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今季チャレンジャー初優勝で日本人3番手に。20歳になった西岡良仁の「色んな意味が込められた勝利」

内田暁フリーランスライター
三重県出身の西岡は、家族や友人が見守るなか賜杯を掲げる

「得意でないと思っていたこのサーフェスで勝てたのは、僕の今後のテニス人生においても、大きな意味を持つと思います」

豊田市で開催された、ダンロップスリクソン・ワールドチャレンジ の表彰式でマイクを握った西岡良仁は、感慨深げな表情でそう言いました。地元の三重県津市から近いこともあり、家族や多くの友人たちも見守る中、完璧とも言える試合運びで6-3,6-4のスコア、僅か54分でクドリャフツェフを破り立った頂点。勝利の直後、高田コーチ、前田トレーナー、浜浦トレーナーら西岡をサポートするスタッフは「色んな意味が込められた勝利です!」と、会心の笑みを放ちました。

サービスと強打が自慢のクドリャフツェフに対し、西岡の戦略は一貫していました。

「回転をかけて高く弾むボールを多く使い、相手に速いボールを打たせない」

その方針は、サービスでも変わりません。速いサーフェスだからこそ「コースを狙って、あえてスイートスポットを外して回転をかけた、緩いサービスを打つようにした」と西岡は言います。速いボールを待ちかまえているクドリャフツェフは、この西岡の戦略にハマります。待ちきれないように打ち急いではネットに掛ける場面が増え、同時に苛立ちからラケットを投げる回数も増えました。

サービスでポイントを奪っていくこと、回転をかけたフォアで相手を振っていくこと、リターンでもフォアから展開していくこと――今シーズン、西岡が取り組んできたそれらの課題全てをコートに出しつくした、一年の集大成とも言える大会。それら課題克服の結実は、西岡に「諦めかけていた」という今季のチャレンジャー初優勝をもたらしました。

ちなみに、去る9月で20歳を迎えた西岡にはもう一つ、取り組んできた課題があります。

「二十歳になったんだから、もっと大人になりなさいって皆さんから言われてきました」

苦笑いを浮かべるその背景には、ここに至るまでの兵庫や慶應チャレンジャーで、審判と揉めてしまったことがあります。

「耐えなさいって、たくさんの方から説教して頂いて……」

いくぶん大人っぽくなった顔から八重歯をこぼして、白状する西岡。

その「大人になった」姿は、決勝戦の開始早々に見ることができたでしょう。西岡のフレームショットが、相手コートに入って高く跳ねた場面。クドリャフツェフはスマッシュをミスすると、「フレームショットが入ったのだから、謝れ」と言ってきます。しかし西岡はそんな不条理な要求をサラリとかわすと、淡々と自分のプレーに徹して直後のサービスゲームをラブゲームでキープ。最後まで集中力を切らせることも、相手のイライラに付き合うこともありませんでした。

冒頭に、西岡を支える面々が「色んな意味が込められた勝利」と言ったことに触れましたが、コーチ陣は、中でも最も大きいのが「メンタル」だと言います。そんな大きな勝利を手にした西岡がシーズン最後の大会として挑むのは、今週、中国で行なわれる全豪オープンワイルドカードプレーオフ。

「完全なアウェーで精神的にも厳しいでしょうが、今まで中国人が勝ってきている状況を崩したいですね」

強い気持ちで、全豪オープン出場権獲得を胸に期する西岡。

「がんばって!」

会見の最後に掛けた言葉に、「がんばります!」と左手を掲げて応じると、西岡は次の戦地に向かって行きました。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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