずだ。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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