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日立の意図とは違う新聞の見出し

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

1月25日、日立製作所は「風力発電システム事業の強化について」と題したニュースリリースを発表した。ところが、同日夕方の日本経済新聞は、「日立、風力発電機の生産撤退」という見出しの記事を報じた。これを見て、「あれっ?」と思わず叫んでしまった。全く否定的に捉えていたからだ。なぜ、こうなるのか。

実は、日経の見出しに間違いはない。かといって、日立が風力発電システム事業を強化することも間違いではない。しかし、見出しをパッと見て一つはポジティブ、もう一つはネガティブに見える。つまり、視点が全く違うということである。だから全く違う見出しに見えてしまうのだ。

事実はこういうことだ。日立は今後、風力発電機そのもののハードウエア部品を生産せず、これはドイツのEnercon社の発電機を使う。そして日立はIoTと同社のプラットフォームであるLumadaを駆使し、発電機から産み出させるたくさんのデータをコアとするビジネスに変えることを宣言した。発電機にはIoTを多数取り付け、そこからのデータを取得する。発電機そのものはグローバルな競争になり、メジャーなプレイヤーに絞られてきたようだ。このため、トップを取るために努力するより、発電機が生み出す膨大なデータを利用して顧客の価値を提供するビジネスに変えるのである。ハードウエアの生産からは撤退するが、今後期待が大きいデータビジネスには積極的に参加していくことになる。

風力発電機そのもののビジネスでは、高さが200メートルを超える超巨大なモノに変わりつつあるため、投資も時間も増えてくる。日立はハード部品での競争を止め、データサービスで稼ぐ方向にビジネスの中心を切り替える。だから「風力発電システム事業を強化する」とした。また、風力発電機が他のビジネス同様、シェア1位か2位でないと競争できないような体力勝負となれば、もはや日本の総合電機の出番ではない、と日立は判断したのであろう。風力発電機というハードウエアに資金も人材もかけるよりは、データビジネスに投資する方がさまざまな分野へも応用がきくからだ。

だからといって、新聞が生産撤退という見出しを付けるのはどうか?少なくともIT系に強い日経新聞はモノづくりよりもIT系やデータを重視しているはずではなかったか。データは未来の石油ともいわれており、先端的な米国企業は、データビジネスへの転換を急ぎ、デジタルトランスフォーメーションをリードする方向に向かっている。日立もデータは石油なりの方向へ舵を切っている。このように捉えても良かったのではないだろうか。

英国への原子力エネルギーの輸出に関してもコスト的に合わないと日立は見積もっている。これまで日本国内で原子力事業をやってきて、原子力はエネルギーコストが安い、と風潮されてきたが、リスクコストを全く見てこなかったからだ。3.11の福島原子力発電所の爆発とそれに伴う放射能汚染などのリスクを配慮すれば原子力のコストは決して安くない。石油や再生可能エネルギーではリスクコストはそれほど考慮しなくても済むが、原子力は万が一のリスクを配慮したコスト計算を含めることは世界の常識である。リスクは政府に見てもらう、といった態度では世界に輸出できないことを英国政府から教訓として学んだのである。日本政府のようにリスクは政府が面倒見てくれる、といった甘い態度は世界では通用しない。だから、ハードウエアでコストがかかりすぎるマシンからは撤退する、と決めた。

風力発電ビジネスでは、コストのかかるハードウエアを回避して、データビジネスで稼ごうと日立は力点を変えたのだ。この点を新聞は理解しようとせず、ネガティブなイメージで風力発電機の生産から撤退、という見出しを付けた。むしろ、日立がデータビジネスへのシフトにより、未来へ切り開こうとしている努力を垣間見ることができると思う。

(2019/01/31)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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