森山さん、これは公用文書等毀棄罪(刑法258条)に該当するのではないですか!
今大問題になっている「老後2000万円」の報告書をめぐって、野党側が予算委員会での集中審議を求めていますが、自民党の森山国会対策委員長は、「この報告書はもうなくなっているので、予算委員会にはなじまない」と述べ、野党の要求に応じないという考えを示しました。
老後2000万円「報告書はもうなくなった」自民 森山国対委員長(NHK NEWS WEB)
問題となった文書は、金融庁の審議会が今月3日に公表した「高齢社会における資産形成・管理」という報告書。この報告書は、庁内の審議会に設けられた有識者会議の1つである「市場ワーキング・グループ」が作成した報告書で、大学教授や金融機関の代表者ら21人の委員が去年9月から12回議論を重ねて、正式かつ最終的に「報告書」として取りまとめたものです。
「報告書はもうなくなった」って、誰が、いつ、どのような手続きで、廃棄したのでしょうか?
これって、大丈夫なのでしょうか?
というのも、刑法258条には次のような規定があるからです。
(公用文書等毀棄)
第258条 公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
これは、公文書等が主権者である国民全員の共有財産として健全な民主主義の根幹を支える知的な資源であることから、公文書の価値・効用を保護することを目的とした規定です。
具体的な条文の解釈は、次のようになっています。
まず、公用文書毀棄罪における「公用文書」とは、作成者がだれであれ、公務所における使用に供され、あるいは使用の目的をもって保管される文書のことですから、この報告書が「公用文書」であることには疑いがありません。念のためにいえば、作成者等の所定の署名押印を欠いたり、本文に未完成部分があるなどの未完成文書であっても、それが文書としての意味・内容を備えるものであれば、同罪における「公用文書」に該当するとされています。
次に、「毀棄」とは、(1)文書の効用を害することと理解する見解(効用侵害説)と、(2)物質的完全性を害することと理解する見解(物質的完全性侵害説)に分かれていて、両説の違いは、物質的損壊を伴わない隠匿行為が「毀棄」となるかであり、(1)の見解によると「隠匿」は毀棄に含まれることになります。判例としては、裁判所の競売記録を持ち去って隠匿した事案(大審院昭和9年12月22日判決)、村役場が保管する住民登録届けを持ち去った事案(東京高裁昭和28年6月3日判決)などで、公用文書等毀棄罪が認められており、裁判所は効用侵害説に立脚しているといえます(学説も判例を支持しています)。
森山国対委員長がいう「報告書はもうなくなった」というのが、物理的に廃棄されたのか、どこかに隠されたのかは分かりませんが、いずれにせよ刑法的には「毀棄」と呼ばれる行為がなされたといえることは間違いがないでしょう。
ただし、もちろんこれだけで犯罪が成立するというのではなく、廃棄に正当な理由があれば犯罪にならないことは当然です。
この廃棄を含めて、公文書の管理については、〈公文書等の管理に関する法律〉において厳格な手続きが定められていて、さらに〈行政文書の管理に関するガイドライン〉(pdf)においては具体的な管理の手続き等が決められています。
したがって、問題はこのような規定に基づいて具体的に廃棄の手続きがなされ、そして「報告書はもうなくなった」という上記の言葉につながったのか、その過程を国民は知りたいと思うのです。(了)