「非正規」をいくら増やしても、問題ないのか? ZOZOTOWNの実情から考える
昨年来、衣料品通販サイト大手のZOZOTOWNを運営する(株)ZOZOにおける非正規雇用の「活用」が問題となっている。
(株)ZOZO社長の前澤氏は、1000億円近くをかけて月に行くと宣言し、1億円をお年玉企画と称してばらまくなどのパフォーマンスを行う一方で、同社は全従業員のうち約67%が非正規雇用という「非正規依存企業」である。
こうした実態に対し、利益を労働者に還元すべきだとの批判が上がっているのである。
藤田孝典「ZOZOTOWNの非正社員比率は67%ー派遣や非正社員に過度に依存する企業体質からの脱却をー」
他方で、このような批判に対して、「非正規は違法ではないのだから、何も問題はない」という主張もある。彼らの主張によれば、どんなに非正規雇用を活用していても、違法行為をしていなけいのだから、「優良企業」だというのだ。
確かに、非正規雇用を「活用」すること自体は合法である。しかし、何らの問題もないと言えるだろうか。
むしろ、その多くは有期雇用という不安定な立場に置かれ、低賃金であるという問題が以前から指摘されてきたはずだ。
そこで今回は、非正規雇用が「なぜ問題なのか」を改めて考えていこう。
有期雇用という問題
まず、非正規雇用の多くは有期雇用であるという問題から見ていこう。
非正規雇用のうち、有期雇用の割合はどれくらいなのだろうか。「平成29年就業構造基本調査」によれば、非正規雇用全体に対して、有期雇用の割合は55.2%である。
さらに、非正規雇用ごとに分類してみると、派遣社員の内72.7%、契約社員では93.0%が有期雇用である。つまり、非正規雇用の大半は有期雇用なのだ。
では、有期雇用の契約期間はどうなっているのだろうか。
やや古いデータになるが、「平成23年有期労働契約に関する実態調査」によれば、有期雇用契約の1回あたりの契約期間は、「6ヶ月超〜1年以内」が48.6%と最も多く、次いで「3ヶ月超〜6ヶ月以内」が21.3%と続いている。
さらに、契約更新回数は「6〜10回」が最多となっている。
このように、非正規雇用では、非常に短い期間の細切れ雇用を、何度も繰り返し更新していることが分かる。
その結果として、有期契約でありながら長期雇用となっている労働者も少なくない。
労働政策研究・研修機構「第2回 日本人の就業実態に関する総合調査」(2016年)によれば、勤続年数が5年以上の労働者が約半数に上る。
しかも、パートでは、勤続年数が「5〜9年」:24.4%、「10〜19年」:20.5%となっており、契約社員でも「5〜9年」:19.5%、「10〜19年」:17.8%、「20年以上」:10.6%にも上っている。
つまり、「長く働かせたいが、いつでも首を切れるようにしたい」というのが非正規雇用が活用される理由なのだ。
だからこそ、有期雇用は法律上の正義から見て「不合理」だと以前から考えられてきた。そして、2013年に改正された労働契約法によって、5年以上の勤続後には、企業は無期転換の申し入れをしなければならなくなった。
ところが、今度は5年ごとに入れ替えるという新たな「不合理」が生み出されている。
参考:「中年フリーター」を同時に襲う奨学金の「2019年問題」と非正規雇用の「2018年問題」
こうなると、そもそも「非正規雇用」を禁止するしかない、という話になる。
事実、欧州では「入口規制」といって、最初から産休の代替など、短期雇用に「合理性」のある場合にしか、有期雇用で雇うことができない国もある。
低賃金という問題
次に、非正規雇用は低賃金であることも問題を引き起こしてきた。
特に、正規雇用との賃金格差は著しい。内閣府「平成29年度 年次経済財政報告」によれば、2016年時点での正規と非正規の賃金格差は、所定内給与額ベースで1.5倍、年収ベースで1.8倍となっている。
所定内給与に各種手当やボーナスが加わることで、より一層正規との賃金格差が拡大するのである。
また、時給ベースの賃金カーブを見てみると、正規の賃金が年齢に比例して上昇して行くのに対し、非正規はほとんど上昇することはない。
その結果、45〜49歳の時点で賃金格差がほぼ2倍にも及ぶことになる。
それでは、正規と非正規の賃金格差は世界的にはどうなっているのだろうか。
労働政策研究・研修機構「データブック 国際労働比較2016」によれば、正規の時給を100とした時の非正規の時給の水準は、日本で56.6であるのに対し、ヨーロッパでは70〜80台となっている。
日本に比べてヨーロッパで正規・非正規間の格差が小さい理由は、雇用形態のいかんに関わらず、「同一労働同一賃金」の原則が存在するからである。
逆に日本では、同じ労働を従事していたとしても、雇用形態によって賃金差別をすることが容易に可能である。
同一労働同一賃金については、60年以上前の1951年にILOが条約で規定している。つまり、戦後の国際社会のスタンダードな考え方だと言えよう。
ちなみに日本は1967年に批准はしているが、実態が全く追いついていないと言わざるを得ない。
先進国では異例の、「差別自由の非正規雇用」ともいえる状態が日本の非正規雇用の特徴なのである。
尚、アメリカで格差が大きい要因は、移民が低賃金のサービス業に集中するなどして、特定の職業に非正規が集中していることが要因であると考えられる(つまり、「違う仕事」に従事しているので賃金格差が大きい)。
さらに、非正規雇用の低賃金は正規との格差だけでなく、未婚率を上昇させる。
図5の通り、正規と非正規の有配偶率は25〜29歳の時点で2倍以上に開き、格差は拡大し続ける。
非正規雇用で何ら問題ないのであれば、結婚相手としてこれほど格差が生じることはあり得ない。
非正規雇用が「差別的」に扱われているからこそ、「結婚相手」として不適格になっていることが明瞭に示されているといえよう。
事実、結婚紹介所では「正社員」ではない者の登録を受け付けないところもある。
そのような「差別的雇用」を大量に活用することが「何も問題ない」といえるのだろうか?
非正規雇用に「依存」する社会
以上のように、非正規雇用は明らかに「差別」される存在である。それにもかかわらず、彼らは今や、多くの産業の「基幹的」な担い手となっている。
労働力人口の37.3%にまで増加した非正規雇用が、周辺的な業務にとどまらず、恒常的に基幹的な業務にも充当されているのだ。
コンビニチェーン店や市役所の窓口など、私たちの生活を支える重要な労働の多くが非正規雇用に「依存」している。
そうした「依存」の異常さは、私立学校教員のケースを見ればわかりやすい。2011年の文科省の調査によると、私立高校では公立高校の約2倍に当たる4割弱が非正規となっている。
例えば、非正規教員の雇止めを巡ってストライキが起こった京華商業高校では、「有期専任」という1年契約の非正規教員が専任(正規雇用)と同じく担任や部活といった基幹的な業務を担っていた。
生徒の教育にとって重要な基幹的業務を担っているにも関わらず、都合が悪くなると使い捨てられるような不安定な立場では、まともに教育ができないというのが、非正規教員たちがストライキを決行した動機であった。
実際に、非正規雇用の雇止めのために、担任が変更され、部活が廃部となり、生徒の進路指導や学校生活に支障をきたす例もある。
ZOZOTOWNにおいても、顧客の個人情報を非正規雇用が扱い、配送を手配している。果たして細切れ・低賃金の雇用で顧客サービスの安全を守れると、いえるのだろうか。
もちろんそれはZOZOTOWNに限ったことではない。ここで問題にしていることは、同業他社や、他業種(例えば行政の窓口など)、多くの「非正規依存」の職場に共通する。
すなわち、「非正規依存」そのものが問題ではないか、ということだ。
非正規雇用はなぜ問題なのか
確かに非正規雇用は「違法」ではないかもしれない。
しかし、本記事で見てきたように、非正規雇用は法的に差別され、そのために、結婚すら困難な状態に置かれている。
また、不安定で低賃金の非正規雇用では、社会を再生産するために必要不可欠な仕事を全うすることができないのである。
そうした意味で、非正規雇用の拡大は重大な社会問題のはずだ。
思うに、最近の雇用論議の「水準」は、あまりにも「後退」しているといえないだろうか?
違法行為をして、社員を次々にうつ病にしたり、過労死を出していなければ、問題ないのだろうか? 2008年に「派遣村」が問題化し、政権交代まで引き起こしたように、「違法」ではなくとも社会問題は発生する。
「非正規は違法ではないから、どんなに使っていてもホワイト企業だ」という主張を続けても、社会問題・労働問題は解決しないのである。
ぜひ専門家に相談を
最後になるが、日本の非正規雇用の異常な状況は、労働者としての権利を行使することで改善していくことが可能である。
一見すると「法律を守っている」と思われる行為でも、裁判を起こすことで「違法」となり、法律自体が変わることもある。
例えば、現在不合理な雇止めは禁止されている。だが実は、それは、この法律ができる前に裁判で争われ、労働者側が勝訴したことで、法律そのものが改正されたからなのだ。
また、ユニオンによる団体交渉や裁判などを通じて、雇止めを撤回させたり、有期雇用を無期雇用に転換させることや、そうした約束を「労働協約」という法律で守られる社内規則に「昇格」させることもできる。
これらの「規則の変更」は、ひいては社会全体を正常に運営していくことにもつながるだろう。
非正規雇用で問題を抱えている方は、まずは、専門家に相談してほしい。
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