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新型肺炎対策、在宅勤務の広がりとともに進化する中国ビジネスツール

滝沢頼子インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

新型肺炎が広がりを見せているが、多くの取り組みの甲斐あってか、中国の患者数の増加率は低下傾向となっている。

各企業は、引き続き感染拡大を抑えるため、極力社員が外に出なくても良いように工夫を重ねている。

例えば、中国IT大手のテンセントでは少なくとも2020年2月末まで全社員が在宅勤務。その他も、在宅勤務の判断を行う企業は少なくない。

今回は、在宅勤務で進化・浸透が進む中国のコラボレーションツール(仕事におけるチャットや会議、文書共有などに利用されるビジネスツール)を紹介していく。

在宅勤務を見据え、多くのコラボレーションツールが機能を無料開放

36kr Japanの記事によると、2月2日までに、中国IT大手のアリババやテンセント、Tiktokで有名なバイトダンス、通信機器大手HUAWEIなど少なくとも17社が自社のコラボレーションツールの多くの機能を無償開放した。

各メディアが新型肺炎のニュースを一斉に報じたのが1月20日であることを考えると、多くの企業が2週間足らずで無償開放を決断・実施を完了したということになる。

かなり多くの企業が迅速な対応を見せているが、以下では頭文字を取って「BAT」と呼ばれる、中国の大手IT系企業3社のBaidu(バイドゥ)、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)の三社の動きを紹介していく。

アリババの「DingTalk(釘釘)」

アリババ傘下のコラボレーションツールの「DingTalk(釘釘)」は、在宅勤務をサポートするためのマニュアルを無料で公開。

また同時に、リモートビデオ会議、スケジュール共有、タスクコラボレーション、オンラインドキュメントコラボレーション等の仕事で重要度が高い機能を無料開放した。

新機能のリリースや機能の無償開放を伝えるDing Talkのリリース(Weibo公式アカウントより筆者撮影)
新機能のリリースや機能の無償開放を伝えるDing Talkのリリース(Weibo公式アカウントより筆者撮影)

加えて、健康管理機能を新規開発し、リリースしている。

健康管理機能では、従業員が体調等の情報を毎日入力し管理者が取りまとめられるだけではなく、例えば社員がその日乗った電車を入力すると、その電車から感染者が見つかったかどうかということを通知してくれる機能もある。

上記はすべて、1月29日にリリースがなされている。

先述の通り各メディアが新型肺炎のニュースを一斉に報じ始めたのが1月20日であるため、そこから動き出したと考えると、一週間程度でのリリースである。

テンセントの「WeChat Work(企業微信)」

IT大手のテンセントも、リモート作業を促進するために多くの機能を新規開発し、開放した。

機能の無償開放を伝えるWeChatWorkのリリース(Weiboの公式アカウントより筆者撮影)
機能の無償開放を伝えるWeChatWorkのリリース(Weiboの公式アカウントより筆者撮影)

多くの人が利用しているコミュニケーションツールWeChat(微信)の企業版「WeChat Work(企業微信)」では、1月28日にはオンライン会議機能の人数を最大300人までに拡大。

また2月3日にはWeChat内でのライブ動画配信機能、リアルタイムで従業員の健康状況を更新&共有する機能、一度に1,000人に通知を送信できる機能などをリリースしたと発表している。

他にも既存のチェックイン機能、レポート機能、文書共有機能等を無料開放するなど、在宅勤務の支援を行っている。

バイドゥの「百度Hi」

検索大手のバイドゥは、これまで社内で利用していたビジネスツールの「百度Hi」をオープン化した。こちらは新機能ではなく、高解像度ビデオ会議機能、企業向けクラウドストレージ機能、インスタントメッセージ機能などの既存機能のオープン化である。これは上記のアリババ、テンセントよりも一週間以上遅い2月11日の対応となった。

また、オープンにする対象も、湖北省などコロナウイルス流行地域の企業のみと限定的である。

湖北省への企業等への機能の無償開放を伝えるバイドゥのリリース(Weibo公式アカウントより筆者撮影)
湖北省への企業等への機能の無償開放を伝えるバイドゥのリリース(Weibo公式アカウントより筆者撮影)

コロナウイルス拡大下で商機の獲得となるか

中国ではビジネスシーンでも個人向けのWeChatが使用されることも多い。ただこのような個人向けアプリではビジネス環境にふさわしくない点も多い。

在宅勤務が広がり、各社が無償で多くのツールを提供すれば、ビジネス環境向けに開発された複合的な機能を持つツールが拡大していく可能性は高い。

これらの製品があることで、今回のような緊急事態でも業務を円滑に行うことが可能になる。

また、このようなきっかけで多くのユーザに使ってもらう機会ができることで、各社はツールの機能を検証することもできる。

外出できない人々を支える在宅勤務関連のサービスは、今まで以上に進化が進む公算が大きいだろう。

在宅勤務の推進と共に「疑わしかったら出社しない」ための法的・金銭的支援が必要

翻って、日本はどうだろうか。2月15日時点では都内で14人の感染者が確認されており、都内を中心に徐々に感染が拡大していく可能性がある。

各企業が迅速に判断し在宅勤務を可能とする措置をとることは、できる限り必要になるだろう。

しかし、仕事内容などによってはどうしても出社しないといけない場合もあるだろう。

ただ日本においては「体調が悪くても頑張って会社に行く」ことが重んじられる傾向があるようにも感じられる。実際、国内でのある感染者も、発熱後2日間出勤していたことが報じられている。

これは「悪しき日本の企業文化」という言葉だけで片付けられる話ではない。

現行の法律だと、コロナウイルスに感染し治癒までに有給を使い切ったら給料が減らされてしまうという状況のようだ。

参考:新型コロナウイルスで会社を休んだら「休業補償」はある? 厚労省がQ&A公開

「給与が減る」ことは生活に関わる事態である。

そのため、疑わしいと感じても無理して出社する人が増え、更なる感染拡大が起こる可能性がある。

これは人間の行動原理として仕方ないことであり、何の保障・支援もなしに個人の判断のみに帰してはならないものではないだろうか。

中国は、治療期間はもちろん、感染が疑われる隔離期間中でも賃金補償を企業に義務付けている。

国や社会を守るために、この点はより手厚い行政の対応があった方ではないのではないか、と筆者は考えている。

インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント

株式会社hoppin 代表取締役 CEO。東京大学卒業後、株式会社ビービットにてUXコンサルタント。上海オフィスの立ち上げも経験。その後、上海のデジタルマーケティングの会社、東京にてスタートアップを経て、中国/インドのビジネス視察ツアー、中国/インド市場リサーチや講演/勉強会、UXコンサルティングなどを実施する株式会社hoppinを創業。2022年からはインドのバンガロール在住。

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