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トップリーグ今夜開幕! 19年W杯代表への壮大な「セレクションマッチ」を楽しもう!

永田洋光スポーツライター
ヤマハに復帰した五郎丸もジャパン安泰ではない?写真は15―16年度3位決定戦(写真:アフロスポーツ)

ジャパンのセレクター気分で観戦を楽しもう!

 今季のジャパンラグビートップリーグをどう見ると楽しいのか。

 答えはムチャクチャ簡単だ。

 誰が2019年に日本で開催されるW杯の日本代表にふさわしいか――それだけを考えて、試合をじっくり見てみよう。細かいプレーなどわからなくても、自然に姿が目に入り、何試合か見ているうちに「日本代表でプレーするところを見てみたい!」と思うようになった選手は、ほぼ間違いなく代表に入る。これは、いい加減なようでいて、案外外れない法則だ。

 つまり、トップリーグは、ひいきチームを応援するのも楽しいが、それに加えて、観客1人ひとりが日本代表のセレクターになったつもりで試合を見ると、楽しみが倍加する。

 なぜなら、今季のトップリーグ全体が、19年W杯に向けた長丁場の「セレクションマッチ」であるからだ。

 W杯までの代表強化のロードマップは、おおむね次のようになる。

 これまでに実績を積んだ選手と、17―18年度のトップリーグで活躍した選手が中心となって、18年度の日本代表候補となる。そして18年度は、翌年にW杯が開催されることを考えれば、チームの強化を飛躍的に加速させるシーズンだ。戦い方の根幹をなす戦略だけではなく、細かい戦術や、1人ひとりの具体的な役割が決められて、それをどこまで高い水準で果たせるかが問われることになる。

 当然、代表に入れなかった選手は、チームの戦い方を習得するのに大きなハンディを背負い、19年に向けた最終メンバーに入りづらくなる。

 だから、今シーズンが、何にも増して大切なのだ。

 男子15人制日本代表の強化を統括する薫田真広強化委員長は、17年度を、19年を見据えて選手を試す最後の年と位置づけていた。そこで発掘した選手をふるいにかけ、18年度に代表チームの骨格を作り上げる。そのために、来春のサンウルブズは今春のように選手をとっかえひっかえせずに、ある程度メンバーを固める方向で進むだろう――というのだ。

 たとえば、15年W杯で国民的なヒーローとなったヤマハ発動機ジュビロの五郎丸歩にとっても、19年W杯に向けて今季は一発勝負のような厳しさで――つまり、失敗が許されないという意味で――パフォーマンスが問われることになる。

 今現在、代表で15番を背負う可能性があるのは、トップリーグではサントリーサンゴリアスの松島幸太朗と江見翔太。このうち、松島には抜群のスピードとキレのあるステップという大きな武器がある。しかも、トップリーガーではないが、東海大学4年生の野口竜司もディフェンスでの安定感とアタックが評価され、代表の15番候補に名乗りを上げた。五郎丸でさえ、持ち味のキック力と、ディフェンスの安定性で大いにアピールしないと、代表に食い込むのが難しい状況なのだ。それだけ、W杯以降に選手たちのレベルが上がったのである。

 その五郎丸は、今夜18時キックオフのトヨタ自動車ヴェルブリッツ戦(豊田スタジアム)でトップリーグ復帰を果たす。

代表同士のガチンコ勝負も見所の1つ

 日本代表選手同士が、同じポジションで直接対決するのも、トップリーグの魅力の1つ。

 たとえば、19日に秩父宮ラグビー場で行なわれるクボタスピアーズ対パナソニックワイルドナイツ戦(18時30分キックオフ)では、W杯で大活躍したクボタの立川理道と、今春のジャパンで10番としての可能性を感じさせた松田力也が、同じ12番をつけて直接対決する。

 12番は、攻守に体を張ることが要求されるハードなポジションである上に、パスのスキルや相手防御のギャップを見抜くセンスが求められる。そんな難しいポジションで、ジャパンの“大御所”と“若手”がガチンコでぶつかるのだ。

 もちろん、パナソニックは、堀江翔太、田中史朗、福岡堅樹、山田章仁といったジャパン組がずらりと顔を揃え、しかも、10番にベリック・バーンズという確固たる司令塔がいる。その分、松田がボールを多く持って立川が防戦に追われることが考えられるが、そういう劣勢のなかでのパフォーマンスもまた、代表の座を確実に射止めるためには大切なのである。

 あるいは、もう今夜の話になるが、やはり秩父宮で行なわれるキヤノンイーグルス対サントリーサンゴリアス戦(キックオフは19時30分)では、W杯で10番を務めた小野晃征と、やはりW杯メンバーで、今春のサンウルブズやジャパンで10番を背負った田村優が、同じ10番同士で直接対決する。

 特に田村は、今季NECグリーンロケッツからキヤノンに移籍したばかり。新しいチームでの公式戦デビューというわけだが、短期間の練習でどこまでチームメイトのクセや特徴をつかみ、それを活かすことができるかどうか。実はこれも、10番に求められる大切な能力の1つだ。

 対する小野が、ずっと馴染んだチームメイトを使ってゲームを組み立て、しかも12番にオーストラリア代表で活躍したマット・ギタウという名手が控えているのと、好対照なのがより一層興味をかき立てる。

 FWは、ラインアウトのボール争奪戦に注目すると、面白さが増す。

 トップリーグで最長身選手は、身長208センチのアンドリース・ベッカー(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)だ。201センチのアイザック・ロス(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)もいて、こうした高さがW杯で戦う際に克服しなければならない水準となる。

 それに対して、日本代表では、W杯のときのトンプソン・ルーク(近鉄ライナーズ)やマイケル・ブロードハースト改めブロードハースト・マイケル(リコーブラックラムズ=日本国籍取得で改名)が196センチ。真壁伸弥(サントリー)や大野均(東芝ブレイブルーパス)は192センチだった。

 現在の代表候補で言えば、キヤノンのアニセ・サムエラが198センチともっとも背が高いが、それでもベッカーに比べればマイナス10センチ。これだけ身長差があるなかで、ラインアウトのボールを競り合い、マイボールを確保しなければ、W杯では戦えないことになる。

 そのなかでどんな選手が、2メートルクラスの長身選手と渡り合ってボールを確保するのか。ジャンプのセンス、相手との駆け引き、そういったところで優れた選手が今の日本代表では求められている。だから、ラインアウトが面白いのだ。

ルーキーたちは今季が一発勝負のセレクション!

 今季のトップリーグ13試合が、ほぼ“一発勝負”のセレクションとなるルーキーも、可能性に満ちた選手が揃った。

 今夜ヤマハと対戦するトヨタは、ルーキーの姫野和樹がいきなりキャプテンを拝命し、6番で先発出場する。帝京大学時代から、トップリーグのチームを相手に力負けしない豪快な突進が印象的だが、これからは毎週トップリーガーとしてのパフォーマンスが問われることになる。また、姫野をキャプテンに抜擢したのが、南アフリカを率いて07年W杯で優勝したジェイク・ホワイトHCというところが、なにやらものすごく深い理由があるような気がしている。

 東芝は、鹿児島大学から今春入社した中尾隼太を、明日のNEC戦でいきなり先発10番に起用する。こちらは、12番に元ニュージーランド代表のリチャード・カフイが控えているのでチームとしてリスクをヘッジした形だが、この起用を決断したのが、男子7人制日本代表監督として7人制代表を率い、昨年のリオデジャネイロ五輪でニュージーランドを破って、もう少しで銅メダル……というところまで導いた瀬川智広監督。こちらは、10年度以来の再任となる。

 さらに、帝京大学の8連覇を象徴するように、第1節では、前述の松田の他に、バックスのユーティリティ・プレーヤーとして活躍した重一生(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)も、NTTドコモレッドハリケーンズ戦で13番で先発デビューを果たす。コンビを組む12番が、日本代表の山中亮平というのも非常に興味深い。

 かくしてトップリーグは今日開幕し、13試合を経て、19年に向かう日本代表の輪郭が見えてくる。

 だからこそ、今シーズンは、1人ひとりの観客が「代表セレクター」として楽しめるのだ。

 

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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