【新宿区】『坊っちゃん』主人公も通った大学で科学者たちの情熱と物語を知る|東京理科大学近代科学資料館
JR「飯田橋駅」西口より徒歩4分。東京理科大学のキャンパスの一角に、理工学の発展と大学の歴史について体感できる東京理科大学近代科学資料館があります。
ここには東京理科大学の成り立ちから最先端科学の功績までを伝える、さまざまな資料が展示されています。
最近では、ノーベル賞を受賞した大村智博士の記念展示室も開設されました。
創立から現在までの輝かしい歴史。その始まりは、今からおよそ150年前にさかのぼります。幕末から明治時代を生きた若者たちの「国を良くしたい」という情熱が、人の心を動かしたことから始まりました。
東京理科大学とは
夏目漱石の小説『坊っちゃん』の主人公が、東京理科大学の前身である東京物理学校を卒業して数学教師になったという話はご存じでしょうか? 文豪の作品にも登場するこの私立学校がどんな経緯で誕生したのか、その一端をご紹介いたします。
多くの私立学校では、一人の創業者の理念に注目が集まりやすいのとは対照的に、東京物理学校の創立者は21名もいます。しかも、平均年齢25歳という青年たちでした。
貢進生はその後、東京大学へ進学し、各自の才能を伸ばしていきます。
特に理学部で学んだ青年たちは、自分たちが与えられた理学の知識を日本に広く普及しようと、在学中から話し合っていました。当時は理学をフランス語や英語など外国語でしか学ぶことができず、しかも学べる学校が官立学校以外には少なかった。理学を多くの人に教え伝える重要性を痛切に感じていた青年たちが、自ら学校を作ろうと考えたのです。
実験道具は東京大学から異例の貸し出し
物理学に実験は必要不可欠ですが、当時は実験器具のほとんどが外国製で、極めて高価。実験器具を用意することも、まだ学生だった創立者たちの大きな課題でした。
そんな時、彼らの学校創立の話をきいた山川健次郎(東京大学理学部教授)は、東京大学綜理の加藤弘之に交渉しました。その結果、国立大学の官費で購入した高価な物理実験器を、特別に規則を作って彼らの私学に貸し出してくれることになったのです(東京大学器械貸付規則)。この好意的な規則制定は、日本に理学を普及させようとする青年たちの志が、加藤綜理の心を動かしたからにほかなりませんでした。
若き教育者の熱意
創立者は21人の青年たち。数え年で21歳から30歳の若者でした[東京大学理学部物理学科(仏語)を卒業した19名と中退した2名]。
建学の精神は「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」。貢進生として、また才能あるエリートとして学ぶことができた若者たちの、社会に支えられた恩を返そうとする情熱は、授業のようすからも伝わってきます。
創立者たちは、昼間は各自エリートとしての仕事に従事しながら、夜には手弁当で授業をするという生活を送りました。教師が遅刻や休講をした場合は罰金があったといいます。今の時代では信じられないような状況と熱意です。
そこまでの熱意ある授業だからこそ、東京物理学校は、入学を希望する学生は無試験で全員入学できても、卒業者がいない年もあるほど卒業することが非常に難しい学校として評判になっていきました。
学校設立広告を郵便報知新聞に掲載
小説『坊っちゃん』の主人公が見たという生徒募集の新聞広告。その趣旨を要約すると、下記のような内容だったといいます。
無駄なく小気味よい内容に、坊っちゃんでなくても興味を持つ人がいたことでしょう。
近代科学資料館
近代科学資料館の常設展は、展示面積はコンパクトながらも、展示内容の密度の濃さに圧倒されます。
展示コーナーは下記のように分かれていますが、詳しい方ほど注目したくなるような貴重な展示品の数々は、本物が持つ迫力と存在感を伝えてくれます。
- エントリーエリア
- Ⅰ.東京理科大学のあゆみ
- Ⅱ.東京物理学校の創設
- Ⅲ.奎運(けいうん)ホール
- Ⅳ.近代の科学技術
- Ⅴ.日本の黎明期の科学教育
- ミュージアムショップ
- サロン
- 大村智記念展示室(2階)
Ⅰ.東京理科大学のあゆみ
東京理科大学の前身である東京物理学校の始まりから、今日までの年表が壁一面に記されています。ここに記される1行の重みにため息がでます。
Ⅱ.東京物理学校の創設
創立の時代を支えた人物相関図が壁一面に描かれていました。ジャンルを超えた交流に驚かされます。
創立者21名について、全員について詳細が明らかになっているわけではありません。現在進行形で調査が続けられています。
写真が残されていない4名については、画面中央下部にシルエットで表現されています。イラストレーター西口司郎さんは、詳細は描けずとも存在感を残すため、あえてシルエットで表現されています。
Ⅲ.奎運(けいうん)ホール
建学の精神を象徴するステンドグラスが美しいホール。「奎運」とは、学問が普及していく勢いを意味しています。
この奎運ホールでは、2021年に秋山仁前館長と学生との鼎談が行われました。そのようすを動画で視聴することができます(参照:TUSミュージアム映像コンテンツ『受け継がれる理科大DNA』)。
理系の学びについて大変分かりやすいお話をされているので、理系が得意な方もそうでない方も、ぜひ一度ご覧になってはいかがでしょうか。
Ⅳ.近代の科学技術
近代の科学技術について解説された壁面の表。現代の私たちの生活に溶け込んでいる技術がいつ頃発見されたのか、わかりやすく紹介されています。
現存する実験道具や蓄音機などの貴重な品々が陳列されています。実用の美を感じさせる展示品たちが、最先端だった時代に思いを馳せたくなります。
サロン
市松模様のタイルのデザインが印象的なサロンです。
現在Eテレで放送中の「3か月でマスターする数学」の収録でも使用されている場所です。
アンティーク調のお洒落な空間に目を引かれながら、アンティーク家具をよく見てみると、なんと本物の蓄音機でした。本物がこれほど間近に見ることができるとは!
本物の蓄音機で聴く音はどんなものなのでしょう。想像をかきたてられます。
2階「大村智記念展示室」
大村智博士は、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。日本では3人目の受賞です。
大村先生の本格的な研究のスタートは、東京理科大学の大学院。日本のノーベル賞受賞者の中で、唯一の私学出身者でもあります。
イベルメクチンの発見とその応用について学べる展示室は2階にあります。
ノーベル賞メダルを3Dで見ることができるのは、日本でここだけです。写真に撮ることはできませんでしたが、3Dの技術を実際に見て体験できるのも面白い展示でした。
世界で年間4億人以上の人々の命を救っている「イベルメクチン」。そんなすごいものを開発された先生でも、長い研究生活の中では、多くの失敗も経験されたといいます。それでも失敗にめげずに努力を重ねた結果、ノーベル賞の受賞につながりました。
大村博士の言葉が直筆で何点も展示されています。これから理学を志す学生へのメッセージに、人生の深みとあたたかさを感じ、胸を打たれました。
資料館の情報
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東京理科大学 近代科学資料館
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住所|東京都新宿区神楽坂1‐3
電話|03‐5228‐8224(開館時間のみ)
開館日時|水・木・金 12:00~16:00
/土 10:00~16:00
休館日|日・月・火・祝日および大学の休業日(年末年始・入試期間を含む)
入館料|無料※入口で簡単なアンケートのご協力下さい。
HP|近代科学資料館、数学体験館
※本記事の執筆にあたり、関係者の皆様に貴重なお話を伺いました。多大なご協力に感謝申し上げます。
資料館事務室室長・青木様、科学コミュニケーター/学芸員・大石様、経営学部・高松様