債券先物のチーペストとは何か
日本国債先物(以下、債券先物)の契約を決済する方法は2つある。ひとつは差金決済であり、反対売買(転売または買い戻し)で売った価格と買った価格の差額で決済する方法となる。
もうひとつの決済方法として、JGB先物には現引き・現渡しによる方法がある(ラージのみ)。
これは日経225先物と最も異なる点となる。日経225先物のような株価指数先物については、途中で反対売買をせずに最後まで決済されなかった建玉は、自動的に「SQ(Special Quotation=特別清算値)」で決済される仕組みとなっている。
これに対して債券先物の場合、売買最終日までに反対売買で決済されなかった建玉は、受渡決済期日(各限月原則20日)に、現物国債の受け取りや引き渡しで決済する。
売り方は決済日までに手持ちの現物国債を引き渡し、代金を受け取る(現渡し)。また買い方は代金を支払って、現物債を引き取らなければならない(現引き)。
この決済の対象となる現物国債には条件があり、その条件を満たすものを「受渡適格銘柄」と呼ぶ。債券先物の受渡適格銘柄は、受渡決済期日に残存期間が7年以上の11年未満の10年利付国債である。
昔は同じ残存の20年国債も対象となったことがあったが、いまは10年国債だけが対象となる。
債券先物は標準物という架空債券の取引となっているため、大阪取引所では、この標準物と、それぞれ利率や残存期間の違う受渡適格銘柄の価値が同一となるような「交換比率」を発表している。「コンバージョンファクター(CF)」とも呼ばれる。
ちなみに標準物の利率は6%に設定されている。6%という利率は、東証に債券先物が上場された1985年当時の長期国債の発行状況などを踏まえて決定された。参考までに1985年の消費者物価指数は前年比2.0%の上昇となっていた。
債券先物は、受渡可能な国債のなかで一番割安なものに価格が連動する仕組みとなっている。この最も割安なものを「チーペスト銘柄(CTD=Cheapest To Deliver)」という。
現在の長期金利水準では特に残存期間の影響力が大きい。そのため、受渡適格銘柄のうち最小残存期間の銘柄がチーペストになる傾向がある。
チーペストには残存期間の最も短い7年残存の国債がなる。このため債券先物は10年国債の先物取引であるが、実際には残存10年の国債でなく、残存7年の国債に連動しているのである。
ただし、2022年12月の日銀による長期金利の許容レンジの拡大によって、369回の利率が0.5%と368回の0.2%から引き上げられており、3年後のチーペストの算出には利率も大きく絡んでくることが予想される。