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アセアンドリーム選手が横浜Fマリノスアカデミーの練習に参加。木場昌雄が続ける、東南アジアでの挑戦。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

■今年は横浜Fマリノスジュニアユースの練習に参加。

遡ること一昨年の12月。木場昌雄氏(元ガンバ大阪、アビスパ福岡選手/Jリーグアジアアンバサダー)は、自身が立ち上げた一般社団法人『Japan Dream Football Association(JDFA)』が大会実行委員の一員となり『第1回U-14 ASEAN Dream Football Tournament』を開催した。

これは「選手の育成および強化」「アジア全体でのサッカーのレベルアップ」「選手発掘」「国際交流とグローバル人材の育成」を主な目的に据えたもの。タイから7チーム、日本から4チーム、カンボジアから1チームの計12チームが参加し、ベスト4に進出したクラブから3名のタイ人選手が大会優秀選手に選出。昨年5月にガンバ大阪ジュニアユースの練習に参加してトレーニングや練習試合、トップチームの試合観戦などを通してJクラブのレベル、プレースタイルの違いなどを体感した。

そして今年、その第2回目の試みが行われた。今回の受け入れ先は横浜Fマリノスだ。一昨年と同様、昨年の12月にはJリーグにも後援を受けて『第2回U-14 ASEAN Dream Football Tournament』を開催し、参加20チーム(*参加チームは下記参照)の中から大会優秀選手を2名選出。優勝したBECテロササーナFC(タイ)からカンタポン・キーリーレーン選手と、5位のマレーシアU-14からモハマド・クッサイニ・アドゥリ選手が5月22日に来日し、翌日から同29日の帰国まで約1週間にわたって横浜Fマリノスジュニアユースの練習に参加した。

「横浜Fマリノスは、昨年、ユース、ジュニアユースチームとも日本一になったクラブ。東南アジアの選手に高いレベルのサッカーを体感させたいという思いから、マリノスさんにお願いをしたら快諾いただき、今回の練習参加が実現しました。昨年は、タイ人選手が3名だったのに対し、今年はタイ人とマレーシア人の選手が1人ずつだったので、コミュニケーションのところがどうなるかと思っていましたが、そんな心配は不要でしたね。マリノスのスタッフの皆さん以下、選手の皆さんもすごく友好的にコミュニケーションを図ってくれたし、彼らも『知っている顔が周りにいない=甘えられるところがない』分、積極的に日本人選手ともコミュニケーションをとっていた。唯一、僕らが気を配ったのは、マレーシア人の選手が宗教上の問題で豚肉や鶏肉を食べられないことから『ハラール』対策をしなければいけなかったということくらい。そのあたりは逆に僕たちの方が異文化を知り、学んだところでしたが、それ以外はマリノスさんのサポートに助けられ、充実した時間を過ごすことができました(木場氏)」

■たくさんの収穫とともに、課題も残す。

約1週間の滞在では、紅白戦や練習試合等に出場したのみならず、トップチームの練習見学やJリーグ観戦をはじめ、横浜YMCAの協力により異文化交流として『習字』にもチャレンジ。またJリーグ訪問や村井満Jリーグチェアマンとの面談など、アクティブに活動したようだ。

「この1週間がすごく短く感じるほど、素晴らしい経験を積むことができました。目の前のことに真面目に取り組むことの必要性や将来、プロ選手になるために必要な技術、戦術などとても多くのことを学びました。プレーに対する意図、基礎技術の面で自分に物足りなさを感じたところもありますが、今回、規律の中でサッカーをすることや意図をもってプレーする重要性を学べたことは、今後の自分に活かしたいと思います。(キーリーレーン選手)」

「1週間が終わり、マリノスと一緒にいられないと思うと、少し悲しくなります。今回の練習参加では、日本人選手に比べて、体力や技術、ボールを蹴る力や判断力の早さなどが足りていないと痛感しました。僕もいつかマリノスの選手のように高いレベルのプレーができるよう、もっと頑張りたいと思います。最終日にJリーグの『横浜Fマリノス対柏レイソル』戦を観戦しましたが、両チームともレベルが高く、プレースピードが早いことや、中村俊輔選手のテクニックやスキルの高さが印象に残りました。またマレーシアリーグと違い、選手とサポーターがケンカになるようなこともなく素晴らしいスポーツマンシップをみることができました(アドゥリ選手)』

ただ、一方で木場氏自身は、2回目のJクラブへの練習参加を終え、手応えのみならず課題も口にしている。

「マリノスさんに全面的にご協力いただいたおかげで、選手はすごく充実した時間を過ごすことができました。マリノスさん側にも僕たちの取り組みにすごく賛同いただいて、来年もぜひに、というような声を掛けていただいたのもとても、嬉しく思っています。ただ、僕自身には反省が残りました。というのも、今回参加した2選手は所属チームであまり個人戦術やグループ戦術を教えられてないこともあり、日本のサッカーに入ると、明らかに適応に時間がかかってしまう、と。実際、マリノスさんは指導において『守備の意識』をすごく大事にされているし、現代サッカーでは不可欠なところですが、例えばキーリーレーン選手のように180センチくらいある、スケール感やスピードに乗った仕掛けがウリの選手にそこを求め過ぎると逆に考えすぎて自分の持ち味を出せなくなってしまう傾向にありますから。そう考えても、短期間で日本のサッカーを学ぶことと、彼らの良さを最大限に引き出していくことを、いかにマッチングさせていけるか、という部分については、今後の課題として残りました(木場氏)」

■『継続』することを力に変えて。

また『今後』というところで言うならば、活動の『継続』も木場氏が強く意識しているところだ。

事実、「大会を開催し、アジアの選手を日本のJクラブに練習参加させました、で終わっては、本当の意味での『東南アジアでプレーする選手のJリーグへの輩出』という目的に近づけない」という考えもあってだろう。昨年、ガンバ大阪ジュニアユースの練習に参加した選手のうちFWキッティポット・ダンアルン(スパンブリFC)選手は周囲の評価も高かったことから、今夏、国際交流基金の助成を受けて、横浜Fマリノスの練習に参加させることが決まっていると言う。

「継続的に日本のクラブにみてもらうことで、彼らの評価も変化してくるだろうし、彼らも継続的に学ぶ機会を得ることで、成長できる部分が必ずある。だからこそ、単発で終わるのではなく、継続していくことが大事だと思っています(木場氏)」

また、毎年12月に開催してきた『U-14 ASEAN Dream Football Tournament』も、今年も12月に第3回目を予定しており、今夏は1回目の12チーム、2回目の20チームから更に参加チーム数を増やして、日本とタイ、ASEAN諸国からそれぞれ8チームずつの計24チームと規模を広げ、よりハイレベルな競争が繰り広げられるよう準備をしている最中にあるそうだ。

「以前に比べて、東南アジアのクラブとパートナーシップを結んでいるJクラブは増えましたが、正直、そうした提携をうまく活かし切れていない現状もあります。今回、マリノスさんがFWダンアルン選手を受け入れてくださるのは、もともとマリノスとスパンブリーFCはパートナーシップを結んでいましたからね。その中で今年の1月にマリノスアカデミーの指導者がスパンブリーのアカデミーに派遣されていた中で、ダンアルン選手のプレーを見ていたという経緯から受け入れが実現しましたが、そのように両クラブの関係がより密になっていけば、お互いにプラスになることも増えるんじゃないかと思っています。また、今年の12月に開催予定の『第3回U-14 ASEAN Dream Football Tournament』についても、過去の2回よりJクラブ数の枠を増やしたのは大会そのもののレベルアップを図るという目的以外に、大会を通して参加クラブ同士の交流が深まったり、選手発掘のきっかけになれば嬉しいな、という思いもあります。と同時に、それがわずかでも、日本や東南アジアのサッカーの発展につながればいいなと思っています(木場氏)」

現役を引退後、木場氏がJDFAの活動を始めて5年が過ぎた。その活動の芯に据える『東南アジア出身のJリーグプレーヤーの輩出』は未だ実現していないが、蒔いた種は少しずつ、その枝をいろんな方向に伸ばし、生き生きとした若葉をつけつつある。もちろん、先ほど木場氏自身も課題を口にしたように、まだまだたくさんの『栄養』を与える必要はあるが、ゆっくりと時間をかけて大事に育てた植物は、きっといつかしっかりと地に根付き、大きな花を咲かせる。今はただ、その日が待ち遠しい。

*『第2回U-14 ASEAN Dream Football Tournament』参加チーム

<日本>モンテディオ山形ジュニアユース、アルビレックス新潟U-15、川崎フロンターレU-15、清水エスパルスSSセレクション、名古屋グランパスU-15、愛媛FC U-15

<アセアン>PVFベトナム、マレーシアU-14

<タイ>ブリーラムユナイテッド、SCGムアントンアカデミー、バンコクユナイテッドFC、チョンブリFCアカデミー、スパンブリーFC、アーミーユナイテッド、チェンライユナイテッドFC、オソサバM-150サムットプラカーンFC、BECテロササーナFC、チャイナートホーンビルFC、ポートFC、トンブリシティ

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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