「住民協議会」でまちづくりに参加する
■突然、役場からこんな手紙が届いたら…
「まちづくりや政策のことを考える会議の参加候補者に、あなたは抽選で当たりました。つきましては、この会議にご参加ください」
このような手紙が市町村役場から届いたら皆さんはどう感じるだろうか?
「なんで自分が当たったんだろう?」と届いたことに合点がいかなかったり、「当たったと言われても、自分の住むまちのことなんて考えたこともないから会議に参加しても何も話すことができない」と感じる人が多いのではないだろうか。「怪文書の類か?」とすら思うかもしれない。
しかし、このような手法が行政の中で注目を浴びつつある。私が所属する政策シンクタンク「構想日本」が行っている、「住民協議会」と呼ばれるものだ。
■住民協議会とは
「住民協議会」とは、一言で言うと「無作為に選ばれた住民が、まちの課題について議論する場」だ。構想日本が発案した仕組みである(「住民協議会」という名称自体は一般用語であり、同じ名称で別な取組みを行っている事例もある)。地方自治体から構想日本が依頼を受けて、主催は地方自治体、構想日本が協力して行っている。
住民協議会の目的は次の二つに大別される。
1.身近な問題を行政任せにせず、住民自らが「自分ごと」として、まちの状況を知り、意見を出し合う。
2.行政が行っていることを具体的に考え、課題解決を目指す。
行政の様々な政策課題(例えばゴミ問題とか防災など)の解決策を探ることも目的の一つだが、それ以上に、このような場に住民に参加してもらうことで、行政やまちのこと、ひいては社会全体のことを「自分ごと」として捉えてもらうことを主たる目的としている。
住民協議会の最大の特徴は、参加する委員の選び方が「無作為抽出(=抽選)」という点である。協議会を行政が主催して行う場合、住民基本台帳からランダムに1000~2000人程度を抽出して協議会参加の案内を送る。その中で応募のあった人に委員を務めてもらう。この委員が中心となって、ごみ問題や防災など、あらかじめ行政が設定したテーマについて、課題や解決策を議論していく。4~5回程度協議会を開催して一定のとりまとめを行っている(同じメンバーに集まってもらう)。
具体的には、初回はテーマに関する現状の把握と共有をし、第2、第3回でテーマに関して、日常生活の中から感じていることを発言してもらい、様々な視点から議論をする。ポイントは、行政が用意したシナリオの中で議論するのではなく、あくまでも「住民の日常生活」を出発点として議論することにある。行政の説明に対して意見を求めてもすぐに議論が活発になることはあまりないが、住民の生活実感から聞いていくことで発言がしやすくなる。また、多様な論点が出されることにもつながる。
第4回(もしくは第5回も)は、とりまとめに向けた議論を行う。つまり、第1回が「把握」、第2、第3回が「発散」、第4回(もしくは第5回も)が「集約」という位置づけになる。
議論する人数は応募者数によって変わってくるが、深い議論をするには一班あたり20人程度が上限だと考える。応募者が多ければ複数の班を設置する(実際にはいくつのグループを作るかを先に想定し、その逆算で何名を無作為に抽出し案内を送付するかを決める)。この際、班ごとに別な論点を提示して議論するのではなく、どの班も同じテーマで論点を分けることなく議論してもらう。同じテーマであっても班によって主要な論点はおのずと異なってくる。結果的に論点が多様化し、様々な視点から考えることが可能になる。なお、協議会の議論には、無作為に選ばれた住民のほかは、行政の担当者とコーディネーター(構想日本メンバー)、スポットで参加してもらうナビゲーター(論点を提示する役割として参加してもらう外部の専門家)しかいない。従来の会議によくある学識経験者や公募委員などはいない。このような委員の構成は、これまで例がなかったと言える。
「住民協議会」は、2014年に福岡県大刀洗町で初めて行って以降、これまで11自治体で15回開催してきた。これまでの応募率の平均は3.7%だ(1000人に送ると40人弱から応募がある)。
無作為抽出なので、誰に案内が届くかも、誰が参加するかもわからない。そのような人たちが集まってまともな議論ができるのか? このような質問が常にある。構想日本でこれまで(住民協議会以外のことも含めて)100回以上にわたって類似の取組みを行ってきた実感として、参加した住民は、しっかりと自分の頭で考え、建設的に話をしてくれる。さらに、今後の改善に結びつくようなアイディアもどんどん出てくるのだ。
■ふつうの「市民」にアプローチ
従来、行政が市民の意見を聴こうとする場合、1.「公募」や、2.充て職として「団体の長」を選ぶことが多い。
1.は、行政がホームページや広報紙などで募集を行い(大抵は1~数人の募集)、簡単な作文などを提出してもらって決めることが多い。意識の高い人が参加できる利点がある一方で、どの分野の募集であっても特定のごく少数の人が何度も繰り返し手を挙げるのが全国的な傾向であり、多様性に乏しいとの課題も見えている。
2.は、例えば商工団体の会長や農協の組合長などにお願いして会議の委員になってもらう。影響力のある人を選ぶことができるという利点があるが、毎回団体の長を選ぶことによる形骸化や参加者の固定化などの課題も生じている。
上記2つの手法を辞めたほうがよいと言っているわけではない。意識の高い人や影響力のある人の意見を聴くことも大切である。しかし、普段は自分の住むまちのことを考えていないけれど、たまたま手紙が届いて仕事が休みだからまちのことを考えてみようという人(住民協議会は大抵週末に実施する)の意見も同じ「民意」である。行政は(政治も)これまで、この層へのアプローチができていなかったのではないだろうか。
■「住民同士の議論」になる!
住民協議会は、無作為に選ばれた人たちと議論をすること以外に、二つの大きな特徴がある。
一つは、「行政対住民」ではなく「住民同士」の議論になることである。
行政が住民の意見を聴くために開催する会議(住民説明会など)は、行政が説明したことに住民が様々な指摘をする→行政側は「検討する」などの表現を使いながら何も変えるつもりがない→住民側は反発する、といった対立の構図になりがちだ。この構図を打破するために、第三者である構想日本のメンバーがコーディネーターとして加わることにしている。第三者が客観的に論点の整理をすることで不要な感情的対立が防げると実感している。
■「個人でできること」を問いかける
もう一つの特徴は、まちの課題を解決するにあたっては「個人でできること」、「地域でできること」から考えるようにすることだ。
住民が意見を述べるような場では、行政への要望に終始してしまうことも多い。しかし、課題を解決するセクターは行政だけではない。まずは自分たちでできることから考えるよう促している。さらに、「言いっぱなし」で終わらないよう、参加委員は具体的な課題とその改善策を「改善提案シート」に記入する。「改善提案シート」には、まず議論を通して感じた課題を記入してもらい、次に、課題の解決策として、「個人でできること」「地域でできること」「行政がすべきこと」の順に記入してもらう。参加者に、「個人や地域でもできることはないか」を考えてもらったうえで行政の役割を考えてもらうことが大きな狙いだ。
■「改善提案シート」でアイディアが飛び出す
改善提案シートは非常に重要なツールだと考えている。一例を挙げたい。
高松市の東隣に位置し、人口3万人弱の香川県三木町で行った住民協議会。三木町では以前から無作為抽出の手法を活用した会議を行っており、「百眼百考会議」と名付けられていた(50人、100の目で三木町を見てもらい、それぞれの考えでアイディアを出してもらうという意味)。三木町は「総合戦略」という5年間の重点計画を策定するにあたって、無作為で選ばれた住民を1.「移住促進・受入」、2.「行政と地域組織の役割」、3.「地場産業と雇用」、4.「結婚・出産・子育てなど若年世代対策」の4つのグループに分け、計画を作るための素材を出す役割を担って議論に参加してもらった。
私がコーディネーターを務めたのが4.の「若年世代対策」のグループ。この会議を開く前年度に行政が子育て世帯にニーズ調査を行っていた。最もニーズが高かったのが遊具付きの公園の設置だった。そこで行政は、公園用地の取得を検討しており、そのことを伝えたうえでの会議だった。
会議の中で、三木町内にある公園や子どもの遊び場の場所や数などがわかると、多くの参加委員から「こんなに公園があることを知らなかった」との声が挙がった。これを踏まえて、改善提案シートには、課題として「公園が利用されていない」という記載が多く出た。また、解決するために「個人でできること」として、「知らない公園が多いので把握する努力をする」こと、また、「地域でできること」は、「草刈りなど公園整備のサポートをする余地があることがわかったのでしていきたい」との記載があった。
では、行政は何をすべきか?
多くの参加委員が記載していたのは、「町の中にある遊び場のマップを作成する」。特にまだ小さい子どもを育てている委員から出された意見だった。既に公園用地を取得すべく準備をしていることを町の担当者が伝えていたにもかかわらず、公園を作る前に、今ある遊び場を知ることから始めよう、それによって遊び場が足りないと感じていた子育て世帯の課題意識が解決するかもしれない、という趣旨だ。この議論を踏まえて、行政はすぐに公園を整備するのではなく、「遊び場のマップ」を作ることにした。さらに、行政の中だけで作っても面白くないものになってしまうと町長が考え、大学生に協力を仰いだ。
三木町内には香川大学のキャンパスがある。ちょうどこの会議にも、無作為抽出で選ばれた住民とは別に、香川大学に依頼をして数名の学生に参加してもらっていた。学生は将来の当事者でもあるが、一方で、今は子育てをするわけではないので一歩引いた存在とも言える。この両面の性格を持つ学生に町の計画作りに関わってもらうことは、計画の中身の充実と参加する学生の当事者意識の醸成の二つの利点があると行政が考えての依頼だった。
さらに、参加学生の多くが、まちづくりを行うサークルに入っていたため、このサークルにマップ作りをお願いした。このマップが影響しているかどうか厳密な相関関係はわかっていないが、公園を利用する人が増えたという声が出ている。
三木町でのこの一連の流れは、いわゆる「有識者」ではなく、誰が来るかわからない無作為に選ばれた人たちの議論が政策に結び付いた一つのモデルケースと言ってよい。
■「自治を感じる」=「まちのことを考える」機会をつくろう
「まちのことを考えるのは政治・行政(に関わる人)であって、自分とは別な世界」と考えている一方で、政治・行政は自分たちの税金を何に使っているかわからないという不透明感、不信感を持っている人が、どこのまちにも多かれ少なかれ存在すると感じる。しかし、まちのことに関して政治や行政が担っているのはごく一部であって、中心は私たち自身である。だからこそ、自分たちの生活の満足度や幸福感を高めたいと考えたときに、政治や行政に向かってモノを言うだけでなく自分たちで考え行動しなければならない。それこそが「自治」の理念である。
これまでは、「自治」を感じる(=まちのことを考える)機会が少なかったのではないか。無作為抽出という手法で選ばれた住民が、何となく来て議論に参加する。これによりその機会に出会えると考えている。このような手法によって、政治や行政の「自分ごと化」を実現していきたい。
「時の法令」2018年8月15日号(第2055号)より転載(一部修正、写真は追加)