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合格するまで帰れません!? 1日10時間3泊4日の勉強合宿 藤嶺学園藤沢中学校・高等学校(2)

おおたとしまさ育児・教育ジャーナリスト
放課後に思い思いの勉強をする放課後学習活動(筆者撮影、以下同)

週3回、放課後に2時間勉強してから帰る

中学受験をくぐり抜けてきた子どもたちは、基本的にやればできる。それなのに中学校で成績が低迷するとすれば、ほとんどの場合勉強していないだけだ。中学受験勉強では塾が勉強のペースメーカーだったため、塾という枠組みがなくなると、自分で家庭学習計画を立てるのが難しくなるという背景がある。

かといって、中学生の時分から大学受験のための塾に通うのもナンセンスである。そこで、首都圏の街中には、私立中高一貫校生を対象にした、自習のための塾も存在する。自習なら学校の図書館でやってもいいではないかと思うかもしれないが、人間の意志はそんなに強くない。ましてや中学生である。

一方で、中学生にもなって、いつまでも保護者に家庭での勉強を管理してもらうのも違う。反抗期にもなればむしろそれが裏目に出ることのほうが多い。親子関係がギクシャクしてしまえばそのほうがやっかいだ。共働き家庭が多いという現実もある。

そんななか、家庭でやるべき勉強を学校にいる間に終わらせてしまおうという発想で、藤嶺藤沢が2016年から始めたのが「放課後学習活動」だ。

週3回、放課後に教室で2時間勉強してから帰る日を設けている。何をやるかは原則的に自分で決める。自ら学習のペースをつくれるようになることが活動の目的だからだ。2時間のうち1時間は学校から貸し出されるタブレットを使用した学習に取り組んでもよいことになっている。

これで週6時間の勉強時間が確保できる。放課後学習活動がある日は当然ながら部活はできない。

放課後学習活動を開始した2016年当初は、中1〜3の希望者を対象にしていた。しかし想像に難くないことであるが、参加すべき生徒ほど帰ってしまうというジレンマがあったため、2018年からは中1に関しては全員参加にした。

「成果が上がっている生徒もいれば、正直言って、せっかく2時間教室にいても真剣に取り組めない生徒もいます。でもそこであれやれこれやれと指示を出してしまうのでは、この活動の目的から外れてしまいます。目先のテストの点数を取らせるためにやっているのではなく、自ら勉強計画を立て遂行する習慣をつくるためにやっているわけですから」と中学教頭の廣瀬政幸さんは言う。

ちなみに藤嶺藤沢では授業の始業と終業のチャイムが鳴らない。これも、自分自身で常に時間を意識して行動できるひとになってもらうためだ。ロッカーの鍵もない。普段見えない部分も整理整頓する習慣を身につけるため、そして仲間との相互の信頼関係を感じるためだ。

高校生たちは部活をやっているが、中1は勉強中
高校生たちは部活をやっているが、中1は勉強中

中3で校外勉強合宿、高1〜2は校内勉強合宿

中3全員を対象に、「勉強合宿」も行っている。世の中一般の中学3年生が高校受験勉強で必死になっているときに、中高一貫校生もたまには1日中勉強漬けの日を経験してもいいのではないかという発想で始めた。

湘南国際村で3泊4日。1日約10時間勉強漬けになる。最終日には「合格判定テスト」があり、合格するまで帰してもらえない。「これが結構なプレッシャーらしく、2度、3度と落ちると顔が青ざめていく生徒もいます。涙を流して悔しがる生徒もいます。最初からあきらめている生徒もいますけど(笑)」と廣瀬さん。

高1〜2では、湘南国際村での「勉強合宿」は希望制になるが、それとは別に各学期に1回、平日に2泊3日、学校での「勉強合宿」を全員参加で行う。通常通りの時間割をこなしたうえで、放課後にそのまま学校に残って勉強を続け、夜は校内の宿泊施設に泊まり、翌朝そこから“通学”するのだ。

「校内での勉強合宿は私がここに勤め始めたときにはすでに実施されていましたから、いまではかなりの歴史がある学校行事ということになります。家庭学習のやりかたをチェックしたり、見直したりする機会です」(廣瀬さん)

ちなみに勉強合宿以外にもさまざまな宿泊行事がある。海外へ行くことも多い。中3では希望制で4泊5日の上海研修旅行を実施する。うち2日間は現地の中学生の家庭にホームステイさせてもらう。高2では台湾やベトナムなどの国々を選択制で訪問する。中3と高1にはオーストラリアまたはニュージーランドへの語学研修旅行も行っている。

定期試験前には、前回の定期試験の結果がよろしくない生徒を集めて「基礎補習」という講座も開催する。普段の授業とは別に、試験前の勉強のポイントを指導して、やればできることを経験してもらうのだ。また、各学期末の成績が出たあと、十分な学習成果が出ておらず課題提出もできていないような生徒に関しては、「特別学習指導」参加の声がかかる。要するにお呼び出し形式の補習である。

「実際には指導というよりコミュニケーションの時間です。勉強しない生徒には教員とのコミュニケーションの時間を多くとってやるのがいちばんなんです。しつこく『勉強しなさい』と言うよりも、気持ちをこっちのほうに向けてやることが肝心です。呼び出された生徒たちからは恨まれますけれど(笑)」(廣瀬さん)

かつて「特進コース」を設置したことへの反省

藤嶺藤沢では、かつて1980年代後半から「理数コース」といういわゆる特進コースを設けていた時期があった。特進コースの教室にだけエアコンが設置され、日が暮れるまで勉強漬けにして、難関大学合格を目指させた。実際に東大への合格者も出た。学校としては世間からの注目を集めることに成功した。しかし、理数コースの生徒たちの、学校生活への満足度は低かった。

その反省から、理数コースを廃止し、一遍上人の教えをベースにした人間教育重視の姿勢に切り替えた。学力上位層に一層の手をかける代わりに、勉強に身が入らない生徒へのフォローに力を入れるようにした。

「東大に合格者を出す教育も学習に困難を抱える生徒に寄り添うこともできる教員がいることが、この学校の誇りだと思っています」(廣瀬さん)

理数コースを廃止したのが2011年。世の中的には特進コースの設置が盛んに行われていた時期だ。その時期に、藤嶺藤沢は何が教育の本質なのかを問い直し、あえて逆を行った。学校経営として、勇気のある選択だったと思う。

表向き派手な進学実績を出していれば、中学受験の偏差値も上がり、生徒は集まりやすくなり、学校経営は楽になる。実際多くの進学校がそうやって対外的な評判を得ようとする。しかし藤嶺藤沢はその先駆者であったがゆえ、その問題点も身をもって知っている。だからいまはその方法をあえて選ばない。

鎌倉時代に一遍上人が開いた時宗の僧侶養成学校「時宗宗学林」にまでそのルーツを遡ることができる。校地は時宗総本山・清浄光寺(遊行寺)に隣接し、生徒たちは毎朝本堂に一礼してから登校する。

誰も取り残さない手厚いフォローに力を入れる教育は、選ばれた者だけを救うのではなく、念仏さえ唱えれば誰もが極楽浄土へ行けるとして全国を遊行し、お札を配り歩いた一遍上人の信念とも重なって見える。

時宗総本山・清浄光寺(遊行寺)の境内を通って登下校する
時宗総本山・清浄光寺(遊行寺)の境内を通って登下校する

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→学校ホームページ https://www.tohrei-fujisawa.ed.jp

→この記事を首都圏模試センターのサイトで読む https://www.syutoken-mosi.co.jp/blog/entry/entry002787.php

育児・教育ジャーナリスト

1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を歴任。男性の育児、夫婦関係、学校や塾の現状などに関し、各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演多数。中高教員免許をもつほか、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験あり。著書は『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』『なぜ中学受験するのか?』『ルポ父親たちの葛藤』『<喧嘩とセックス>夫婦のお作法』など70冊以上。

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